188 / 318
一年生・秋の章<それぞれの一週間>
ローザリオンの王子として②
しおりを挟む「さあグラン・ハウンド。王族殺しとして名を馳せようじゃないか」
リュドウィックがもう一度指笛を吹くと、グラン・ハウンドは雄叫びを上げながらライトニングに向かって走った。
大きな図体だが動きは俊敏。炎を吹きながら向かってくる姿はまさに脅威だった。
「早い……!」
ライトニングはすぐにシャロンを抱き抱え、風魔法で突風を逆噴射し木陰へと逃げて姿を眩ませる。
シャロンを庇いながら森の中を飛んだため、ライトニングの顔や体は枝で怪我をしていた。
「王子さまっ……」
シャロンはどんどん怪我を負うライトニングの姿に心を痛める。
「よいかシャロン。このまま二人で逃げてもあの怪物はどこまでも追ってくる。それに国民を危険に晒す訳には行かないから、ここで仕留めねばならぬのだ。
私があの怪物の相手をしている隙に、お前は町へ戻れ」
ライトニングがシャロンにそう指示すると、シャロンは小さく頷く。
しかし、鼻が効くグラン・ハウンドは、リュドウィックと共にライトニングの背後すぐ迫った。
「……隠れても無駄ですよ王子」
大きな爪で木を薙ぎ倒しあっという間に更地のようにしていくグラン・ハウンドは、鼻がかなり効くのかすぐさまライトニング探し当て大きな牙で噛みつこうとする。間一髪でそれを交わしたライトニングは、恐怖で動けなくなったシャロンを見ると覚悟したように瞳の色を変えた。
「シャロン、怖がらせてすまない。ここでじっとしていろ」
ライトニングは杖を振ってグラン・ハウンドに閃雷の剣を浴びせて気をひくと、箒に跨り飛び回る。
「こっちだ怪物!」
ライトニングは自身を囮にしてシャロンから離れ、土魔法で攻撃をしながらグラン・ハウンドの頭上を飛んだ。
迫り上がった土が硬さを持ち、グラン・ハウンドに絡みついて締め上げていく。
「グゥアアアアアアア!」
雄叫びを上げたグラン・ハウンドは、まるでドラゴンのように火を吹き続け抵抗を示した。
ライトニングは閃雷の剣を作ってグラン・ハウンドに何度も攻撃するが、魔力で強化された巨体を仕留めるほどの殺傷能力は無く、雷の効果も全く通用しないため、ライトニングは次第に息を上げ始める。
「おやおや。王族とて所詮は子供、限界が近いですか?」
リュドウィックは煽るようにそう言うと、ライトニングは笑みを見せながらリュドウィックに杖を向ける。
「何を言っている。子供とて王族だ。みくびるではないぞ!」
ライトニングはリュドウィックにも攻撃を仕掛けるが、グラン・ハウンドはリュドウィックを守るようにして体から骨を飛び出させるとそれでガードをする。
「グゥアアアアアアア!!!」
グラン・ハウンドは叫びながら黒い魔力を放出し、土魔法を牙で破壊して炎を吐く。
「っ」
避けきれずまた火傷を負うライトニング。そして爪が足を擦り、そこから出血した。そこからは、木陰に逃げては爪で襲われ、火魔法で襲われるの繰り返し。
しかしライトニングは決して逃げることなく応戦し続けた。
「何故逃げないのですか王子。あんな庶民の少女など置いて逃げれば良いではないですか」
リュドウィックの言葉に、ライトニングは眉を顰める。
「馬鹿を言うな。そんなことは矜持に反する」
大きな爪を振るうグラン・ハウンドに、ライトニングは手を翳す。
「閃雷閃光」
ライトニングは眩い閃光をグラン・ハウンドにぶつけると、強い光で目が見えなくなったグラン・ハウンドがその場で大声を上げて暴れた。
「矜持、なるほど……その矜持が国の進化を妨げているのでしょうね」
リュドウィックは口笛を吹きグラン・ハウンドに魔力を供給すると、複数ある目は一旦閉じ、次に開いた時には真っ赤な瞳となっていた。
「目眩しはもう効きませんよ」
「……」
その場で進化を遂げていくグラン・ハウンドに、息を上げたライトニングは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
リュドウィックは時計を確認すると、思ったよりも時間が経過していることに気付き目を見開いた。
「このまま長居しすぎると私の身が危ないな。十分実用性は確認できた。
さぁ、二人まとめて殺せ、グラン・ハウンド」
グラン・ハウンドはリュドウィックの命令を聞くと、今度はライトニングではなくシャロンの方へ走り出す。
「!?」
巻き込まないように距離を取っていたはずのライトニングは、自分ではなくシャロンを狙いに行ったグラン・ハウンドを見て目を見開き、すぐさま箒に乗って追いかけた。
「どういうつもりだリュドウィック!」
ライトニングは激しい怒りで魔力を増幅させながら叫ぶ。
「ハッハッハッ!その少女が死ねば、矜持を持って誇り高く生きようとする貴方を精神的に痛めつける事が出来そうだと思いまして」
まるでゲームのように振る舞うリュドウィックの姿に、ライトニングは嫌悪感を出しつつもシャロンの元へ急ぐため枝を掻き分けながら飛ぶ。
「シャロン!」
ライトニングはシャロンの前に立つと、閃雷で大きな剣を作り目の前の地面に突き立てて、ありったけの雷を放出した。
リュドウィックは少し驚いた表情を浮かべる。
「おや……これは少し効きますね」
グラン・ハウンドは少し感電した様子で動きが鈍り始める。
しかし、リュドウィックはそれを見越していたのか、自身の魔力を供給して強化すると、グラン・ハウンドは大きな爪を振り翳した。
「!!!」
ライトニングはすぐさま土の防御魔法を張るが、無詠唱の防御魔法ではグラン・ハウンドの爪は防ぎきれず、ライトニングは咄嗟にシャロンを庇いつつ飛ぶが、その攻撃は背中を抉った。
ライトニングの背には三本の深い切り傷ができ、地面に大量の血溜まりが出来る。
「王子さま……王子さまっ……!」
シャロンは自身を抱き締めるライトニングを見上げ、ガタガタと歯を鳴らしながら震える声で呼んだ。
「はは。私もまだ未熟だな……すまない、怖かったろう」
ライトニングは頭にも僅かに爪が掠ったのか、額からも派手に血が流れ、その血がシャロンに落ちる。
115
お気に入りに追加
4,774
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される
ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?──
嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。
※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる