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一年生・秋の章<それぞれの一週間>

謝罪のお茶会①

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 ミスティルティン魔法図書館で客として本を読んでいたフィンの元に、一匹の雀がやってくる。その小さな愛らしい体に不釣り合いな手紙を咥えていた雀は、フィンの元へ辿り着くとその手紙を差し出す。


「伝書雀……?かわいい!」


 手紙の受け渡しは伝書鳩が通常。リヒトは梟を愛用しているが、雀が手紙を運ぶのは滅多に見たことがないとフィンは目を見開いた。


「僕にお手紙ですか?小さいのにこんな大きなお手紙をありがとうございます」


 フィンは雀の頭をちょんちょんと撫でながら手紙を受け取ると、雀は誇らしげな表情をする。


「ちゅん!」


 役目を果たした雀は、愛らしい声色で鳴いてからすぐに飛び立っていた。


「だれからかなー?」


 手紙の差出人は書いていなかったが、シーリングスタンプを目にしたフィンは驚きの表情を浮かべる。
 黄色い薔薇の紋章“雷を宿らせし薔薇”は王族の紋章。つまり、王族から手紙が届いたという事実にフィンは驚愕した。


「あああああ、どうしよう、どうしようっ」


 フィンはその手紙を持って慌てて別邸に戻るが、リヒトは任務で外に出ていることを思い出したフィンは、恐る恐るその封筒を開いた。


「“謝罪をしたいからぜひお茶会を”……?お、お茶会……!?ライトニング王子からのお誘い!?」


 ライトニングから謝罪をしたいからお茶会に来てほしいと言う旨の手紙を呼んだフィンは日時を確認する。


「今日の15:30……二時間後!?」


 王族にお茶会に誘われたことなどもちろん無いフィンは、どうしたらいいか分からず慌てたように別邸内を走り回った。
 すると、騒ぎを聞きつけたアネモネがこっそり顔を出す。


「フィン様、どうしたのです」


 アネモネは首を傾げながら慌てるフィンに声をかけると、フィンはピタッと動きを止めてアネモネに抱き付いた。


「アネモネー!」

「はい、フィン様」


 アネモネはよしよしとフィンの頭を撫でながら返事をする。


「あのね、第三王子からお茶会の誘いがあって……!リヒトは夜まで帰ってこないし、勝手に行ってもいいのかぁ……?それに、何を着ていけばいいかも分からないよー!」


 フィンは焦った表情でアネモネを見上げて問いかけると、アネモネは首を傾げる。


「服に関しては、確かお茶会用の服があったはずです。それにお茶会は長くても二時間で終わりますから、ご主人様が帰られるまでに別邸に戻れるはずですが」


 アネモネがそう提案するが、フィンはリヒトがいない間に勝手に王城へ行って王子とお茶会をしてもいいのかと迷った表情を浮かべた。


「フィン様はこのお茶会に行きたいですか?行きたいのであれば、私はフィン様が好きにすればいいと思います。ご主人様も心配はするかもしれませんが、フィン様が自分の意志を強く持って行動したとわかれば怒りはしないはずですよ。
 どんな事情かは私には分かりませんが、王族とシュヴァリエ家は繋がりが深い間柄。フィン様を呼び出しておいて危害を加えるなんてこと、しないと思います」


 アネモネはフィンの自立心を育てるようにそう促すと、フィンはもう一度手紙を読み返す。
 第三王子とはあの日以来顔を合わせておらず、リヒトが止めに入ったことでそのまま終わってしまった。
 手紙からは悪意が感じられないが、一人で行くのは不安だと感じたフィンはアネモネを見上げる。


「ねえアネモネ」

「はい」

「アネモネも一緒に行かない?」


 フィンの提案に、アネモネは少し笑みを浮かべ頷く。


「大変良い選択かと思います。通常こういった場合、従者を連れて行くのが基本です。私がその役目を果たしましょう」

「ありがとう……!」


 フィンは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「ご主人様不在時、フィン様を守るように仰せ使っておりますので、何かあれば私がお守りします」


 アネモネはそう言ってフィンを着替えさせると、自分も他所行きのメイドドレスに着替えるためその場を離れる。
 フィンはもう一度手紙を読み返していると、あることに気付いた。


「……あれ、涙の跡?ちょっとだけ滲んでいる」


 手紙の後半に、球状の滲みを確認したフィン。まるで手紙を書きながら涙を流したのような状態だったため、フィンは首を傾げた。


「何かあったのかな……」


 フィンは第三王子の手紙を綺麗に戻すと、その手紙を持って準備を終えたアネモネと共に王城へと出発しようとする。
 しかし、アネモネは何かを思い出したように動きを止めた。


「馬車……」


 リヒトが持つ馬車はリヒトの許可無しでは使えないため、アネモネはエヴァンジェリンに許可を得る必要があるとフィンに説明する。


「エヴァ様のところへいこうか」


 フィンはベルを鳴らして別邸の扉を開けると、エヴァンジェリンはすぐさまフィンの元へ駆けつけた。


「フィンちゃーんっ♡」


 エヴァンジェリンは嬉しそうな声を出してフィンに抱きつくと、フィンは事情を説明して馬車を貸してほしいと申し出た。


「任せなさいっ!あ、王城に行くならこれをつけていって」


 エヴァンジェリンはフィンの服の胸元に、シュヴァリエ家の家紋である天秤と梟のブローチを付けて笑みを浮かべる。


「これはね、シュヴァリエ家が認めた者が付けることを許されたブローチなの。シュヴァリエ家の庇護を受けていますという証だから、これがあればきっとスムーズね」


 第三王子から招かれているとは言え、フィンは庶民の立場。簡単に門扉を潜れないかもしれないと危惧したエヴァンジェリンの気遣いだった。


「ありがとうございます!こんな貴重なブローチ……」


 フィンはブローチを見つめながら嬉しそうに笑みを浮かべた。


「でもまあ、アネモネがいるなら心強いわね」


 エヴァンジェリンはアネモネを見て微笑見を浮かべる。
 アネモネは凛とした表情で佇んでおり、馬車を貸してくれたエヴァンジェリンに一礼をした。


「さあ、王族のお呼び出しなら遅刻は厳禁よ!いってらっしゃいフィンちゃん」

「わわっ!準備してたらもうこんな時間!行ってきますエヴァさまぁー!」

「気をつけるのよフィンちゃーん」


 フィンは満面の笑みでエヴァンジェリンに手を振ると、エヴァンジェリンも手を振り返して優しく笑みを浮かべた。


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