上 下
176 / 318
一年生・秋の章<それぞれの一週間>

謝罪のお茶会②

しおりを挟む


 王城の門番前。
 王族騎士団が守りを固めた正門に、シュヴァリエ家の馬車は降り立った。


「シュヴァリエ家の馬車だぞ!」
「そんな予定があったか?」
「大魔法師様は王族特務の任務と聞いてるが」


 騎士団は驚きながらも隊列を崩すことなく馬車を見つめる。
 馬車の扉が開き、まず先に降りたのはアネモネ。品のあるメイドドレスを翻した後、フィンをエスコートした。


「(わー!騎士団のひとがいっぱい!)」


 フィンは馬車から降り立った後、アネモネの後ろを歩きながら正門へ近付いていく。


「シュヴァリエ公爵家の使いの者か?」


 門番がアネモネを見下ろして問いかけると、アネモネは真顔で口を開く。


「お初にお目にかかります。私はシュヴァリエ公爵に使える“高級魔法人形ドール“のアネモネと申します。
 この度は、こちらにいらっしゃるフィン様が第三王子からお茶会のお誘いを受けて馳せ参じました」

「……(ドール?随分と精巧な作り。言われなければ気付かないほどだ。ドールの中でも特級品。間違いなさそうだ)」


 門番はアネモネをじろじろと見定めるように眺めた後、斜め後ろにいたフィンを睨む。
 シュヴァリエ家の特徴である銀髪でもなければハイエルフでもない。この小さいエルフは誰だと一瞬考える門番。
 しかしその疑問も一瞬で晴れることとなる。


「……?貴方は、この間の疾風走テンペスターで優勝したフィン・ステラか?」


 門番は目の色を変え質問すると、フィンは驚いた表情を浮かべて頷いた。


「は、はい!知っていただけて光栄です」


 フィンが肯定すると、周囲は少しざわつく。リーヴェスを負かした庶民だと噂は広まっていたため、フィンは有名人になっていた。
 さらに、フィンの胸元にはエヴァンジェリンから受け取ったブローチが輝く。フィンの後見人がリヒト・シュヴァリエであるという噂も流れていたため、このブローチを見た門番は納得したのかフィンに一礼した。


「!?」


 フィンは慌てふためきアネモネを見上げると、アネモネも少し驚いた様子だった。


「(……杞憂でしたね。フィン様はもうただの庶民として見られることはどんどん減っていくでしょう)」


 アネモネは誇らしげに小さく笑みを浮かべると、すぐに真顔に戻り門番を見つめる。


「フィン様、第三王子からの招待状を確認させてください」

「はい!もちろんです!」


 門番は手順通りに事を進め、フィンは言う通りライトニングから届いた手紙を門番に見せると、王族のシーリングスタンプがされていることを確認した門番は一礼する。


「確認致しました。では案内しましょう」


 門番は正門を開ける合図を送ると、王城の大きな扉はフィン達のために開かれる。
 フィンは緊張した面持ちだったため、アネモネはフィンと手を繋いで小さく笑みを浮かべた。


「いきましょう、フィン様」


 初めて出会った頃より表情豊かになったアネモネ。そんなアネモネの優しさを受けたフィンは、顔を綻ばせ小さく頷く。


「うんっ……!」



------------------------------------



 王城には、それぞれの王子が管轄する城がある。ライトニングは自身が生まれた際に建てられた”ライトニング城“にて生活しており、フィンはその入り口まで案内された。
 扉が開かれると、目を腫らしたライトニングとメイド達が迎え入れる。


「よく来たフィン・ステラ。急な呼び出しで悪かったな」


 ライトニングは王族としてのプライドを全面に出して強気な声と表情でフィンを迎え入れる。


「いえ……こ、こちらこそお呼びいただき光栄です」
 

 フィンはそう言って目上の者にする挨拶を行うと、ライトニングはそのままフィンを案内した。
 温かな光りがステンドグラスに差し込む広い部屋で、ライトニングとフィンだけのお茶会が始まる。
 扉前にはアネモネとライトニング城で働く女中が待機しており、二人は目を見合わせた。


「ライトニング城の女中長・アメリです。よろしくお願いします」

「シュヴァリエ公爵に使える高級魔法人形ドールのアネモネです」

「えっドール?ドールなんですか?」


 アメリは驚きの表情でアネモネをじっくりと見つめるが、精巧な作りのため自分達と同じエルフにしか見えないと目を疑った。


「はい。見ての通りドールでございます」

「いえ、見ただけじゃ分かりませんでした」

「それは光栄です」


 一方のフィンは、お洒落なアンティーク調の椅子に座り、ライトニングを控えめに見つめながら緊張した面持ちでいると、ライトニングは鼻で笑い口を開く。


「紅茶、飲んでいいぞ。お前の好みが分からないからとりあえず王族が好むスイーツを並べた。
 毒が不安ならお前が連れてきたメイドに飲ませてから飲むといい」


 ライトニングがアネモネを指差しそう言って退けると、フィンは首を傾げる。


「アネモネはドールなので飲食ができません。お気遣いありがとうございます」

「ドール?そうか、あれはドールなのか……ドールだけを連れて来るなんて、お前変だな」

「どうしてですか?」


 フィンは疑問で頭がいっぱいになり首を傾げながら問いかける。





しおりを挟む
感想 153

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

処理中です...