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一年生・秋の章<それぞれの一週間>

対雷・合成獣(アンチ・ローザリオン・ハウンド)

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「これは……!」


 独自に調査を続けていたシルヴァンは、リュドウィックの自室に忍び込むことに成功し内部を調査すると、隠された引き出しの裏からある資料を見つける。


対雷・合成獣アンチ・ローザリオン・ハウンド……?」


 その資料は暗号で記された設計図となっており、あらゆる暗号を読み解くことができるシルヴァンはその資料を読むほどに表情を険しくさせていった。


「なんてことだ」


 設計図の中心にある犬の形をしたそれは、雷に耐性を持つ合成獣キメラであり、その名の通りローザリオン王国の王族をターゲットとした生物兵器であることが記されている。
 シルヴァンは目を見開きながらその資料を握り締めた。


「急ぎアレクサンダー王子と大魔法師様にお伝えせねば……!」


 シルヴァンは慌ててリュドウィックの部屋を飛び出ると、そこには鋭い目をしたメイドが立っており、シルヴァンが何をしていたか見透かしていたような表情を浮かべた。


「貴様は……」


 シルヴァンはその人物を確認すると、目を見開き懐に携えた短剣を取り出して魔力を解放した。


「裏切り者は二人だったのだな、アウラ・ルー。リュドウィック・クレマンと共謀し国家転覆を図った罪で、このシルヴァン・ベイカーが処刑する」


 裏切り者の候補者として名前が上がっていたアウラ・ルーは、ニヤッと怪しげに笑って短剣を持ち先制攻撃を仕掛けた。
 それを短剣を用いて華麗に弾き返したシルヴァンは、アウラを睨み付ける。


「いいえ、三人ですよ、フフ」


 アウラの言葉と同時に、シルヴァンは背後の気配に気付き慌てて振り返る。するとそこには王族騎士団の諜報部隊隊長、ディディエ・ボネが真顔で立っていた。


「なんだと」


 シルヴァンと同じ王族騎士団に所属し、諜報部隊を取り仕切る男。疑っていたとはいえ、同じ騎士団に裏切り者が出たと分かるとこめかみに血管を浮き上がらせるぐらいに怒りを示した。
 まさか自分が怪しんだターゲットが全て裏切り者だったという展開に顔を顰めるシルヴァンは、ギリギリと歯を食いしばる。


「貴様ァ!なぜ国を裏切った!」


 シルヴァンの問いかけに、ディディエは暗い目でシルヴァンを睨む。


「俺は忠誠心など最初から無いからな。条件が良いほうに靡いただけのこと。帝国は羽振りがいいぜぇ~?
 ま、他二人の理由は知らんけどな。自分で聞けよ」


 ディディエはそう言って嗤うと、懐から銃を取り出しシルヴァンに狙いを定める。


「(サイレンサー付きの魔法銃!)」


 シルヴァンは咄嗟に帝国製の魔法銃だと判断した。


「まあ、聞けたらの話だが」


 ディディエはそう言って鼻で笑うと、シルヴァンに向かって引き金を引いた。



------------------------------------


 
 一方、陽が落ちた森でシャロンを探すライトニングは、大声を出し名前を呼んでみるが、一向に見つからず時間だけが過ぎていく。


「シャロン!近くにいるのであれば反応するのだ!」


 道なき道を進み枝を掻き分けると、少し広場に出る。すると、その中心にはシャロンらしき人影があった。


「シャロン!」


 ライトニングは大声で叫ぶと、シャロンはビクッと体を震わせライトニングを見る。


「おにーちゃん!来ちゃダメ!」


 梟のゲージを抱き締め震えるシャロンが涙ながらにそう叫んだため、ライトニングは立ち止まり周囲の様子を伺う。


「なんだ……?何かいる」


 ライトニングは異様な雰囲気を察知し杖を取り出すと、そのは少しずつ正体を表した。


「光よ」


 辺りに光の球を召喚したライトニングは、奇妙な魔力を持ち、異常な見た目をした黒犬が徐々にシャロンに近付いているのを視認すると、慌ててシャロンの前に飛び出す。


「おにーちゃん!」


 シャロンは泣きながらライトニングの後ろに隠れ泣きじゃくると、ライトニングはシャロンの頭を撫でて笑みを浮かべる。


「もう大丈夫だ。私が守ってやる」


 ライトニングの王族としてのプライドが言葉に強さを持たせ、安心したシャロンはその場にへたり込んだ。
 そして、一匹の黒犬シャロン目掛け目掛け飛び出してくると、ライトニングは目を光らせる。


閃雷エクレ!」


 王族はその血筋から魔法陣を用いることなく雷を操作可能だが、一人一人その特性は変わってくる。
 最も殺傷能力を持つ大きな雷を降臨させる第一王子アレクサンダー、雷のパワーを用いて身体能力を上げる第二王子エルラーグ、自身から雷を生み出す第一王女ソフィア。
 そしてライトニングは、眩い閃光を放つ雷を降臨させ、さまざまな形状に変化させる事を得意とした。
 ライトニングは降臨させた閃雷を武器に変え尖ったナイフを作りそれを浮かせると、まるで体の一部かのように操って黒犬ハウンドを滅していく。

 しかし、ライトニングはとあることに気付く。黒犬達は鋭い刃と眩い光にこそダメージを受けるが、閃電による感電は全くすることなく、雷の魔法に関しては一切影響を受けていなかったのだ。


「(普通ならば雷のエネルギーで最低でも怯むはず。私が降臨させる雷の威力は確かに弱いが、全く影響がない訳では無いはずだ。この犬達はなぜ感電しないのだ……?)」


 ライトニングは黒犬に対して何本もの閃電の剣を振り翳し、黒犬は生き絶え動かなくなった。


「くっ……(物理攻撃は効くが、これが何匹も襲ってきたら対応ができない)」


 森の奥からどんどんと黒犬が溢れていることに気づいたライトニングは、シャロンを優先で守りこの場から撤退させようとするが、そこにリュドウィックが颯爽と現れる。



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