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一年生・秋の章<それぞれの一週間>

ルイの悩み⑤

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「よし。後はこれで……」


 フィンの女装を解くため隠れ家的ブティックに戻ったセオドアは、フィンが着替えやメイク落としをしている間にVIPルームでとある物を作成していた。


「それっぽいな」

「だろーっ?」


 セオドアは淡いピンクのリボンを少しボロボロに切り裂き、少し湿らせたり土をつけて汚したりする。


「こんなもんかな」


 セオドアは仕上げに血のりを少し付けた物をルイに見せて得意げに笑った。


「いい感じだな」


 ミシュリーが死んだことを思わせる、謂わば遺品のようなものをわざわざ作成し、小さな箱にとある内容が書かれた手紙と一緒に収納する。


「これをリュシエンヌに送れば、次の日にはルイの前からいなくなると思うよ」


 セオドアは親指をグッと立てて舌を出した。


「ああ。一番平和的な方法だ」


 公爵家であるルイでも王族に進言するということは難しく、王族の尊さを学んでいることも余計に作用してなかなか王族に仕えるリュシエンヌを追い出すことができなかった。王族に仕えるメイドが気に入らないと言えば、王族に対する侮辱だと捉える者がいるかもしれない。
 ルイの立場は非常に立ち回りが重要で、少しでも他の貴族に指摘されるような事を起こしてはならないと考えていた。
 そのため、リュシエンヌ自らの意志でルイから離れていくということが平和的解決方法だと語る。


「意外とそういうとこ気にするんだねールイは」

「回り回って父上にボロを見せるのだけは避けたい。王城で失敗はしたくないんだよ。まあお前らに迷惑かけちまって申し訳ないけどな……」


 仲が良くない父親に隙を見せたくないと言うルイ。


「迷惑どころか楽しかったよ?俺は」

「俺は解放感でいっぱいだ」


 そう言って笑うルイに、セオドアも声を出して笑う。


「お待たせ~」


 そこへ、着替えてメイクを落としたフィンが登場すると、二人はようやく終わったと安心した表情を浮かべる。


「フィンちゃん本当に頑張ったね?」

「悪かったなフィン」

「ルイくんのためだもん、全然平気だよ?それになんか、三人で計画立てて動くのが楽しかった……ふふ」

「ほら、フィンちゃんも楽しかったってさルイ」

「……女装して楽しかったのか?」

「ちっちがうよ!みんなで力を合わせたのが楽しかったのー」


 フィンはぷくーっと頬を膨らませてポカポカとルイの腕を優しく叩くと、ルイは可笑しそうに笑った。


「悪い、冗談だ」

「いや、でもあの女装本当に傑作だったよね。少しだけど街を歩いたから、話題になってるかも」


 セオドアはにまーっと笑いながらフィンを見ると、フィンは困ったように笑みを見せた。


「え、えぇっ?そんなにかなぁ?」

「明日の新聞載ったりしてな。誰かが盗撮した写真で、謎の美少女発見って」

「えー!?」


 フィンは有り得ないよ、と呟いて笑うと、ちょこんと椅子に座りセオドアが持っていた箱を指差す。


「それ、完成?」


 フィンが手紙と遺品もどきが入った箱を指差す。


「そうだな。後はこれをアレクシに頼んでコッソリ送ってもらえば終わりだ」

「手紙はなんて書いたの?」

「簡単な内容だよ。手紙の書き主は匿名だが、王城に仕える身っていう設定だ。
 リュシエンヌの行動を怪しんで後をつけたら、ミシュリーと御者の殺人の現場を見た。バラされたくなければ即刻王都から姿を消せ、これが証拠だ、みたいな感じで遺品もどきも入れてる。
 リュシエンヌは優秀だが敵を作る性格でもあるから、かなり信憑性もあると思うな」


 ルイは箱を丁寧に包み、小さく笑みを浮かべて続けた。


「リュシエンヌにとっては、ルイ・リシャールに殺人がバレるのは避けるだろう。それも、俺は恋人のミシュリーを溺愛している設定だからな」




-----------------------------------------------


 深夜になると、リュシエンヌの部屋に一つの怪しげな箱が届いた。リュシエンヌは寝巻き姿でその紐を解くと、中を見て呼吸が止まる。


「っ……!」


 見覚えのあるリボンは、少し濡れており、汚れと多少の血液が付着していた。


「これは、もしかして」


 ミシュリーのリボンでは無いか。リュシエンヌは口に出さずそう考えると、同封されていた手紙を急いで開封した。


「っな、これは……」


 リュシエンヌは青ざめた顔色に変わり、手を震わせて慌ててスーツケースに最低限の荷物を詰め始めた。


「冗談じゃない……!庶民でもルイ様の恋人。それを殺したとなると私は確実に死刑よ」


 リュシエンヌは冷や汗をかきながらすぐに着替える。


「一体誰が見ていたと言うの?」


 自分を嫌う者は知っている。しかし見当もつかない。


「ルイ様……ルイ様と離れなきゃなんて……」


 リュシエンヌは苛々した様子で荷造りをしていたが、やがて悲しげな表情に変わり、涙をポロポロとこぼす。

 ルイを振り向かせるために色々な事をした。
 元々はルイの担当を予定していなかったが、汚い手を使って担当を引きずり下ろし城を辞めさせたことから始まり、事あるごとにルイの世話を進んで行った。好きなものも何もかもリサーチし準備をした。
 媚薬を仕込んだこともあったが、ハイエルフのルイに効果を出させるためには量が足りなかった。

 気高く、ミステリアスで、非の打ち所がない彼が自分に振り向くなんて全く思っていなかった。それでも、努力が好きな彼が、同じように努力する自分を見ればチャンスはあるはずだと直向きに、そして狡猾に過ごしていたのだ。

 それなのに、たかが庶民が横から彼を奪い取った。

 意外にもルイが選んだのは、朗らかでひ弱そうで、一人じゃ何も出来ない小動物のような女。それが余計にリュシエンヌを腹立たせた。


「……」


 荷造りを終えたリュシエンヌは、ルイの部屋の前に行き立ち止まる。







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