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一年生・秋の章<それぞれの一週間>
酔いどれ天使が堕ちる夜②
しおりを挟む「最近外は冷えるから、お帽子かぶろうねー」
エヴァンジェリンは双子に対して少し大きめのポンポンがついたケーブルニット帽を被せる。帽子をかぶったことで前髪が目にかかってしまった双子は、同時に目を擦って不機嫌そうな表情を浮かべた。
「「んー」」
フィンはそれを見ると双子の前に屈む。
「ふたりとも、お帽子に髪の毛いれちゃおっか?おめめかゆいね」
フィンは試しにシエルの髪の毛をすっぽり帽子の中に収めると、シエルは視界がすっきりしたためご満悦そうに笑みを浮かべる。
「うん、すっきりだねー。大丈夫?嫌じゃない?」
「すっきりー!ぜんぜんいやじゃないー!」
「ずるい!ぼくもー!ぼくもー!」
それを見ていたノエルはフィンに手を伸ばしてぴょんぴょん跳ねると、フィンはその可愛さに胸をときめかせながらノエルの髪も同じように帽子にしまう。
大きな帽子をつけて喜ぶ双子の姿に、フィンとエヴァンジェリンは顔を緩ませた。
「かわいいわねえー」
「かわいいですねー、癒されます」
ほっこりとした笑みを浮かべるフィンを、エヴァンジェリンはじっとみつめる。
「フィンちゃんもだけどねー」
エヴァンジェリンはボソッと呟くが、フィンは首を傾げる。
「へ?」
「さあ出発~!」
「ええ!なんて言ったんですか!?」
----------------------------------------------
一等地のエリア・ローズ通りにやってきた四人。
一等地にある店はどれも高級な物を扱うお店ばかりで、フィンも何度かリヒトに連れられ主にスイーツのお店に足を運んだことがある。
公爵家ともなれば、有り余る財力を使って家に商人を呼ぶことも出来るはずだが、エヴァンジェリンは自分で足を運んで買い物をすることが好きな性格だった。
「エヴァ様、どのお店にいくんですかー?」
双子と手を繋ぐフィンは、にこやかな笑顔を浮かべながらエヴァンジェリンの後ろをついていく。
「ふっふっふ。リヒトがいない今、あなたを甘やかすチャンスが私にも巡ってきたわあ!」
エヴァンジェリンは一度立ち止まり不気味な笑みを浮かべたあと、勢いよく振り返ってフィンに対し満面の笑みを浮かべる。
「へ!?あ、あまやかすって一体何のことですか!?」
エヴァンジェリンが突如甘やかす発言をしたことに狼狽えるフィン。
「だぁってぇー。いつもリヒトばっかりフィンちゃんを独り占めしてるから、今日は私がいーーーーーーーっぱい甘やかしたいのよ!こんなチャンス滅多にないものー!ねぇ?シエル、ノエル」
エヴァンジェリンは双子に同意を求めると、二人は大きく頷いた。
「「あまやかすー!」」
双子は手を上げて嬉しそうにそう言うと、フィンは困った表情を浮かべる。
「で、でもそんなっ……」
「遠慮しないでフィンちゃん。だってフィンちゃん、ずっと頑張ってたもの、だから今日はご褒美だと思って甘えてほしいのよ。私からのお祝い」
エヴァンジェリンはそう言ってフィンに優しい笑みを浮かべると、双子も「おいわーい」と言ってフィンの周りを走り回る。
「ええと……」
フィンは一瞬躊躇するも、やがて恥ずかしそうに口を開いた。
「わ、分かりました……!よろしくお願いしますっ」
フィンは赤い顔でエヴァンジェリンを見上げ小さくそう言うと、エヴァンジェリンは鼻を抑え悶える。
「うんうん!それじゃあ一等地のお店ぜーんぶまわりましょうっ(可愛い……天使!)」
「ぜっ全部ですか!?」
「「ぜんぶぜんぶー!」」
驚くフィンの手を引いたエヴァンジェリンだったが、お店の前でノエルのブーツの紐が解けていることに気付く。
「あらやだ。フィンちゃん、シエルと一緒にお店先に入ってくれるかしら?ノエルの靴紐を結んであげてからいくからー」
「はっ、はい!」
フィンは言われた通り、シエルと手を繋ぎながら目の前にあったお店に足を踏み入れた。
「ここは……杖のお店!」
ルイが使うような指輪型の杖や、自分の背よりも遥かに大きい杖、通常のサイズの杖など、様々なタイプの杖が置かれている。さらには杖に埋め込む用の珍しい魔法石も売られており、その煌めきに魅了されたフィンは目を輝かせた。
そんなフィンを見かけた二人組の若い貴族が、互いに目を見合わせて嫌な笑みを浮かべた。
「おやおや、こーんなところにエスペランス祭の有名人がいる」
「疾風走で名を馳せた庶民!」
フィンはその言葉に反応すると、少し顔を赤らめ首をかしげる。
「わわっ、僕のことですか……?ありがとうございますっ」
フィンは笑みを浮かべながらお礼を言うと、嫌味が通じないことに気付いた二人の貴族は眉を顰める。
シエルは嫌な雰囲気を感じたのか、フィンの後ろからひょこっと姿を現して二人を睨んだ。
「いくら活躍したとはいえ、庶民がこのお店にくるのは場違いでは~?」
片方の貴族が嫌味ったらしく声をかけると、フィンは困ったように眉を下げる。
「ごっごめんなさいっ……お気を悪くされましたか?」
フィンは潤んだ目で貴族を見上げる。
柔らかそうな淡い栗色の艶髪、大きな瞳と長いまつ毛、驚くほど小顔で愛らしい唇。少女を思わせるようなその見た目で健気に謝られると、プライドの高い貴族とて心臓は高鳴るに決まっていた。
「(こっコイツ……!初めて生で、それもこんな近くで見たがかなり可愛いぞ)」
「(こんな美しい子、滅多にいない!)」
フィンのあまりの可愛さに怯んだ貴族たちは、顔を見合わせ顔を真っ赤にさせながら固まっていた。
「フィンをいじめるなー!」
シエルはぷくーっと顔を膨らませフィンの前に出ると、両手を広げて貴族を見上げる。
「なんだこの子供、庶民を庇ってるぞ」
「身なりは良いが、庶民とつるんでいる時点で小物だろ?相手にするなよ」
貴族は妙に顔立ちの良いシエルを見下ろすが、シュヴァリエ家の特徴である輝く銀髪が帽子で隠れていたため、訝しげな表情を浮かべた後明らかに見下した態度を取り始める。
シエルは悪口を言われていることをすぐに気付くと、ムスッとした表情で二人を睨み付けた。
「シエル、大丈夫だから。ね?」
フィンはそんなシエルを宥めるように後ろから肩を撫でると、貴族二人を見上げて困ったような笑みを浮かべて続ける。
「あ、あの、僕は庶民なのですが、この子は……」
後々トラブルになると絶対にリヒトがこの貴族をタダじゃ済ませないと分かっているフィンは、慌てて貴族に事情を説明しようとするが、そのタイミングでエヴァンジェリンとノエルが入店する。
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