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一年生・秋の章<それぞれの一週間>
酔いどれ天使が堕ちる夜③
しおりを挟む「お待たせフィンちゃーん。靴紐を直してたら偶然知り合いにばったり会っちゃってちょっとお話ししてたのーっ!……ってあら?お知り合いの方?」
少し店に入るのが遅くなったエヴァンジェリンとノエル。入って早々フィンが見知らぬ者と会話していた様子だったため、エヴァンジェリンは首を傾げ笑みを浮かべた。
「なっ……レディー・エヴァンジェリン!?」
先程までフィンを馬鹿にしていた貴族二人は顔を引き攣らせる。
それもそのはず、輝く銀髪に桃色の瞳を持つ美しいハイエルフであるエヴァンジェリン・シュヴァリエを知らない王都民はいないからだ。
「それに、この子供と同じ顔の子が来たぞ」
エヴァンジェリンと同じタイミングで入ってきたノエルを見た二人組は二人を見比べ唖然とする。
同じく桃色の瞳を持つ双子となれば、髪の毛が見えずとも察しがついた。
「ってことは、シュヴァリエ家の双子……!」
貴族二人は恐れ慄き後ずさる。
「ねーさま、ふぃんがいじめられてた!“しょみん”ってばかにしてた!」
「なんですって……?」
「“ばちがい”だっていってた!!」
シエルがむすっとした顔でエヴァンジェリンを見上げると、これまでにこやかだったエヴァンジェリンの顔色が変わる。初めてフィンと出会ったあの日、リヒトが緊急事態だと勘違いしていたエヴァンジェリンがこんな顔していたなーと、フィンは呑気にも思い出していた。
「シュヴァリエ家が預かるフィン・ステラを侮辱するなんて良い度胸ね……?」
普段温厚で怒ることのないエヴァンジェリンだが、フィンが侮辱されたと知ると真顔になり殺気だった魔力を沸き立たせる。“シュヴァリエ家が預かる”を強調したエヴァンジェリンは、毅然とした風格で二人組に詰め寄った。
ノエルはむっとした表情を浮かべシエルの側にいくと、双子同士目を合わせ頷く。
「「ゆるさないぞー!」」
双子も同じように魔力を出して二人組を威嚇すると、フィンはどうしようと困った表情を浮かべた。
「(わわ、なんだか大ごとになっちゃったー!?)」
シュヴァリエ家の渦巻く棘のある魔力を感じたフィンは、宥めようと慌てて口を開く。
リヒトといい、なぜシュヴァリエ家は自分のことになるとここまで急変するのだろうかと疑問に思うフィン。
「エヴァ様、シエル、ノエル、僕は大丈夫ですよ……!?」
「フィンちゃん。私はあなたの尊厳を守りたいの。貴方は馬鹿にされるような子ではないわ」
エヴァンジェリンはそう言って二人組を睨んだ。
「誤解ですレディ・エヴァンジェリン!」
二人組はなんとかこの場を切り抜けようと冷や汗を垂らしながら誤魔化すが、エヴァンジェリンは魔力を強め悪魔のような笑みを浮かべる。
「あらそうなの?なら弟に頼んで本当かどうか確かめなきゃ」
二人組の脳内で、エヴァンジェリンの弟=リヒトということは瞬時に理解できたため、一気に青ざめた顔になる。
「ひっ」
「貴方達がフィンちゃんを場違いと言うのなら、私の立場から見れば貴方達も場違いよねぇ?」
「……も、も、」
二人組は過呼吸になりながら「申し訳ありませんでしたアァァァ」と言って土下座をし、風の速さでその場を立ち去っていった。
「あら、ちょっと脅しすぎたかしらぁ」
エヴァンジェリンは普段の様子に戻ると、フィンはほっと胸を撫で下ろす。
「エヴァ様、ありがとうございます」
フィンは申し訳なさそうに笑みを浮かべると、エヴァンジェリンは首を左右に振る。
「リヒトがいない間は、私達がフィンちゃんを守るの。貴族至上主義の意味を履き違えた貴族は、特に王城に近い街ほど庶民を冷遇する。
でもね、フィンちゃんは堂々としてなさい!一等地で庶民が買い物してはいけないというルールなんてないんだからっ」
「……はい!」
フィンは瞳を揺らしながら笑みを浮かべて頷くと、エヴァンジェリンはフィンの頭を撫で店内を物色するため奥へと進んでいった。
双子はフィンの服を掴み、じっと見上げる。
「ごめんねシエル、ノエル。僕が不甲斐なくて、代わりに怒ってくれたんだよね。ありがとう」
「ふぃんまもる」
シエルはフィンの足に抱き付く。
「まもるー」
ノエルも同じように抱き付くと、フィンは顔を綻ばせて顔を赤くした。
「(うううー!かわいいーっ!)」
フィンが双子に悶える中、エヴァンジェリンはくるりと振り返ってフィンに声をかける。
「ねーフィンちゃん、欲しいのあったら全部買って良いからねー?」
店内に響き渡る声。エヴァンジェリンはただでさえ目立っているのに、余計に注目が集まりフィンへも視線が集中した。
当の本人はそれに気付かないが、とりあえずエヴァンジェリンに対して「わかりましたっ」と小さく返事をした。
「うーん……どれもすごいなあ。この杖は、風の元素が集まりやすくなるんだねー」
フィンは色々な杖を眺めながら目を輝かせる。
「んー、でも今の杖も結構気に入ってるしなあー?それにリヒトが買ってくれたし……」
フィンは自分の杖を取り出す。持ち手の部分に魔法石が規則的に埋め込まれ、繊細に彫られた模様。真っ白な杖は、まるでフィンの心を表しているようだった。
店主のゴードンがそれを偶然目にすると、フィンに飛びつく勢いで近付き声をかける。
「ぼっちゃん、その杖を見せてもらえないか!?」
「へっ!?は、はいどうぞ」
フィンは杖をゴードンに手渡すと、ゴードンは震えながらその杖を見つめ「やはり……!」と言って目を輝かせる。エヴァンジェリンは騒ぎを聞きつけフィンの元へ戻り様子を伺った。
「これはすごいぞ……!ハルピュイアの骨で出来た杖だ!」
「ええぇ!?」
フィンは目を見開き驚きを示すと、そばにいたエヴァンジェリンも「あら」と言って口元を抑える。
「はるぴゅいあ?」
双子は同時に首を傾げると、フィンはしゃがんで説明を始めた。
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