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一年生・秋の章<それぞれの一週間>

うぉーあいにー①

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「返事こんなあ……。何回も伝書鳩飛ばしとるのに」


 寄宿先の屋敷に住むフォンゼル。
 連休が始まって数日。今日は思い切ってシャオランに朝にも昼にも夕方にも伝書鳩を飛ばしたものの、夜になっても返事が返ってこずフォンゼルは溜息を吐く。


「フォン?今日はずっと溜息ばかりやね」


 兄のティオボルドは、寝る前の習慣であるカモミールティーを飲みつつ苦笑する。


「うーん……シャオくんから返事がこーへんから」


 フォンゼルはしょぼんとした表情で窓を見つめた。


「送り先間違うとるとか、用事あったりとかやないの?」


 ティオボルドが宥めるようにそう問いかけると、シャオランは寂しそうな表情を浮かべた。


「そやなぁ……。まー今日は寝るわ、ほなおやすみ」

「え!?まだ9時やん、珍し……おやすみー」


 ティオボルドはフォンゼルの猫背を見送りキョトン顔を浮かべる。

 ティオボルドの反応からするに、フォンゼルは普段夜更かしをするタイプなのだろう。しかし今日のフォンゼルは起きているだけ辛いというもの。早く寝て何も考えないようにしたいのか、フォンゼルは自室に戻りベッドに入って月明かりを眺めた。


「恋人になったはええけど、時間経ってやっぱ思い直したとか?……あかん、泣けてきた」


 よほどシャオランが好きなのか、フォンゼルはひたすらシャオランのことを考えるが、脳内でどんどん悪い方向に進んでしまい目を潤ませ毛布をかぶる。


「……シャオくんやさしーから、ほんまは付き合うつもりなかったけどボクが強引やから断れへんくて、でもやっぱ付き合うのはあかんくなって、自然消滅狙ってるんちゃうん」


 毛布の中でそんなことを呟くフォンゼル。
 すると、窓を突く音が聞こえ、フォンゼルは毛布から顔を出した。



「へ?カラス?」


 フォンゼルは不思議に思いながらもベッドから出て窓を開ける。すると、カラスは首元にぶら下げた文を差し出すようにフォンゼルに近付いた。


「……もしかして!」


 フォンゼルは慌てて丸まった文を回収して中身を読む。
 そこには一言、“下を見て”という文字。


「?」

 
 フォンゼルは言われた通り、3階にある自室の窓から少し身を乗り出して下を覗き込む。そこには、暗くとも認識できるぐらいに月明かりで照らされたシャオランが笑みを浮かべ手を振っていた。


「っ……シャオくんやぁ!」


 フォンゼルは満面の笑みを浮かべ、思わずシャオラン目掛けて窓から飛び降りた。


「な!?」


 シャオランは慌てた表情を浮かべ両腕を出しフォンゼルを受け止めると、そのまま後ろに倒れる。フォンゼルはシャオランを押し倒すような形になった。


「フォンゼルさん!!!貴方何を考えてるんですか、危ないでしょう!?」


 突然飛び降りてきたフォンゼルに対し声を荒げるシャオランだったが、フォンゼルがぽろぽろと泣いていたため言葉に詰まり首を傾げる。


「ちょ、フォンゼルさん……?どこか怪我でも?」


 慌てるシャオラン。


「もう会ってくれへんのかと思ったぁ」

「へ?」

「全然返事くれへんしー、ほんまはあんま好きちゃうのかなぁって」


 フォンゼルが意外にも恋愛に対し繊細な感情を持っていたことに驚くシャオラン。とりあえず相手を宥めるため、自身の胸元に相手の頭がくるようにそっと抱き締めた。


「すみません……案外副作用が響いていたようで、数日は泥のように寝てしまっていて。今日なんて、起きた時にはもう月が見えてました」


 シャオランは仰向けの状態だったため、必然と月を眺めながらフォンゼルを抱き締める。
 月明かりに照らされたフォンゼルの髪を見て、白い輝きを放つ姿が美しいと思いながら目を細めた。


「そーなん?……なんやぁ、寝てたんやね。もう大丈夫なん?」


 フォンゼルはごしごしと目を擦って涙を拭くと、安心したように笑みを浮かべシャオランに馬乗りになって相手の上体を起こすため手を差し出す。
 シャオランはその手を掴み上体を起こすと、フォンゼルの腰を抱き締めて笑みを浮かべた。


「はい。かなり良くなりました。返事を書こうかと思って筆を握っていたのですが。こうして会った方が良いかと思いまして」

「……」


 一重で切長の鋭い目だが、優しい視線。その目でみつめられたフォンゼルは、ドキドキと胸を高鳴らせ少し顔を赤らめた。


「意外とこういうこと、するんやね……」

「意外でしたか?驚く顔が見たかったのかも」


 シャオランはちょんちょんとフォンゼルの頬を撫でて小さく笑うと、フォンゼルをお姫様抱っこして部屋の窓を見上げた。


「窓に屋根が付いているタイプですね。これなら登れる」

「え?登るん?」


 シャオランは何度か飛び跳ねて準備運動をしてから、助走を付けて思い切り走り壁を駆け上がって屋根伝いにフォンゼルの部屋を目指す。


「わっ!」


 フォンゼルが驚いている間にもあっという間に部屋にたどり着いた二人。シャオランはそっとフォンゼルを床に下ろした。


「今の魔法無しやんな?」

「そうですよ。身体能力だけです」


 シャオランはクスクスと笑うと、フォンゼルは感心したような表情を浮かべていた。


「まさか恋人の部屋に、窓から入るなんて僕もびっくりですが」

「(恋人って思ってくれてる……嬉し)」


 シャオランは、照れ笑いをするフォンゼルに気付くことなく、初めて入る部屋を眺める。


「ん……もしかして寝てました?部屋が暗いですね」


 部屋の中でキャンドルすら焚かれていないことに気付いたシャオラン。


「拗ねてたー。さっきまでそこで、毛布被ってシャオくんのことずっと考えとったよ。朝も昼も夕方も伝書鳩送っとるのに返事こんくて、フラれたんかなとか」


 フォンゼルは少し俯き加減で唇を尖らせる。あの時の強引さからが想像できないぐらいに、目の前にいるフォンゼルは
不安げになっている様子だった。


「……そこまで考えてくれていたなんて。ごめんなさい、スレクトゥの寮は警備が厳重なので、伝書鳩が直接窓にこれないようになってるんです。起きて自室のポストを見たら三通も来ていて驚きました」


 朝に来た手紙は、“今日デートしたい”という内容。昼に来た手紙は、“忙しいみたいだね、デートは今度で良いから、空いてる日教えてよ”という内容。
 そして三通目はただ一言、“ボクのこと嫌いになったん?”という一文だった。


「三通目の手紙を見て、会いに行かなきゃと思ったんです」


 シャオランは優しい声色でそう言ってフォンゼルを見下ろすと、フォンゼルは照れながらも小さく笑みを浮かべた。










 
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