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一年生・秋の章<それぞれの一週間>
謝罪のお茶会②
しおりを挟む王城の門番前。
王族騎士団が守りを固めた正門に、シュヴァリエ家の馬車は降り立った。
「シュヴァリエ家の馬車だぞ!」
「そんな予定があったか?」
「大魔法師様は王族特務の任務と聞いてるが」
騎士団は驚きながらも隊列を崩すことなく馬車を見つめる。
馬車の扉が開き、まず先に降りたのはアネモネ。品のあるメイドドレスを翻した後、フィンをエスコートした。
「(わー!騎士団のひとがいっぱい!)」
フィンは馬車から降り立った後、アネモネの後ろを歩きながら正門へ近付いていく。
「シュヴァリエ公爵家の使いの者か?」
門番がアネモネを見下ろして問いかけると、アネモネは真顔で口を開く。
「お初にお目にかかります。私はシュヴァリエ公爵に使える“高級魔法人形“のアネモネと申します。
この度は、こちらにいらっしゃるフィン様が第三王子からお茶会のお誘いを受けて馳せ参じました」
「……(ドール?随分と精巧な作り。言われなければ気付かないほどだ。ドールの中でも特級品。間違いなさそうだ)」
門番はアネモネをじろじろと見定めるように眺めた後、斜め後ろにいたフィンを睨む。
シュヴァリエ家の特徴である銀髪でもなければハイエルフでもない。この小さいエルフは誰だと一瞬考える門番。
しかしその疑問も一瞬で晴れることとなる。
「……?貴方は、この間の疾風走で優勝したフィン・ステラか?」
門番は目の色を変え質問すると、フィンは驚いた表情を浮かべて頷いた。
「は、はい!知っていただけて光栄です」
フィンが肯定すると、周囲は少しざわつく。リーヴェスを負かした庶民だと噂は広まっていたため、フィンは有名人になっていた。
さらに、フィンの胸元にはエヴァンジェリンから受け取ったブローチが輝く。フィンの後見人がリヒト・シュヴァリエであるという噂も流れていたため、このブローチを見た門番は納得したのかフィンに一礼した。
「!?」
フィンは慌てふためきアネモネを見上げると、アネモネも少し驚いた様子だった。
「(……杞憂でしたね。フィン様はもうただの庶民として見られることはどんどん減っていくでしょう)」
アネモネは誇らしげに小さく笑みを浮かべると、すぐに真顔に戻り門番を見つめる。
「フィン様、第三王子からの招待状を確認させてください」
「はい!もちろんです!」
門番は手順通りに事を進め、フィンは言う通りライトニングから届いた手紙を門番に見せると、王族のシーリングスタンプがされていることを確認した門番は一礼する。
「確認致しました。では案内しましょう」
門番は正門を開ける合図を送ると、王城の大きな扉はフィン達のために開かれる。
フィンは緊張した面持ちだったため、アネモネはフィンと手を繋いで小さく笑みを浮かべた。
「いきましょう、フィン様」
初めて出会った頃より表情豊かになったアネモネ。そんなアネモネの優しさを受けたフィンは、顔を綻ばせ小さく頷く。
「うんっ……!」
------------------------------------
王城には、それぞれの王子が管轄する城がある。ライトニングは自身が生まれた際に建てられた”ライトニング城“にて生活しており、フィンはその入り口まで案内された。
扉が開かれると、目を腫らしたライトニングとメイド達が迎え入れる。
「よく来たフィン・ステラ。急な呼び出しで悪かったな」
ライトニングは王族としてのプライドを全面に出して強気な声と表情でフィンを迎え入れる。
「いえ……こ、こちらこそお呼びいただき光栄です」
フィンはそう言って目上の者にする挨拶を行うと、ライトニングはそのままフィンを案内した。
温かな光りがステンドグラスに差し込む広い部屋で、ライトニングとフィンだけのお茶会が始まる。
扉前にはアネモネとライトニング城で働く女中が待機しており、二人は目を見合わせた。
「ライトニング城の女中長・アメリです。よろしくお願いします」
「シュヴァリエ公爵に使える高級魔法人形のアネモネです」
「えっドール?ドールなんですか?」
アメリは驚きの表情でアネモネをじっくりと見つめるが、精巧な作りのため自分達と同じエルフにしか見えないと目を疑った。
「はい。見ての通りドールでございます」
「いえ、見ただけじゃ分かりませんでした」
「それは光栄です」
一方のフィンは、お洒落なアンティーク調の椅子に座り、ライトニングを控えめに見つめながら緊張した面持ちでいると、ライトニングは鼻で笑い口を開く。
「紅茶、飲んでいいぞ。お前の好みが分からないからとりあえず王族が好むスイーツを並べた。
毒が不安ならお前が連れてきたメイドに飲ませてから飲むといい」
ライトニングがアネモネを指差しそう言って退けると、フィンは首を傾げる。
「アネモネはドールなので飲食ができません。お気遣いありがとうございます」
「ドール?そうか、あれはドールなのか……ドールだけを連れて来るなんて、お前変だな」
「どうしてですか?」
フィンは疑問で頭がいっぱいになり首を傾げながら問いかける。
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