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一年生・秋の章<それぞれの一週間>
謝罪のお茶会③
しおりを挟む「普通、自分のテリトリー外で食事をする時は毒を避けるために毒の知識を持つ者を連れていく」
ライトニングがそう言って紅茶を啜ると、フィンは柔らかな笑みを浮かべた。
「王子は王族だからそうするべきですが、僕はただの庶民なのでそんな必要はないんです。アネモネは、僕が一人でいくと心細いのでは、と自ら申し出て着いてきてくれたんですよ。
それに、ライトニング王子はそんなことされないと思ってます」
フィンはそう言ってから、「頂きます」と言って紅茶を啜る。上品な味わいの中に初々しい花々の香りがし、フィンは「美味しいです」と心底嬉しそうな表情を浮かべた。
「……つまり、今日は大魔法師の許可を得ることなく独断で来たのか?あのメイドは大魔法師が連れて行くように言ったのかと思ったが」
ライトニングは腫れた目を見開いて驚きながら紅茶のカップを持つ手を止める。
「は、はい!今日はリヒトはお仕事なので……!僕が来たくて来たんですよ、きっとリヒトはびっくりしちゃうかもですね……」
フィンが一人で王城で第三王子とお茶会をした、となればリヒトは驚くだろうとフィンは小さく笑った。
「(大魔法師を呼び捨て、よほど仲が良いのか)……呼んでおいてなんだが、嫌ではなかったのか」
ライトニングは不安げに、フィンの顔を見ず小さく問いかける。
「(あれ……?ライトニング王子、エスペランス祭の時はちょっと怖いと思ったけど……全然印象が違う)」
フィンは紅茶のカップを置いて口を開いた。
「あの、嫌では無かったのですが、その、むしろ王子に謝りたくて」
「お前が?なぜ?今日は私がお前に直接謝罪するために呼んだのだが」
ライトニングは不可解な表情をしてフィンを見つめる。近くで見ると余計に、フィンの可愛さを実感し、心の綺麗さが表情に出ていると感じる。未だにリーヴェスがフィンに心を奪われたと思っているライトニングは、悔しそうに表情を歪めた。
「その……リヒトは僕のことになると必死になっちゃうんです。だから、アレクサンダー王子に手紙を送ったと後から聞いて、少し不安になりました」
「不安?」
ライトニングはフィンの話を食い入るように聞く。
思えば庶民の、なおかつあの大魔法師が大事にしている存在と話す機会など無い。自分とは違う考えをこんなふうに真面目に聞くことがなかったライトニングは、少し新鮮な気持ちになった。
「だ、だって、ライトニング王子にもきっと理由があったんじゃ無いかって思って!だから、それを二人で解決するのが子供の喧嘩なのかなって思ったんです……!」
フィンは意を決して立ち上がりそう言い放つと、途端に顔を真っ赤にして座り込む。
「け、喧嘩というのはおこがましかったですかね……でも他にいい表現が見つからなくて」
フィンは消え入りそうな声でそう言い放つと、ライトニングは一瞬の沈黙の後吹き出し大きな声を出して笑う。
「あっはっは!!王族に対して喧嘩をしたから仲直りをしようという提案は初めて聞いたぞ!!!」
ライトニングは大笑いすると、フィンは真っ赤な顔で固まり「ごめんなさいっ」と謝罪をして目を固く瞑る。
「……いや、謝るのは私の方だ。本当にすまなかった、これでも反省はしているのだ」
ライトニングは腫れた目を擦りながら、少し悲しげな表情を浮かべる。
「あの、ライトニング王子、その……目が腫れていらっしゃいますが、どうかされたんですか?その、不躾ですが、手紙にも涙を零したような形跡があって」
フィンがそう問いかけると、ライトニングは目を見開きジワっと涙を浮かべた。
「お、王子……?その、アレクサンダー王子にたくさん怒られたのですか?僕は気にしていないときちんと伝えておきますので……!」
フィンはライトニングの心配をしもう一度立ち上がって必死に宥める。ライトニングはゴシゴシと目を擦って涙を拭くと、紅茶をまた飲んでチョコレートを頬張った。
「とりあえず食べろ、美味いぞ」
ライトニングはフィンにお菓子を食べるように勧めると、フィンは目の前にあったケーキに手をつけて「いただきます」と言って一口頬張る。
紅茶の香りがする極上のシフォンケーキ
の味に、フィンは表情を綻ばせた後顔を左右に振ってライトニングを見た。
「そ、そういえば、いつも一緒におられたリーヴェス様はいらっしゃらないのですか?」
フィンが何気なく問いかけると、ライトニングは再びぶわっと涙を溢れさせる。
「えぇっ!?お、王子、ごめんなさいっ……!」
フィンは慌ててライトニングの横に移動すると、床に膝をついてハンカチを差し出した。
「あの、お話ならいくらでも聞くので、僕でよければ聞かせてもらえませんか?」
フィンは心底ライトニングを心配して背中をさする。ライトニングはフィンの優しさに余計心を痛めて涙を溢れさせた。
「お前のことはあまり知らなかったが、なるほど……お前は天使のようだ。あの大魔法師がお前を大事にする理由が分かった」
ライトニングは鼻を啜りながらそう言うと、フィンからハンカチを受け取りそれで鼻をかんだ。
ライトニングを一回落ち着かせたフィンは、また椅子に座って様子を伺う。
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