大魔法師様は運命の恋人を溺愛中。〜魔法学院編〜

みるくくらうん

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一年生・秋の章<それぞれの一週間>

うぉーあいにー⑩

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「ど、童貞って……」


 シャオランは困った表情を浮かべると、フォンゼルは何か思いついたような表情をしニヤリと表情を変えた。


「ねえ、シャオくん。ボクが初めてちゃうやろ」


 図星をついたフォンゼルの問いかけに、ドキッとするシャオランは目を泳がせた。


「…………」

「怒らへんからゆーてみィ」


 少し低い声色のフォンゼルに詰められると、シャオランは少しの間の後諦めたように口を開いた。


「…………はい、そうです」


 シャオランが肯定すると、フォンゼルは軽く笑う。


「やっぱりなぁー。ボクで何人目?」

「っそ、そんなこと聞いてどうするんですか?」


 シャオランは気まずそうに眉を顰め、空を見上げることもせず困った顔で目を閉じる。


「なんか気になるやん。教えて?」


 フォンゼルは内心は嫉妬しているのか、それを隠すようにけろっとした表情でそう言って退けた。


「……一人だけです」

「ほんまに?」

「はい」

「おとこ?おんな?」

「えっ」


 シャオランは驚いた表情でフォンゼルの方を向いて口を開く。


「フォンゼルさん……そんなこと聞かないでください」

「過去やしええやん」

「もー……」

「ほら言うてみーこの色男ー」


 フォンゼルはむにむにとシャオランの頬を摘んでじとっと睨む。


「うっ……その、女性です」

「ふーん。彼女やったん?」

「いえ……こ、婚約者です」


 シャオランが気まずそうにそう言うと、フォンゼルはガバッと起き上がり目を丸くする。


「な、な、」


 狼狽えるフォンゼルに対し、シャオランもまた同じように起き上がって慌ててフォンゼルを抱き締める。


「まって、落ち着いてください!この話には続きが!」

「こ、こんやっ……くしゃ……」

「“元”です!!今は婚約者ではないです!!」


 シャオランが大声でそう叫ぶと、フォンゼルはすぐに冷静になりシャオランを見つめて首を傾げた。


「ほんまに……?婚約者が本命で、ボクは留学している間の遊びとかちゃうの?」


 目を潤ませながらそう問いかけるフォンゼルに、シャオランは胸を痛ませ焦った表情で首を横に振った。


「それは有り得ません!!僕は貴方しか愛したことがない!!」


 シャオランは必死の形相でフォンゼルを見つめハッキリと否定すると、フォンゼルは安心したように息を吐く。


「説明、させてもらえませんか?」


 シャオランは沈みかけた夕陽を背に受けながら、フォンゼルに真顔でそう問いかける。


「うん。話して」


 フォンゼルは小さく笑って頷くと、シャオランの両手を握って安心させるようにすりすりと撫でた。




-----------------------------------------


 時は3年前に遡る。
 正妻の息子ではないシャオランは、義母に虐げられる日々を送っていたが、それも慣れたもので、交わすのが上手くなっていた頃。


「貴方の婚約者、鈴明リンメイよ。一年後に貴方はこの家を出て向こうの家に婿として入りなさい」


 義母に呼び出されたシャオランは、突然知らない女性を婚約者だと紹介された。長い黒髪と愛らしい顔立ちが印象的な彼女は、地方からきた令嬢だった。年はシャオランより3つ上だった。
 なぜ婚約者をあてがわれたのかは伏せられたが、噂ですぐに分かった。彼女は没落しかけた貴族の家に生まれた女性で、シャオランの家と結ぶことでなんとかそれを防ぎたかったのだろう。

 しかし、義母の性格を知っているシャオランはすぐにその策略に気付く。


「僕が正妻の息子ではないのは知ってますね。婿として体良く追い出したいだけですよ」


 時々与えられた二人だけの時間。義務のような感覚でシャオランはその時間を過ごしていたが、何度か会うとリンメイは心の清らかな淑女だと分かり、シャオランはリンメイに少しだけ心を開くようになった。
 だからこそ、リンメイには真実を知ってもらいたかったシャオランはさらに続けた。


「そちらに行っても、この家が貴方の家を助けるかは分かりません。利用されているだけだと僕は思います」

 
 シャオランは静かに真実を伝えたが、リンメイは動じることなく目を細める。


「……私はその事に気付いてました。気付いてないのは私の親だけです。それでも私は、貴方が良ければ……」


 リンメイは聡明で優しいシャオランを好いていた。

 シャオランが妾の子供だと蔑まれながら、あえて優秀さをひた隠しにして目立たないように生きていることにも気付いており、そしてこの環境でも強く生きるシャオランに惹かれていたのだ。


「確かに私の家は没落しかけておりますが……私は貴方となら頑張れると思うんです」


 リンメイはそう言ってふわりと笑うと、シャオランもつられて少し笑みを浮かべた。

 恋や愛という感情には程遠いことに変わりはない。それに、自分を嫌う義母に決められた婚約者と結婚は不本意だった。

 だが、リンメイは素直で可愛らしい女性だった。自分の身を案じてくれ、寄り添う態度で接してくれる。こんな命の危機を感じながら過ごす日々よりも、リンメイの元へ婿入りした方がマシなのだろうと思っていた矢先、事件は起こった。



「ーーーーっ」


 リンメイの口から放たれた、悲痛な出来事。
 彼女は義母の息子、つまり兄であり長男の浩然ハオランに無理矢理破瓜させられたという事実をしったシャオランは、目を見開き呆然と立ち尽くした。
 
 ハオランは義母に似て残忍な性格をしており、弟の婚約者だろうと容赦なかった。愛らしいリンメイを気に入っていたのもあるが、単純にシャオランを痛めつけるという意味もあったのであろう。
 リンメイが一人でいる隙を狙い、無理矢理犯し、まるで物のように放り出したのだ。

 泣き崩れるリンメイに、シャオランはそっと手を伸ばす。

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