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一年生・秋の章<それぞれの一週間>
裏切り者は嗤う①
しおりを挟む「……」
朝、目を覚ますライトニング。
肌寒いのか、まだ毛布に包まりたいと思ったライトニングだが、今日はやりたいことがあると考えていたため何とか気合いで起き上がる。
いつもならリーヴェスが眠気覚ましのハーブティーを持ってくるが、リーヴェスがいない今、ライトニングは誰かを代わりに側近にする訳でもなく自分で身支度を始めた。
しかし、ライトニングは自身の見た目に無頓着。寝癖があり、服のリボンが曲がっていても、それをおかしいと思わないためそのまま朝食を摂りにダイニングルームへ向かった。
「おはようございますライトニング王子……えっ!?」
ダイニングルームでライトニングを出迎えたメイド達は、ギョッとした表情でライトニングを見る。
ライトニングが本来持つ美しさはあるが、乱れた髪と服装がそれを邪魔している。当の本人は気にしていないため、そのまま朝食を摂った。
メイドは聞こえないよう小声でコソコソと話をし始める。
「やっぱりリーヴェス様が側近をやめたと言うのは本当なんですね」
「何があったのかしら」
「王子があまりにも不甲斐ないからとか?」
「私からすれば、リーヴェス様は王子を溺愛しているようにも見えたのだけど」
「王子は威張る癖があるけど、優しいわよね?」
「きっとまた第一王子を怒らせるようなことをしたんだわ」
メイド達がヒソヒソと噂をする中、ライトニング城を取り仕切る執事が現れる。
「おはよう御座います王子」
リュドウィック・クレマン。
長年ライトニング城の執事をしている男。性格は至って真面目でその上隙がなく、プライベートは謎に包まれているが仕事はミスなくこなしているため、変な噂が出ることもない。
リュドウィックはライトニングに挨拶をすると、ライトニングは寝ぼけ眼で相手を見つめた。
「リュドウィックか。今日は城を開けるから頼んだぞ」
「一体どちらへ?」
リュドウィックは首を傾げ丸眼鏡を手で押さえながら問いかける。
「雷神の森近くの町へ行く。まあ視察といったところだな。庶民がどんな暮らしをしているのか、見にいこうと思っているのだ。王族は国民の暮らしを知るべきだろう?」
”雷神の森“というワードが出ると、リュドウィックの指がピクリと動く。
「失礼ですが、お一人で向かわれるのです?」
「ああそうだ。私は今側近がいないからな……。まあお忍びでいくのだから、あまり目立ってもよくない。街の出入り口に馬車だけ待たせておいて、あとは一人で行くことにしようと思うのだが」
ライトニングはそう言ってベーコンを咀嚼し始めた。
リュドウィックが少し笑みを浮かべたのは、この場にいる誰もが気付くことはない。
「差し支え無ければ、この私が同行いたしましょう。私は土地勘がございます故、迷わず行動できるかと」
「うーむ……たしかにな。地図が横にいるぐらいは良いか。いいぞ、同行を許可する」
リーヴェス以外を横に携えるのは不本意だが、町中で迷子になるのは不甲斐ないと考えたライトニングは、少し悩んだ後了承する。
「それでは支度をしてきます。お忍びということでしたら、王子の分のローブもお持ちしますので」
「ご苦労、頼んだ」
「御意」
リュドウィックはそのままダイニングルームを後にすると、一瞬暗い目をしてからその場を後にした。
一方その頃、王族騎士団・団長のシルヴァンはあらゆる書物を調べ王城の中に裏切り者がいないかを隈無く調査していた。
「怪しいのはこの三人だな。
一人はアウラ・ルー。第一王女付きのメイドだが勤務歴はまだ浅く、経歴としては南部の小貴族のメイドをしていたと記載があるが、一番内容が薄く怪しい点が多い。
そしてもう一人はディディエ・ボネ。過去に帝国へのスパイ活動をした王国騎士団諜報部隊のリーダー。二重スパイの可能性は大いにあり得る。
そして最後……リュドウィック・クレマン。プライベートが謎に包まれているぐらいで、悪い噂は特に聞かない。それに王族に長年仕える家柄の出身。だが、何かが引っかかる。不定期で王城にある全ての城を転々としており、この城のことは大方把握をしている。そして異動する時期は決まって何か大きなイベントがある時。
わざと目立たないように動いているように見える」
シルヴァンは鋭い眼光になり、リュドウィックの名前を丸で囲むと部屋を出た。
一方、ライトニングは雷神の森近くの町・マルティネッサを目指すため馬車に乗っていた。
横にはリュドウィックが座っており、ライトニングの寝癖が気になるのか口を開く。
「失礼ですが王子。寝癖を直させて頂いても?王族たるもの、やはり身なりは整えた方が良いかと」
「?ああ、勝手にしろ」
ライトニングは自身の見た目に無頓着なため、リュドウィックに一任した。
リュドウィックは慣れた手付きでライトニングの髪を櫛で解くと、にっこりと笑みを浮かべる。
「さすが、王族の血を引く黄金の髪色ですね。雷に愛されている」
リュドウィックがそう褒めると、ライトニングは得意げな表情を浮かべた。
「リーヴェスも同じ事を言っていた」
リュドウィックはライトニングの服を整えると、自身の眼鏡をクイっと上げて窓を見た。
「リーヴェス様は、何故ライトニング王子の側近を離れたのでしょうか」
「……私が王子として不甲斐ないからだ。あれは私には勿体無い、私が精進せねばリーヴェスは返してもらえないだろう」
「だから、今回マルティネッサへ視察に?」
「そうだ。私は国民の暮らしを知ろうとしなかったからな。王子として知るべきだと思う」
「……ご立派です」
リュドウィックはニコリとライトニングに微笑むと、ライトニングは目を細め笑う。
光で煌めく黄金の髪色と、澄んだ緑眼がリュドウィックの目に飛び込み魅了される。
ライトニングは王族であり、ハイエルフ。子供とは言え、ハイエルフ特有の魅了する力は存在し、何よりエルフよりも圧倒的優れた魔力と才能が秘められているのは確かだった。
「…………(話すとまだ幼さの残る印象だが、黙っていれば美しいな……ハイエルフというのは恐ろしい。黄金の髪色を見ると、王族の血は尊いとつくづく感じてしまうな)」
リュドウィックがライトニングに対してそう思っている間に、マルティネッサの入り口へと到着し馬車が降下していく。
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