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一年生・秋の章<それぞれの一週間>
ローザリオンの王子として①
しおりを挟む「私の忠誠心は遠い昔に失っているのですよライトニング!ここで犬の餌になりなさい!」
リュドウィックはもう一度口笛を鳴らすと、五匹のハウンドがライトニング目掛け走り、牙を剥き出しにして襲い掛かる。
スピードがあり魔法陣を展開して対抗すれば間に合わないと判断したライトニングは、空に手を翳し再び雷を呼んだ。
「閃雷!」
眩く光る雷は大きな剣の形を成し、ライトニングが腕を振ると、それに呼応するように一文字型にハウンドを切る。
普通ならば当たらずとも雷の効果で感電するはずが、ライトニングが持つ威力ではハウンドが相殺してしまい、物理的攻撃が効かなかったハウンド二匹がライトニングに迫った。
ライトニングは腕を再度振って大きな剣を小さな剣数本に変えると、器用にそれを動かしてハウンドを突き刺し仕留める。
リュドウィックはライトニングの動きに拍手をして賞賛を送った。
「さすがは王子ですね。戦争に出向いたことも無く守られてばかりの不甲斐ない王子だと思ってましたが」
「フン……普段からアレク兄様に厳しい指導を受けておるからな!この程度は造作もないぞ」
ライトニングは威勢よく返事をするが、これが何度もできるほど雷魔法の消費魔力は少なくはない。
しかしハイエルフ特有の察知能力で、ハウンドがまだどこかに多く潜んでいることが分かっているライトニングは、息を整え集中しリュドウィックを睨み付けた。
「ほう……それは失礼いたしました。それではもう少しレベルを上げましょうか。時間をかけて戦わせたほうが、経験値が上がり研究のレベルも飛躍的に上がりますから。すぐには殺しませんからご安心を」
リュドウィックは笑みを浮かべ口笛を鳴らすと、一匹のハウンドが顔を出す。先程まで出てきたハウンドとは違い、サイズが大きくなって目がいくつも付いていた。
「これまで出していたハウンドはただ噛み付くだけしか出来ないハウンド。この犬……ミディハウンドは魔法が使えます」
「!?」
ライトニングが杖を構えると同時に、ミディハウンドは口を大きく開けて火の玉を出す。
「水魔法、苦手なんですよね?」
リュドウィックはそう言って笑みを浮かべると、ライトニングは鼻で笑った。
「だからどうしたのだ。舐めるな」
ライトニングは魔法陣を展開する。
「水魔法・水壁」
ハウンドはいくつもの火の玉をライトニングに打ち込んでいくが、全て水壁に吸収されライトニングは無傷だった。
しかし、水魔法を維持させるのが苦手なライトニングは、水壁をすぐに解除する。
「おや。後ろ、大丈夫ですか」
リュドウィックの忠告でハッとした表情を浮かべたライトニングは、すぐさま振り返り杖を構えた。
視線の先では、シャロン目掛け火の玉を放とうとするミディハウンドが迫っており、ライトニングは慌ててシャロンの前に立つ。
「くそっ……間に合わぬ」
魔法を展開する間がなく、無情にも火の玉がライトニングに沢山降り注ぐ。地面には土埃が立ち、シャロンは「王子さま」と小さく呼んで思わず目を瞑った。
「……少女を庇いながら戦うのは、さすがに無理でしたかね」
リュドウィックはそう言って哀れんだ表情を浮かべる。
シャロンはゆっくり目を開くと、土埃の中、シャロンの前で腕を大きく広げたライトニングの背中があった。
火の攻撃を喰らったのか、赤いローブはズタボロに焦げ、ライトニングはそれを脱ぎ地面に投げ捨てる。
「王子さま!」
シャロンが叫ぶと、ライトニングは顔や腕に火傷を負いながらも笑みを浮かべ振り向く。
「怪我はないか」
ライトニングがそう問いかけると、シャロンは涙を浮かべながら頷く。
「王子さま、ごめんなさいっ……」
「泣くではない。このぐらい、兄様の訓練と比べたら大したことないのだぞ」
ライトニングはそう言って立ち上がりリュドウィックを睨み付ける。
リュドウィックは思ったよりライトニングが持ち堪えていることに少し驚き、真顔で眼鏡をクイっと直した。
「……ほう。咄嗟に閃雷で威力を殺しましたか。いや、それどころかミディハウンドが殺られていますね。
能ある鷹は爪を隠す、といったところでしょうか。普段は馬鹿丸出しのくせに、案外根性がある」
「閃雷」
怒りの表情を浮かべたライトニングは、リュドウィックの挑発に言い返すことなく雷を呼ぶ。
シャロンが襲われることを危惧し離れすぎないように距離を保ちながら、雷を球状にして一気にリュドウィック目掛け投げつけた。
「お前には雷が効くのだろう?反逆者・リュドウィック」
リュドウィックは咄嗟に指笛を吹きハウンドを盾にしてそれを交わすも、少し腕に当たったのか服が破れ左腕が麻痺状態になった。
「貴様……」
リュドウィックは左腕をだらんと垂らしながら舌打ちをしてもう一度指笛を吹くと、控えていたハウンド達が地面から一斉に現れ、やがてそのハウンド達は一つになっていく。
禍々しく合わさるハウンドの魔力と、溶け合うように繋がっていく体。その気味悪さに、シャロンは体を震わせた。
「クークー」
「クーちゃん……」
シャロンはぎゅっと梟のゲージを抱き締め、ライトニングを見守る。
「なんと禍々しいのだ……」
ライトニングは軽蔑した表情でその様子を見た。
複数の合成獣が合わさり、もはや犬とは呼べない形の成長していくハウンド。体のあちこちに目があり、爪は大きく成長しドロドロとした黒い液体が地面にとめどなく流れ出ていた。
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