上 下
177 / 318
一年生・秋の章<それぞれの一週間>

謝罪のお茶会③

しおりを挟む

「普通、自分のテリトリー外で食事をする時は毒を避けるために毒の知識を持つ者を連れていく」


 ライトニングがそう言って紅茶を啜ると、フィンは柔らかな笑みを浮かべた。


「王子は王族だからそうするべきですが、僕はただの庶民なのでそんな必要はないんです。アネモネは、僕が一人でいくと心細いのでは、と自ら申し出て着いてきてくれたんですよ。
 それに、ライトニング王子はそんなことされないと思ってます」


 フィンはそう言ってから、「頂きます」と言って紅茶を啜る。上品な味わいの中に初々しい花々の香りがし、フィンは「美味しいです」と心底嬉しそうな表情を浮かべた。


「……つまり、今日は大魔法師の許可を得ることなく独断で来たのか?あのメイドは大魔法師が連れて行くように言ったのかと思ったが」


 ライトニングは腫れた目を見開いて驚きながら紅茶のカップを持つ手を止める。


「は、はい!今日はリヒトはお仕事なので……!僕が来たくて来たんですよ、きっとリヒトはびっくりしちゃうかもですね……」


 フィンが一人で王城で第三王子とお茶会をした、となればリヒトは驚くだろうとフィンは小さく笑った。


「(大魔法師を呼び捨て、よほど仲が良いのか)……呼んでおいてなんだが、嫌ではなかったのか」


 ライトニングは不安げに、フィンの顔を見ず小さく問いかける。


「(あれ……?ライトニング王子、エスペランス祭の時はちょっと怖いと思ったけど……全然印象が違う)」


 フィンは紅茶のカップを置いて口を開いた。


「あの、嫌では無かったのですが、その、むしろ王子に謝りたくて」

「お前が?なぜ?今日は私がお前に直接謝罪するために呼んだのだが」


 ライトニングは不可解な表情をしてフィンを見つめる。近くで見ると余計に、フィンの可愛さを実感し、心の綺麗さが表情に出ていると感じる。未だにリーヴェスがフィンに心を奪われたと思っているライトニングは、悔しそうに表情を歪めた。


「その……リヒトは僕のことになると必死になっちゃうんです。だから、アレクサンダー王子に手紙を送ったと後から聞いて、少し不安になりました」

「不安?」


 ライトニングはフィンの話を食い入るように聞く。
 思えば庶民の、なおかつあの大魔法師が大事にしている存在と話す機会など無い。自分とは違う考えをこんなふうに真面目に聞くことがなかったライトニングは、少し新鮮な気持ちになった。


「だ、だって、ライトニング王子にもきっと理由があったんじゃ無いかって思って!だから、それを解決するのが子供のなのかなって思ったんです……!」


 フィンは意を決して立ち上がりそう言い放つと、途端に顔を真っ赤にして座り込む。


「け、喧嘩というのはおこがましかったですかね……でも他にいい表現が見つからなくて」


 フィンは消え入りそうな声でそう言い放つと、ライトニングは一瞬の沈黙の後吹き出し大きな声を出して笑う。


「あっはっは!!王族に対して喧嘩をしたから仲直りをしようという提案は初めて聞いたぞ!!!」


 ライトニングは大笑いすると、フィンは真っ赤な顔で固まり「ごめんなさいっ」と謝罪をして目を固く瞑る。


「……いや、謝るのは私の方だ。本当にすまなかった、これでも反省はしているのだ」


 ライトニングは腫れた目を擦りながら、少し悲しげな表情を浮かべる。


「あの、ライトニング王子、その……目が腫れていらっしゃいますが、どうかされたんですか?その、不躾ですが、手紙にも涙を零したような形跡があって」


 フィンがそう問いかけると、ライトニングは目を見開きジワっと涙を浮かべた。


「お、王子……?その、アレクサンダー王子にたくさん怒られたのですか?僕は気にしていないときちんと伝えておきますので……!」


 フィンはライトニングの心配をしもう一度立ち上がって必死に宥める。ライトニングはゴシゴシと目を擦って涙を拭くと、紅茶をまた飲んでチョコレートを頬張った。


「とりあえず食べろ、美味いぞ」


 ライトニングはフィンにお菓子を食べるように勧めると、フィンは目の前にあったケーキに手をつけて「いただきます」と言って一口頬張る。
 紅茶の香りがする極上のシフォンケーキ
の味に、フィンは表情を綻ばせた後顔を左右に振ってライトニングを見た。


「そ、そういえば、いつも一緒におられたリーヴェス様はいらっしゃらないのですか?」


 フィンが何気なく問いかけると、ライトニングは再びぶわっと涙を溢れさせる。


「えぇっ!?お、王子、ごめんなさいっ……!」


 フィンは慌ててライトニングの横に移動すると、床に膝をついてハンカチを差し出した。


「あの、お話ならいくらでも聞くので、僕でよければ聞かせてもらえませんか?」


 フィンは心底ライトニングを心配して背中をさする。ライトニングはフィンの優しさに余計心を痛めて涙を溢れさせた。


「お前のことはあまり知らなかったが、なるほど……お前は天使のようだ。あの大魔法師がお前を大事にする理由が分かった」


 ライトニングは鼻を啜りながらそう言うと、フィンからハンカチを受け取りそれで鼻をかんだ。
 ライトニングを一回落ち着かせたフィンは、また椅子に座って様子を伺う。

しおりを挟む
感想 153

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?── 嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。 ※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。

処理中です...