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一年生・秋の章<それぞれの一週間>
酔いどれ天使が堕ちる夜⑤
しおりを挟むそれに気付いたリヒトは、フィンのほんのり赤く温かな頬を撫でる。ふわっとした赤ん坊のような頬に癒されたリヒトは目を細め安心したような表情を浮かべた。
「フィン。ごめん、起こしちゃったね」
フィンはリヒトの言葉が聴こえているかどうか分からない表情で、ただただうっすらと目を開け潤んだ瞳でじっと相手を見上げる。そのまま上半身をゆっくりと起こし、ぼーっとした表情でリヒトを見つめ続けた。
「(あれ、僕いつからねてたんだろ……?記憶がないや……すごくぼーっとする)」
思い出そうとしても、アルコールのせいなのか思考が低下し記憶も曖昧だったため、フィンはぼーっとしたまま首を傾げる。その仕草が愛らしいと感じたリヒトは、少し悶えながらも口を開いた。
「……フィン、大丈夫?飲み過ぎかな」
心配するリヒトに対し、フィンは可愛らしいしゃっくりで返事をする。
「ふふ、お水飲もうか(しゃっくりまで可愛いな)」
「んん……おみず、のむ」
口渇感を感じたフィンは、しゃっくりをしつつリヒトの提案に頷くと、リヒトは指を鳴らした。テーブルにはあっという間に水差しとコップが出現すると、リヒトは水をコップに注いでフィンにそっと手渡す。
「持てる?」
「もてる」
フィンはそれを持とうとするも、手元がおぼつかない様子で落としそうになる。
「持てないね」
「うう」
「俺が飲ませてあげる」
リヒトはクスッと笑いコップを持ってフィンの唇に飲み口を優しく押し付けると、ゆっくりと傾ける。
「ちょっとずつ飲んで。零してもいいからね」
フィンはリヒトの心地の良い低い声色を聞き、ごくごくと上手に水を飲む。しかし、途中から気を抜いてしまいだらだらと口端から水を零していった。
「あ……こぼしちゃった」
フィンはそう言って瞳を震わせ怯えたようにリヒトを見る。
奴隷だった時、失敗をするとよく叔母のリラに怒られていたことを思い出したフィンは、酔っていることもあり自分の粗相に敏感に反応してしまった。
「ごめんなさい」
リヒトは謝るフィンを見ると目を細め、安心させるように優しく抱き締める。
「怯えないでフィン。こんなことで怒ったりしない」
リヒトがフィンの背中を撫でながらそう言い聞かせると、フィンは安心したように表情を緩ませリヒトを小さく抱きしめ返す。
「世界で一番愛しているよ」
抱きしめながらも、無敵の愛の言葉をフィンに惜しみなく捧げるリヒト。
温かくて大きな背中。落ち着く香り。耳触りの良い優しい声色と、滑らかで輝く銀髪。フィンはリヒトのひとつひとつを感じ、今この瞬間それらは全て自分のためだけにあると感じたフィンは、こんなにも愛されているのかと思いを赤くしながら胸を熱くさせた。
「僕もだよ」
フィンの儚げで少年ぽさの残る声色が、リヒトの耳を支配する。全てを魅了する澄んだ碧眼は、愛の言葉に同意した小さくて可愛い天使のような恋人から目を離さずにいた。
「お酒のせいかな、いつもより目がとろんとしてて、潤んでて……」
“犯したくなるぐらいに可愛い”
リヒトはその言葉を飲み込んで、背もたれに深く腰掛けると向かい合わせになるようにフィンを膝の上に座らせた。フィンは嬉しそうに笑みを浮かべ、リヒトの胸板あたりに手を置きながら口を開く。
「あのね、ずっと体がぽかぽかして、頭がふあふあしてるの。お酒ってすごいね……?それにね、甘くて、すごくおいしくていっぱい飲んじゃった……チョコレートのお酒があるなんてしらなかった僕」
無邪気に微笑みながら喋るフィンに対し、リヒトの脳内はフィンを犯したくて堪らない衝動を抑えることに必死だった。
お酒を覚えたフィンに対し、危険を伴うこともきちんと教えてあげなければならないと考えたリヒトは、理性を保ちながら口を開く。
「こういうのは、味に騙されてたくさん飲むと後からすごく酔っ払うんだよ。甘いけど案外度数が高い」
「そうなの……?」
驚くフィンをよそに、リヒトはチラッとチョコレート酒の瓶に視線を向ける。
「フィンは瓶の半分も一人で飲んでる……いつの間にか寝てしまっても不思議じゃないな」
リヒトはお酒の入ったコップを魔法で引き寄せると、そこに入っていた飲みかけのお酒を一気に飲み、その甘さに眩暈がしたのか眉を顰めた。
フィンの好みなのか、牛乳はあまり多く入れず甘さを優先させていたため、リキュールの甘さが脳天を突き抜ける。
「こんな酔いやすい割り方して……もう少し牛乳を多めにして飲まないとダメだ」
リヒトはフィンの耳元でそう告げると、コップをサイドテーブルにそっと置く。
「ごめんなさい……もったいないことしちゃった、今度は少しずつ飲むね……?」
「そういうことじゃなくて」
リヒトはフィンをソファーに押し倒すと、真剣な眼差しで見つめる。
「外でもしそんな飲み方して、もっと可愛い顔になって、それでいつの間にか寝ちゃって。
……知らない奴にこうやって押し倒されたらどうするの?」
リヒトはそう言ってフィンの首筋に舌を這わせると、フィンは目をさらに潤ませぴくんっと小さく反応を示した。
熱を帯びた体は思ったよりも言うことを聞かず、脳内は蕩けていくような感覚に陥るフィン。初めて“酔っ払う”という感覚を身をもって知ることとなり、それは時間の経過とともにさらに色を強くした。
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