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一年生・秋の章<それぞれの一週間>

ローザリオンの王子として②

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「さあグラン・ハウンド。王族殺しロイヤル・スレイヤーとして名を馳せようじゃないか」


 リュドウィックがもう一度指笛を吹くと、グラン・ハウンドは雄叫びを上げながらライトニングに向かって走った。
 大きな図体だが動きは俊敏。炎を吹きながら向かってくる姿はまさに脅威だった。


「早い……!」


 ライトニングはすぐにシャロンを抱き抱え、風魔法で突風を逆噴射し木陰へと逃げて姿を眩ませる。
 シャロンを庇いながら森の中を飛んだため、ライトニングの顔や体は枝で怪我をしていた。


「王子さまっ……」


 シャロンはどんどん怪我を負うライトニングの姿に心を痛める。


「よいかシャロン。このまま二人で逃げてもあの怪物はどこまでも追ってくる。それに国民を危険に晒す訳には行かないから、ここで仕留めねばならぬのだ。
 私があの怪物の相手をしている隙に、お前は町へ戻れ」


 ライトニングがシャロンにそう指示すると、シャロンは小さく頷く。
 しかし、鼻が効くグラン・ハウンドは、リュドウィックと共にライトニングの背後すぐ迫った。


「……隠れても無駄ですよ王子」


 大きな爪で木を薙ぎ倒しあっという間に更地のようにしていくグラン・ハウンドは、鼻がかなり効くのかすぐさまライトニング探し当て大きな牙で噛みつこうとする。間一髪でそれを交わしたライトニングは、恐怖で動けなくなったシャロンを見ると覚悟したように瞳の色を変えた。


「シャロン、怖がらせてすまない。ここでじっとしていろ」


 ライトニングは杖を振ってグラン・ハウンドに閃雷の剣を浴びせて気をひくと、箒に跨り飛び回る。


「こっちだ怪物!」


 ライトニングは自身を囮にしてシャロンから離れ、土魔法で攻撃をしながらグラン・ハウンドの頭上を飛んだ。
 迫り上がった土が硬さを持ち、グラン・ハウンドに絡みついて締め上げていく。


「グゥアアアアアアア!」


 雄叫びを上げたグラン・ハウンドは、まるでドラゴンのように火を吹き続け抵抗を示した。
 ライトニングは閃雷の剣を作ってグラン・ハウンドに何度も攻撃するが、魔力で強化された巨体を仕留めるほどの殺傷能力は無く、雷の効果も全く通用しないため、ライトニングは次第に息を上げ始める。


「おやおや。王族とて所詮は子供、限界が近いですか?」


 リュドウィックは煽るようにそう言うと、ライトニングは笑みを見せながらリュドウィックに杖を向ける。


「何を言っている。子供とて王族だ。みくびるではないぞ!」


 ライトニングはリュドウィックにも攻撃を仕掛けるが、グラン・ハウンドはリュドウィックを守るようにして体から骨を飛び出させるとそれでガードをする。


「グゥアアアアアアア!!!」

 
 グラン・ハウンドは叫びながら黒い魔力を放出し、土魔法を牙で破壊して炎を吐く。


「っ」


 避けきれずまた火傷を負うライトニング。そして爪が足を擦り、そこから出血した。そこからは、木陰に逃げては爪で襲われ、火魔法で襲われるの繰り返し。
 しかしライトニングは決して逃げることなく応戦し続けた。


「何故逃げないのですか王子。あんな庶民の少女など置いて逃げれば良いではないですか」


 リュドウィックの言葉に、ライトニングは眉を顰める。


「馬鹿を言うな。そんなことは矜持に反する」


 大きな爪を振るうグラン・ハウンドに、ライトニングは手を翳す。


閃雷閃光エクレール


 ライトニングは眩い閃光をグラン・ハウンドにぶつけると、強い光で目が見えなくなったグラン・ハウンドがその場で大声を上げて暴れた。


「矜持、なるほど……その矜持が国の進化を妨げているのでしょうね」


 リュドウィックは口笛を吹きグラン・ハウンドに魔力を供給すると、複数ある目は一旦閉じ、次に開いた時には真っ赤な瞳となっていた。


「目眩しはもう効きませんよ」

「……」


 その場で進化を遂げていくグラン・ハウンドに、息を上げたライトニングは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
 リュドウィックは時計を確認すると、思ったよりも時間が経過していることに気付き目を見開いた。


「このまま長居しすぎると私の身が危ないな。十分実用性は確認できた。
 さぁ、二人まとめて殺せ、グラン・ハウンド」


 グラン・ハウンドはリュドウィックの命令を聞くと、今度はライトニングではなくシャロンの方へ走り出す。


「!?」


 巻き込まないように距離を取っていたはずのライトニングは、自分ではなくシャロンを狙いに行ったグラン・ハウンドを見て目を見開き、すぐさま箒に乗って追いかけた。


「どういうつもりだリュドウィック!」


 ライトニングは激しい怒りで魔力を増幅させながら叫ぶ。


「ハッハッハッ!その少女が死ねば、矜持を持って誇り高く生きようとする貴方を精神的に痛めつける事が出来そうだと思いまして」


 まるでゲームのように振る舞うリュドウィックの姿に、ライトニングは嫌悪感を出しつつもシャロンの元へ急ぐため枝を掻き分けながら飛ぶ。


「シャロン!」


 ライトニングはシャロンの前に立つと、閃雷で大きな剣を作り目の前の地面に突き立てて、ありったけの雷を放出した。
 リュドウィックは少し驚いた表情を浮かべる。


「おや……これは少し効きますね」


 グラン・ハウンドは少し感電した様子で動きが鈍り始める。
 しかし、リュドウィックはそれを見越していたのか、自身の魔力を供給して強化すると、グラン・ハウンドは大きな爪を振り翳した。


「!!!」


 ライトニングはすぐさま土の防御魔法を張るが、無詠唱の防御魔法ではグラン・ハウンドの爪は防ぎきれず、ライトニングは咄嗟にシャロンを庇いつつ飛ぶが、その攻撃は背中を抉った。
 ライトニングの背には三本の深い切り傷ができ、地面に大量の血溜まりが出来る。


「王子さま……王子さまっ……!」


 シャロンは自身を抱き締めるライトニングを見上げ、ガタガタと歯を鳴らしながら震える声で呼んだ。


「はは。私もまだ未熟だな……すまない、怖かったろう」
 

 ライトニングは頭にも僅かに爪が掠ったのか、額からも派手に血が流れ、その血がシャロンに落ちる。
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