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一年生・秋の章<それぞれの一週間>
ローザリオンの王子として③
しおりを挟む「ここまでですね」
リュドウィックは深傷を負ったライトニングを見ると、止めを刺すために腕を振り上げる。
しかし、ライトニングゆっくりと立ち上がり、強い眼差しでリュドウィックを睨んだ。
「まだ立つのですか」
リュドウィックは、そんな眼差しに一瞬気圧され顔を顰める。
「当たり前だ。私はローザリオン王国の王子だからな。王族として、貴族と庶民から羨望を向けられ、その羨望を糧に王族はこの国の礎となり光となるのだ……。
貴様如きが、この尊き光を奪えると思うな」
ライトニングはそう言って魔力を解放すると、何度も閃雷を放ちグラン・ハウンドに攻撃をする。
「しかし王族とて不死身ではありません。庶民の子供一人守って大怪我を負うことになんの意味が?」
リュドウィックの問いかけに、ライトニングは迷うことなく口を開く。
「小さな子供一人も守れない王子など、王子とは呼べぬ!ここで敗走するぐらいであれば、私は動けなくなるまで必死に戦うまでだ!」
ライトニングはそう叫ぶと、さらに魔力を解放して閃雷をリュドウィックにも放っていく。グラン・ハウンドはそれを爪で弾いていった。
「フン。だから貴方は馬鹿なのですよ。弱いくせにくだらぬプライドを振り翳し、勝てぬ戦に挑もうとするのですから。死んでしまっては何も残らないというのに」
頭から血を流すライトニングは、血が流れすぎたのかその場に膝をつく。目が霞むのを堪え、なんとか意識を保った。
「どのみち貴方も死んで、少女も死ぬ。私は何食わぬ顔で王城に戻って悲しむフリをしましょう」
リュドウィックはそう言って口笛を吹くと、グラン・ハウンドはもう一度雄叫びを上げライトニング目掛け爪を振りかざす。
「やれるものならやってみるがよい!ローザリオンの王子として、私はシャロンを守って見せるぞ!
私が倒れたとて、王族は屈せぬ!」
ライトニングはありったけの魔力でシャロンに防御魔法をかけ、声を振り絞って手を振り翳す。
「閃雷」
ライトニングの閃雷を、グラン・ハウンドは鋭い牙と爪でどんどんと砕いていく。
「王子さまっ……!」
ライトニングに迫るグラン・ハウンドを見たシャロンは泣きながら叫ぶ。
「(血で目が見えぬ……意識が遠のく)」
なんとか気力で意識を保つライトニングだが、シャロンを守るように魔法を展開することで精一杯。
リュドウィックは「しぶといな」と呟き眉を顰めた。
「(リーヴェスは、私がもし死んだら、悲しんでくれるだろうか)」
ふと、リーヴェスの顔が頭に浮かんだライトニングは、そんなことを考えていた。
もはや攻撃できるほどの体力が無くなったライトニングは、自身が死んでもシャロンが助かるよう、自身の命を引き換えに最上級の防御魔法を発動する特級魔法を唱えた。
「諦めましたか」
「私が死んでも、お前は必ず王族に裁かれる。覚悟しておけ」
ライトニングはそう言って得意げな笑みを見せると、小さく「さよなら、リーヴェス」と呟いて目を閉じた。
「殺せ」
リュドウィックはグラン・ハウンドに淡々と命令する。シャロンはギュッと目を瞑り叫び声を上げた。
「グウウウウアアアアア!」
グラン・ハウンドはライトニングを捕食するため、大口を開けて迫る。ライトニングは目を逸らすことなく死を覚悟した表情でそれを待った。
すると、ふと別の気配に気付いたライトニングが目を見開く。そしてその気配はいつの間にか自分の前に現れた。
銀色の靡く長髪が、月明かりに照らされ美しく輝く。
ローザリオン王国の歴史上、最も強いと言われている最強の大魔法師、リヒト・シュヴァリエがそこにいた。
「フェンリル」
リヒトが低い声で呼ぶと、氷の特級精霊・フェンリルが横からグラン・ハウンドに噛み付き、一気に凍らせたかと思うとそのまま粉々に砕け散らせた。
寸前のところで助かったライトニングは、呆気に取られ呆然とする。後ろにいたシャロンも、大魔法師の登場に驚きを示していた。
「大魔法師だと……!?」
リュドウィックは咄嗟に木陰に隠れていたが、予想外の展開に狼狽えており、とりあえず息を潜める。
リヒトはグラン・ハウンドをフェンリルに瞬殺させると、振り返って状況を確認した。
血だらけで何とか立ち上がっているライトニングと、その後ろにいる無傷の少女。
すぐに状況を理解したリヒトは、地面に方膝をついてライトニングに頭を垂れた。
「遅くなり申し訳ありません、ライトニング王子。大魔法師リヒト・シュヴァリエが馳せ参じました。これより王族特務の命により、反逆者を確保します」
リヒトは王族に対し敬意を払いながら、王族特務として落ち着いた声色でライトニングに報告をする。
「大魔法師……」
ライトニングは掠れる視界の中、はっきりとリヒトの顔を確認する。
「私は貴方を見くびっておりました、第三王子。王族という血筋を振り翳すだけの愚かな王子だと。
しかし、貴方はその小さな子供を守るために血を流し戦った」
リヒトはライトニングが相当命をかけて戦ったと理解し、相手を見上げた。
その瞳は、エスペランス祭の時に見せた蔑むようなものではなく、ライトニングを王子として認めた瞳だった。
「……立派な王子だ」
リヒトの言葉に、ライトニングは緊張の糸が切れ、感情が溢れ大粒の涙を流し俯く。
「……不甲斐ない私を許せ大魔法師。この通り、お前に助けられて生き長らえたのだからな。
私の記憶を見てくれ。今回の事、全て明らかとなろう」
「御意。すぐに助けも来ますので、動かず待っていてください」
ライトニングは涙を流しながらも威厳を保った口調でそう進言すると、リヒトは立ち上がり言われた通りにアカシックレコードを発動する。
「失礼します王子」
リヒトは人差し指でライトニングの額に触れると、瞬時にライトニングの記憶を確認した。
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