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一年生・秋の章<それぞれの一週間>

揺るぎなき最強①

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「すまない。後は頼んだ……だい、まほうし……」


 アカシックレコードを終えたことを確認したライトニングは、役目を終えた瞬間に意識を失い横向きに倒れる。


「王子さま!」


 シャロンがそう叫ぶと同時に、リヒトはライトニングの体を瞬時に支え、地面に自身の王族特務の羽織を置いてからそっと寝かせた。
 リヒトの羽織と体はライトニングの血でべっとりと汚れ、ライトニングはうっすらと目を開け声を振り絞る。


「申し訳ない、私の血が」

「名誉の負傷で流した血です。光栄なこと。……今はゆっくりとお休みください」


 ライトニングはリヒトにそう言われると安心したように小さく笑みを浮かべ、そのまま完全に意識を手放した。
 シャロンはライトニングに駆け寄り、泣きながらリヒトを見上げる。


「大魔法師さま、王子さまは大丈夫?」

「すぐに助けが来るから問題は無い。……そこで見守っていてくれるか」


 シャロンの純粋な瞳を見てなんとなくフィンを思い出したリヒトは、少し優しい声色でそう伝えると、シャロンは安心したように笑みを浮かべた。


「はい!大魔法師さま、王子さまを助けてくれてありがとう!」


 シャロンはリヒトに満面の笑みでお礼を言うと、自分が着ていた小さな青色のコートをふわりとライトニングの上半身にかけて手を握る。


「王子さま、がんばってね……」


 シャロンの小さな上着は、ライトニングの体を全て覆うには小さい。それでも、ライトニングはうっすらと笑みを浮かべシャロンの手を無意識に握り返したのであった。


「大魔法師様!」


 そこの、箒に乗って軍団を率いたシルヴァンが現れる。その傍らには血相を変えたアレクサンダーがおり、血だらけのライトニングを確認するとすぐさま駆け寄った。


「ライトニング!!!!」


 アレクサンダーはライトニングの顔を撫でて生死を確認する。


「落ち着けアレク、眠ってるだけだ。ただ、背中の出血がひどい。早く王城に運び治療させろ」


 リヒトは心底焦った表情をするアレクサンダーにそう言う。


「シルヴァン、ライトニングを急ぎ城へ運べ。王族特務・大魔法医学師のシャルロットに急ぎ治療させるんだ!何よりも優先させろ!分かったな!」


 怒気迫る声で命令を下すアレクサンダーに、シルヴァンは「御意」と返答し、騎士団の半分を連れて急ぎライトニングを王城へと連れて行った。


「お前、その血はどうした」


 アレクサンダーはリヒトの体に付着した血液を見て、怪我をしたのかと勘違いをし目を見開く。


「全部ライトニング王子の血だ」


 リヒトの言葉にアレクサンダーは察したように表情を歪めた。


「……視たか?」


 アカシックレコードの使用有無を確認するアレクサンダー。


「ああ。全てこの頭に記憶が入った。ライトニング王子はそこのシャロンという子供を最後まで守り抜いていた。
 ……お前の王子としての教育は、きちんと刻まれていたぞ」

「そうか……頼りない弟だと思っていたが、王族としての矜持は理解していたのだな」


 アレクサンダーはシャロンを見て目を細める。


「怖い思いをしたな。怪我がなくてよかった」


 アレクサンダーは地面に片膝をついて視線を合わせ笑みを浮かべると、シャロンは首を横に振る。


「ううん。あのね、ライトニング王子が助けてくれたの……それでね、王子さまが悪い怪物に食べられちゃうってなったときにね、大魔法師さまが来てくれたの!!」


 シャロンは泣いた後の真っ赤な目を輝かせ、手を大きく広げてそう説明する。


「ライトニング王子は死を覚悟した時、最上級の防御魔法を唱えていた。魔力もほとんど使い切っていたのだろう。
 おそらく、一足遅ければ間に合わなかった」


 リヒトはアカシックレコードの記憶を頼りにアレクサンダーにそう告げると、アレクサンダーは自身の心臓あたりを掴み一瞬歯を食いしばる。


「……そうか。シャロンと言ったか、少し待っていてくれるか」

「うん」

 
 アレクサンダーはシャロンの頭を撫でてから立ち上がり、リヒトを見る。


「リヒトよ、恩に着る……。裏切り者が三名、そのうち二名が城内で暴れ回ったせいで到着が遅れた。お前がいてくれて良かった」


 アレクサンダーがそう伝えると、潜んでいるリュドウィックは一瞬目を見開く。


「(アイツらが捕まったのか……シルヴァン相手に油断したな。あれほど警戒しろと言ったのに)」


 リヒトは真顔で魔力を澄まし、残った反逆者であるリュドウィックが森に潜んでいると考え口を開く。


「残る一人、反逆者のリュドウィック・クレマンはまだ近くにいるはずだ。現場に到着する寸前まで気味の悪い怪物を操っていた形跡があった。
 生きて捕らえるか?それとも殺すか?私はお前の言う通りに動く。
 ……アレクサンダー王子よ。命令を」


 リヒトは暗い森を睨み付け、淡々とアレクサンダーに問いかけた。
 それを聞いていたリュドウィックは、目を見開き口を抑える。


「(大魔法師は最初から気付いていた!?
 まるですぐに捕まえられるから、わざと泳がせていたと言っているようなものではないか!いや、いくら大魔法師とて、今の私は完璧に変身魔法で烏になっているからじっとして居ればバレることはない。
 バレたとて、すぐさま飛び立って帝国領へ逃げればこちらの勝ちだ。落ち着け。変に動かない方がいい)」


 そう考えるリュドウィックだが、この数分後にリヒトを甘く見ていたと後悔することとなる。


「王族特務・大魔法師リヒト・シュヴァリエ。反逆者を生きて捉えろ!帝国領に逃げる前に」


 アレクサンダーは第一王子としてリヒトに命令を下すと、リヒトは「御意」と答えフェンリルの側へ歩いた。


「フェンリル。リュドウィック・クレマンの場所は分かるな?匂いを覚えさせているはずだ」


 実はシルヴァンが怪しいと睨んだ人物の私物を予め入手し、フェンリルへ匂いを覚えさせていたリヒト。
 フェンリルは鼻をくんくんと動かし、リュドウィックのいる方向へ顔を向けた。


『少しですが、僅かに匂いがします』

「!?」


 リュドウィックはフェンリルの言葉に目を見開く。


「(あの特級精霊……!厄介だ!)」


 リュドウィックはこのまま飛び立とうか迷っていると、リヒトはフェンリルが示す方向へと歩みを進めて杖を取り出す。

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