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一年生・秋の章<それぞれの一週間>

揺るぎなき最強③

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「ご苦労」


 リュドウィックを捉えたリヒトに拍手を贈るアレクサンダー。リヒトはリュドウィックの服を掴むと、そのまま荒々しくアレクサンダーの前に投げ飛ばした。


「ぐっ……」


 その影響でリュドウィックの眼鏡は地面に叩き付けられ、ガラスが粉々に砕けて無惨にも折れる。


「……(有り得ない……あの鳥の魔法はなんだ?見聞の少ない魔法は対処方法が不明なことが多い……。
 クソ!そもそもなぜこの場に大魔法師が来た!いつからこの作戦がバレていた!?これまで完璧に動いていたというのに)」


 リュドウィックは地面に顔を擦った形で倒れたまま、その屈辱に顔を歪める。
 アレクサンダーはそんなリュドウィックに対して冷たい視線を浴びせると、即座に口を開いた。


「リュドウィック・クレマン。今まで慎重にやってきただろうが残念だったな。
 悪いがこの国には、勘が鋭い優秀な騎士団の団長や、お前のような罪人を簡単に捕らえることができる大魔法師がいる」


 アレクサンダーはシルヴァンや自身の事を揶揄しながらリュドウィックに語りかけると、相手は冷や汗を垂らし瞳を絶望の色に変えていく。


「この国で最強の男を前にすると、あっけないものだろう?一瞬にしてお前は地面に堕とされた」


 リュドウィックとて、王城に勤める貴族。能力値は高いはずだった。
 とはいえ、シルヴァンやリヒトがどれだけすごいかは実際には目の当たりにはしていない。そんな驕りが今回自身の研究成果を試すための王族殺しロイヤル・スレイヤーを咄嗟に企て、警戒を怠った結果がこれだった。


「ぐっ……」


 あの場にいたのが大魔法師でなければ、自分は帝国領に逃げられた。
 そんな浅はかで、されど確信をついた思考を持ったリュドウィックは、何も言わずリヒトを睨みつけた。
 リヒトはそんなリュドウィックに特に何も言うことなく、アレクサンダーに視線を移す。


「アレク。今、お前は『この国の王子』か?それとも『ライトニング王子の兄』か?」


 少し口角を上げたリヒトの問いかけに、アレクサンダーは迷う素振りを見せず息を吐く。
 ライトニングを痛め付けた男が目の前で成す術なく地面に転がっている。ついこの数時間前までは気品ある王城の執事として働いていた男だが、今は見る影もなかった。


「……後者だな。今は反逆者としてではなく、弟を痛めつけた罰として地獄を見せてやる」


 アレクサンダーはニィッと悪魔のような笑みを浮かべリュドウィックを見下ろすと、相手は真っ青な顔で顔を引き攣らせる。


「ち、ちが……私は、私は帝国に操られただけだ!私の意思ではない!!!」


 リュドウィックは醜くも言い訳をし始めたため、リヒトは軽くため息を吐いた。


「アカシックレコードを持つ私の前で、悪あがきはよせ」


 リヒトは真顔でリュドウィックにそう言うと、リュドウィックは唖然とした表情を浮かべた後に項垂れる。


「悪いがリュドウィック、私は弟とは違って加減が出来ない。死なないように頑張れ」


 アレクサンダーは赤いマントを翻し空に向かって叫ぶ。


制裁の雷ユーピテル


 容赦なく呪文を唱えたアレクサンダー。


「アアアアアアアァ!!!!!」


 アレクサンダーは狙った場所に雷を降らす事ができる。その雷に触れた者はタダではすまないということは、拘束されているリュドウィックも十分理解していた。
 怒りを溜めたアレクサンダーの雷によってギリギリ死なない程度に感電させられたリュドウィックは、体の至る所に雷の形をした火傷を負い大きく叫び声をあげ、そのまま気を失い王城の牢へと護送されていった。


「フン。後1000発は打ちたいところだが、死なれては困るな。精神がまともでいられたらいいが」


 護送の馬車を見上げるアレクサンダーは、とりあえず一旦落ち着きを見せると、現場検証をしている騎士団達を横目に足元に雷のエネルギーを生み出して浮き上がる。


「ライトニングが心配だ。俺はすぐに城に戻ろうと思う」


 アレクサンダーがそう言うと、リヒトは頷く。


「分かった」


 アレクサンダーはライトニングの様子をいち早く確認するため、王城へと帰還していった。
 現場に残った騎士団達は、現場検証と証拠品の確保、土地に重大な異変が起こっていないかの調査に大慌ての状態。
 そんな中、シャロンがゲージを抱えながらポツンと立っていた。


「……」


 子供に関わることが少ないリヒトだが、今この状況で少女を家へと無事に帰すことが出来るのは自分だけかと判断し、シャロンの元へ近付く。


「……待たせたな。家に帰そう」

「大魔法師さま!」


 シャロンはにこーっと純粋な笑みを見せる。リヒトはライトニングの記憶をみているため、姉が広場で待っていることを推測しそのまま町に行くべく歩みを進めた。
 シャロンは大人しくゲージを抱えながらリヒトを見上げ、ニコニコと笑みを浮かべて後ろを歩く。


「……」

「……」


 無口なリヒトだが、シャロンにとっては命の恩人。普段はリヒトが持つ雰囲気に圧倒され畏怖を感じる者が多い中、シャロンは嬉しそうに笑みを浮かべてリヒトの事を見上げながら一生懸命に歩く。


「(……少し早いか)」


 リヒトは、そんなシャロンに気付いて歩幅を気にしながら歩き出した。
 二人は横並びになって歩き始めると、シャロンはリヒトに躊躇なく話しかけ始める。


「あのねー、このフクロウねー、ライトニング王子がくれたんだぁ」


 リヒトはそう言われると、ゲージの中にいる梟の様子を見ると口を開く。


「その梟」


 リヒトは歩きながらポツポツと喋り出したため、シャロンは首を傾げた。


「……おそらくお前に相当懐いている。ゲージから出しても逃げないと思うが」


 リヒトに言葉に、シャロンはゲージの中にいる梟を見て笑みを浮かべる。


「そうなの?」

「開けてみるが良い。万が一飛んだとしても、私が捕まえてやる」


 リヒトの定案に、シャロンはゴクリと唾を飲んで緊張した面持ちでゲージから梟を出す。


「クーちゃん、おいで」


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