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一年生・秋の章<それぞれの一週間>
裏切り者は嗤う②
しおりを挟むお忍びのため、王族の馬車は利用せずマルティネッサに来たため、特に騒がれることもなかった二人。
ライトニングは赤いフードを深く被り、王族の特徴である髪色を隠して町に降り立った。リュドウィックは特に顔が広いわけではないため、ローブを着ただけでフードは被らず辺りを見回す。
「この町は他国の商人が通る森も隣接しているので、宿屋が盛んです。町も活気があって子供が多い」
リュドウィックがそう教えると、ライトニングは笑みを浮かべる。
「詳しいな。確かに広場は賑やかだし人通りも多い」
「この広場を左に曲がると雷神の森、まっすぐ進めば宿屋街、右へ曲がればマーケットがありますよ」
「そうか。それならマーケットを見てみよう」
ライトニングは意気揚々とマーケットを目指し歩くと、リュドウィックもそれに続いて歩き始めた。
「ほう。普段は一等地しか行かないから新鮮で面白い」
ライトニングは幼い子供のように走って出店へと近付く。
「おー兄ちゃん、やってくかい?」
出店の店主は、王族とは知らないためライトニングに気軽に声をかける。
「これは何をするところだ?」
「知らないのか?珍しいひともいるもんだ」
店主は少し驚いた表情でライトニングを見る。慌てたライトニングの横で、リュドウィックが冷静に対応をした。
「弟は体が弱くて。今日は天気も良いし調子がいいから久しぶりに遠出をしに来たんです。だから新しいものには疎くてね……」
リュドウィックはライトニングを弟の設定で話を進めたため、ライトニングもその演技に付き合う。
「そ、そうだぞ!私は体が弱いのだ!だからこれが何か教えろ!」
ライトニングはそう言って笑みを浮かべるが、とても体が弱いようには聞こえないため店主が苦笑する。
「そ、そうなのか?随分元気そうだが……まあいいさ、これは水射的だよ」
「水射的?」
「そう。色々な場所に水蛇がいるだろう?水に反応してすぐさま食べる魔獣さ。
水蛇に食べられないように、欲しい景品に水鉄砲を当てて倒せたらその景品が貰えるんだ」
景品が並ぶ列には何匹もの水蛇がおり、隣で水射的を楽しんでいるカップルを見ると、杖から水魔法を出すも水蛇にあっという間に飲まれてしまう様子が見えた。
「面白そうだな、いくらだ?」
「3ベルだよ。やっていくかい?」
「水魔法は得意ではないが、やってみようではないか」
「そうこなくっちゃ!さ、杖はそこに置いてあるのを使ってくれ。使い慣れた杖じゃないのがこりゃまた難しいんだよ」
店主は目の前に置いていある台に乗った杖を指差すと、ライトニングはそれを持つ。
「使って良い魔法はなんだ?」
「初級の水魔法だったなら何でも良いさ!五発まで打っていいよ~」
リュドウィックは水蛇をじっくりと観察する。
「(あの水蛇、中級魔法ぐらいの水であれば威力を殺すぐらいには水を吸うな。景品もある程度固定されてて、普通ならば落とすのは難しいだろう)」
全く良い商売だ、とリュドウィックは鼻で笑って首を横に振る。
しかしライトニングは特に何も疑う事なく杖を高く持ち上げた。
「あの特賞を当てよう」
特賞は伝書用の梟。リヒトもよく利用しているが、扱いが難しくそもそも魔獣の中でも高級な分類のもの。さすがは特賞だと言わんばかりの凛とした表情で君臨していた。
しかし、その梟はライトニングに杖を向けられた瞬間ビクッと体を震わせ目を見開く。
「水弾」
ライトニングがそう唱えると、小さな魔法陣から一つの水弾が発射される。その勢いに一瞬風が吹き、周囲のエルフ達が思わずライトニングの方へ視線を変えた。
一見普通の水弾だが、水蛇はそれを思わず避けてしまうほど質が高く、そのまま梟のゲージに水弾が直撃する。
ゲージはそのまま後ろへコテンと倒れ、周囲の人々は大いに盛り上がった。
「えぇ!?」
店主は狼狽えながら後退る。
「?なんだ、簡単ではないか。どこが難しいんだ?」
ライトニングは不思議そうにリュドウィックを見て首を傾げる。
リュドウィックは“貴方が王族だからですよ”という言葉を飲み込み、「きっと運が良かったのかもしれませんね」と言って苦笑した。
「えぇー……」
すっかり固まる店主を他所に、ライトニングは梟のゲージを持って「楽しかった。1ベル銅貨は無いから、多めに置いていくぞ」と言って10ベルを置きその場を去った。
すると、遠くで見ていた少女がライトニングに駆け寄る。
「おにーちゃーん、一番上のフクロウ取ったのー?すごいねー!」
少女は満面の笑みでライトニングを見上げる。
「ああ。案外簡単だったぞ」
「この子ねー、クーちゃんっていうのー。いっつもクークーって鳴くから。ね?クーちゃん」
少女がしゃがんで梟に優しく話しかけると、梟は嬉しそうにクークーと鳴く。
「この子に会うためにねー、たまにお小遣いで水射的やりにいったんだけど、ぜんぜんとれなかったんだぁ。
クーちゃん、このおにーちゃんに大事にしてもらうんだよー?」
少女がゲージの隙間から梟を撫でると、梟は寂しそうな表情を浮かべる。
それに気付いたライトニングは、そのゲージを少女に渡した。
「私は心底梟が欲しかったわけではない。要るか?」
ライトニングの提案に、少女は目を見開く。
「えー!?おにーちゃんが取ったんだからダメだよぉ。ふつうに買うと10000ベルはするんだよー?」
王都の庶民が半年程働いてやっと手にする額。ライトニングは梟の相場を初めて知ったが、それが高いか安いか分からない。
しかし少女の反応から見て、梟は一般庶民には手にすることが難しいと察したライトニングは、少女の背丈に合わせて片膝をついた。
「だが、この梟はお前に会えなくなるのが寂しそうだ。きっとお前といたほうが幸せになると思うんだが、どうだ?」
ライトニングはフードの下でにっこりと笑って見せると、少女はうるっと涙を溜めてそのゲージをおそるおそる受け取る。
「クークー」
梟は嬉しそうに鳴くと、少女は満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうすてきなおにーちゃん!」
「ああ。それじゃあな」
ライトニングは少女を撫でるとその場を後にした。
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