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一年生・秋の章<それぞれの一週間>
うぉーあいにー⑨
しおりを挟む「ううん、ボクがあんまり沢山食べられへんから、見てて気持ちいいねん」
「フォンゼルさんは少食なんですね」
シャオランはフォンゼルに少しだけ炒飯を装うと、笑みを浮かべ差し出す。
「東方の料理は、何人かで食事を摂るときはこんな風に大皿で頼んで取り分けるのが一般的なんです。これなら色々な種類のものを食べられます」
シャオランは喋りながらも器用に他の料理を少しずつフォンゼルに分けてあげ、量を調整し多くならないようにしていった。
「わー、シャオくんおおきに」
「おおきに?」
「ありがとうって意味ー、ほんまに優しいね」
フォンゼルは素直に笑みを浮かべると、シャオランは少し顔を赤らめ目を逸らしつつ微笑む。
「大袈裟ですよ。フォンゼルさんは辛いのは大丈夫ですか?これは少し辛いかと思います」
シャオランは麻婆豆腐を指差す。
「うん、いけるよー。ただなぁ、お腹の中の変化草が嫌がると食べすぎたら吐いてまうねん。小籠包は好きみたいやけど、他のはどうやろうな。もし嫌がったら堪忍な」
フォンゼルはパクッと炒飯を口にする中、シャオランは麻婆豆腐を少しだけ取り分けてフォンゼルの方へと置くと、驚いた表情で問いかける。
「貴方が好きだと思っても、変化草が拒絶したら二度と食べられないんですか?」
「そゆことやね。ボク、割と甘いものが好きやったんやけど、この子が嫌がるからもう長いこと食べてへんのや」
フォンゼルは自分のお腹を撫でて笑いながら答える。そして炒飯を咀嚼し飲み込むと、またもや目を輝かせた。
「ちゃーはん、うまいなぁ!お米なんて初めて食べたわ」
「こちらはパンが主食ですもんね。カメレオンさんも美味しいと思ってますか?」
シャオランは不安げに問いかけると、フォンゼルは笑いながらお腹をさすった。
「うん。いけるゆーてるよ。てか“カメレオンさん”てなんやねん、ウケる」
「意志があるようなのでつい」
シャオランはポリポリと頬をかきながら照れ笑いを浮かべ、今度は春巻きを指差す。
「これはどうでしょう。サクサクしています」
「パイみたいな?」
「そうですね……東方のパイです」
シャオランは少し悩んだ後にそう答えると、フォンゼルは箸を不器用に使いながらなんとかパクリと春巻きを齧る。 すると、またもや目を輝かせてシャオランを見た。
「これもうまー!」
フォンゼルが楽しそうに食事をする様子に、シャオランは思わず箸が止まり釘付けになる。いろいろな料理を薦めては美味しそうに食べる様子を見る繰り返しの中、とうとうフォンゼルは相手の箸が止まっていることに気づいて苦笑した。
「もー、シャオくんも食べなあかんよ?」
「っあぁ、ごめんなさい。こんなに食事が楽しいのは初めてで」
シャオランはそう言って幸せそうに笑うと、フォンゼルは胸が締め付けられる思いになり目を細めた。
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それからの二人は、いろいろなお店に行ったりしひとしきりデートをすると、最後は王都を見渡せる高台に箒で移動をし、木でできた丸椅子に座って夕陽を眺めていた。
「それにしても、ひさびさこんな遊んだわー!シャオくん、こっちで服を仕立てたの初めてなんやね?東方の服も似合うけど、こっちの服の出来上がりも楽しみやわ」
フォンゼルは突発的に草むらに寝転がり楽しそうに話し始めると、シャオランもその横に行ってあぐらをかき座り始めた。
「僕の顔立ちじゃ似合わないのかなーって思ってましたが、フォンゼルさんのプレゼントだし、ありがたく沢山着ますね」
ローザリオンとグンロンではエルフの人種もまた異なるため、顔立ちも違う。それを気にしていたシャオランだが、フォンゼルがいかにその顔立ちが魅力的であるか力説し、似合う形や色をチョイスしてもらい、西方の貴族服を仕立ててもらった。
「ボク結構おしゃれ好きやからー、見立てに間違いないよ。シャオくんは髪の毛も目も真っ黒やから、案外派手な色が差し色になって似合うねん」
「届くのが待ち遠しいです」
シャオランは照れ笑いを浮かべフォンゼルを見下ろすとさらに続けた。
「色々と案内していただいて、今日は本当にありがとうございます。こんなにただただ楽しいだけの一日は本当に久しぶりで……すごく、嬉しかったです」
ポツリとお礼を言う姿が少し切なげに見えたフォンゼルは、シャオランの腕を思い切り引っ張る。
「……ねー」
フォンゼルは想いに耽るシャオランに対し、何か言いたげな表情を浮かべる。
「はい」
引っ張られたことで驚いたシャオランは、少し目を見開いてフォンゼルの方を見た。
「もっとこっち、来て」
自分の横に転がるように指示するフォンゼル。シャオランは言われた通り寝転がると、空を見上げてから横を向いてフォンゼルの頭を撫でた。
フォンゼルは意表を突くようにシャオランの胸元部分の服を掴むと、そのまま引き寄せてキスをする。
「っ!?」
シャオランは思わず目を見開くも、やがて目を細めそれを受け入れた。
フォンゼルはゆっくりと唇を離し、ジッとシャオランを見つめる。相手は少し照れたように笑い、自身の唇を親指で触れ目を逸らす。
「ほんまに、エッチの時は豹変するくせに、こうしてる時は童貞みたい」
フォンゼルはクスクス笑ってシャオランの鼻先を指でつついた。
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