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一年生・秋の章<それぞれの一週間>

謝罪のお茶会④

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「笑わないで聞いてもらえるか」


 フィンの優しさで絆されたライトニングは、それから自分の口でことの顛末を語り出す。
 アレクサンダーから罰を受け、リーヴェスを側近から外され泣いていたため目を腫らし手紙に涙を零してしまったと言うと、フィンは青ざめた表情をした。


「そ、そんな……!僕はもうなんともないので、許してもらうことはできないのでしょうか?」

「そういう問題では無いのだ……」


 ライトニングは小さく溜息を吐いて苦笑をすると、話を続ける。


「大体、このぐらいのことで泣くような王子だ。私は王子として欠陥が多いと自分でも自覚している。それを隠すために虚勢を張っていた。
 兄様は、それを見透かしている。だから小心者の僕を鍛えるために昔から厳しくしてきたのだが、きっと今回の件で呆れたのだろう。僕がどうしようもない理由で君を侮辱したのだからな」

「……」


 フィンは悲しげな表情で黙ってライトニングの話を聞き続けた。
 ライトニングは半分以下になった紅茶を見て、少し揺らぐ水面を眺めながら眉を下げる。


「私はリーヴェスが世界で一番大切なのだ……だから取り戻すには、王子としてどうあるべきか自分で答えを出すしか無い。私に仕えてリーヴェスが恥をかくことのないように、私はリーヴェスの手を借りず立派な王子として生まれ変わらなければならないのだろう」


 ライトニングがそう語ると、フィンは大粒の涙を流していることに気づき目を見開く。


「な、何故お前が泣くのだ……!?」


 今度はライトニングが慌てて椅子から立ち上がる。


「ご、ごめんなさい!だって……!僕と同じ歳なのに、すごくしっかりしていると思ったんです!僕はいつも誰かに守られてばかりなのに、王子は一人で……っ!とてもご立派だと思うんです……!」


 フィンは必死にライトニングにそう言うと、ライトニングは気の抜けた表情で椅子に座りやがて軽く笑みを浮かべた。


「私を褒めるなんて、お前とリーヴェスぐらいだ」


 ライトニングはフィンに気を許し、優しい笑みを浮かべ「ありがとう」と小さくフィンにお礼を言った。

 それからの二人は、たわいもない話をしたり、フィンがいかにして王都に来たかの話をした。


「なんだお前、壮絶な人生のくせに顔に全く出さないじゃいか。私ならどこかのタイミングで死んでいるかもな」


 ライトニングはすっかりフィンと打ち解け、フィンの性格を理解していく。


「壮絶なんでしょうか?確かに両親が死んだのは悲しいことですが……親を知らない子供もいっぱい見てきたので」


 フィンはライトニングににぱっと笑いかける。


「……」


 フィン・ステラは間違いなく善人で、傷付けてはならない者だと話せば話すほどそう感じていたライトニング。
 フィンにはきちんとあの日の自分の感情を語らなければと思い、意を決して口を開いた。


「フィン。話を戻すが……私はあの時、お前の性別を疑っていたのと同時に、リーヴェスがお前に惚れたのかと思ったのだ。だからあんなことをした。本当にすまなかった」

「え!?リーヴェス様が!?それはないと思います……」

「何故そう言い切れる?」

「だって、王子は見えていないですが、リーヴェス様はずっと王子の事を目で追っていたので……」

「?そうなのか……。まぁ、リーヴェスは別に自分の意思で私の側近になったわけではないが、優秀な側近として働いてくれていた。私に何か危害がないように見守っていたのだろう。
 今じゃ我儘な私から離れることができて、本当はせーせーしているのかもしれないが」


 ライトニングはそう言って切なそうに笑うと、フィンは胸を痛めながら俯く。


「あ、あの、聞きたいのですが」

「申してみよ」

「王子はその……リーヴェス様のことが好きなのですか?」


 フィンの問いかけに、リーヴェスは目を見開き首を傾げる。


「好き……?そりゃあ私の側近だからな、私になりに大事に思っている」


 ライトニングは自信満々にそう答えると、フィンは困った表情を浮かべた。


「そ、そうではなく、恋愛感情という意味で、です」


 フィンは小さな声でそう伝えると、ライトニングは目を丸くさせた。


「え?恋愛……?」

「ち、違ったらごめんなさいっ……!でも先程の理由を聞いたら、そうなのかなと思ってしまって」


 フィンは慌てながら身振り手振りでそう伝えると、ライトニングは一瞬考え込む。


「私が、リーヴェスに恋愛感情を……?」


 ライトニングはそう呟き、リーヴェスのことを思い浮かべる。
 朝も夜も昼も、リーヴェスはライトニングに付き添い、笑顔をくれる。

 朝が弱いライトニングに、ハーブティーを持ってきて起こしに来る姿。
 何かあれば真っ先にライトニングを守り盾となる姿。
 何かを成し遂げた時に褒めてくれる姿。
 我儘を言えば、困りながらも応えてくれる姿。
 眠れない夜は、ライトニングが眠るまで優しい声色で話をしてくれる。

 ほんの数日前までは当たり前の日常。
 それが一瞬にして無くなったことを再確認したライトニングは、ぽろぽろと涙を流した。


「そうか、私は……」


 自分の気持ちに気付いたライトニングは、涙を拭いながらフィンに笑いかける。



「馬鹿だな、今気付いたよ」








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