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一年生・秋の章 <エスペランス祭>

祝勝会②

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「それより、貴方の方こそ……その“ティオ”という方とは随分と親しそうですね」


 シャオランは横を歩くフォンゼルをじとっとした目で見ながら問いかける。


「うん。ボク西部出身やから、こっちで繋がりのある貴族の家に寄宿してんねん。ティオも西部出身やし、


 シャオランは目を見開く。


「い、一緒に……?」

「うん。部屋は別やけど」

「…………へぇ、一緒に、ですか」


 フォンゼルはシャオランを見る事なく、嫉妬混じりの声色で相槌をうつ。


「(うわー!結構妬いてるやん!めっちゃ嬉しい!)」


 フォンゼルは胸の高鳴りを感じ目を輝かせる。
 気付けば大ホールの外に出ている二人。秋とはいえ冬が近く、夜は冷えるため、二人は自然と体を近づかせながら歩いた。


「あ、馬車や」


 正門に待機していた馬車が見えると、フォンゼルは笑みを浮かべる。
 馬車の扉が開くと、白髪はくはつのポニーテール姿の男が降りてきたため、シャオランはジッとその様子をみた。
 フォンゼルは一気に走り出し、その人物に思い切り抱きつく。


「ティオー!」

「フォン」


 フォンゼルは満面の笑みを見せながら抱きついたため、シャオランは眉を顰めた。


「(一体何を見せられてるんですか……僕の目の前で抱きつくなんてどういう神経を……やはり僕はからかわれているのでしょうか)」


 シャオランは、焦燥感と嫉妬心を抱えながら“ティオ”というエルフに目を向けると、先ほどまで抱えていた嫉妬心が一気に消え去る。


「あれ?顔が同じ……?」


 それもそのはず、フォンゼルが抱き付いた相手は、フォンゼルと全く同じ顔をしていたからだ。


「ああ、貴方は毒迷宮ラビリンスの!どうも、フォンゼルの双子の兄、ティオボルドいいますー」


 ティオボルドは礼儀正しく貴族風のお辞儀をしてシャオランに笑顔を向ける。
 雰囲気はまるで違うが、独特のイントネーションと方言、そして何より顔が瓜二つのため、シャオランは呆気に取られた表情でティオボルドを見る。


「ふ、双子……?」


 シャオランはフォンゼルの方を見ると、フォンゼルは悪戯な笑みを浮かべたため、シャオランは全て察して溜息を吐く。


「(僕を嫉妬させて楽しんでたんですね、まったく)あ、すみません。ご丁寧にありがとうございます。東方から留学してます、シャオランと申します」


 シャオランは貴族風のお辞儀をすると、ティオボルドは驚いた表情を浮かべた。


「留学生だというのに、こっちの言葉が上手ですね。それに所作も」

「いえ、そんなことはありませんよ。まだ勉強しなければいけないことが沢山ありまます」


 シャオランは謙虚にそう答えてから、フォンゼルを少し睨む。


「フォンゼルさん。貴方、わざと言いませんでしたね?」


 シャオランの指摘に、フォンゼルは笑いを堪える。


「な、何がぁ~?ボク嘘は言ってへんで~」

「そういう問題ではなく……もー。からかいましたね!?」


 シャオランはフォンゼルの肩を掴んでそう言った後、むにむにとフォンゼルの頬を摘む。


「やめー、なにすんねんっ、あははっ、ごめんてー」


 楽しそうに笑うフォンゼルを見たティオボルドは、一瞬驚きの表情を見せた後、やがて嬉しそうに微笑む。


「随分とシャオランさんと仲よーなったんやね、フォン」


 ティオボルドが嬉しそうに問いかけると、フォンゼルはにへらーっと笑って頷く。


「そやでー、ボクの恋人やもん」


 フォンゼルはそう言ってシャオランに抱き付くと、ティオボルドは驚いた表情を浮かべる。


「恋人?えぇ!?ほんまにゆーてる!?」

「うん、ほんまー」


 ティボルドが狼狽える中、フォンゼルは気にせずシャオランを見上げて笑みを浮かべる。


「シャオくん、ほんならまたね?伝書鳩とばすから、お返事してな?絶対やでー?」


 フォンゼルはにぱっと笑ってシャオランの手を両手で握って上下に振る。


「分かりました。おやすみなさい、フォンゼルさん(可愛い……)」


 シャオランは相手の手の冷たさを感じたが、それを温めることなく名残惜しそうな表情を浮かべて、馬車に乗り込むフォンゼルを見送った。


「……」


 何度か体を合わせ急速な蜜月を迎えた二人の様子に、ティオボルドは何か察したのかシャオランに声をかける。


「シャオランさん、その、弟がご迷惑をおかけしてませんか……?あまりにも展開早いんで、びっくりしてもーて」


 ティオボルドは不安げな表情で問いかけると、シャオランは苦笑する。
 確かにフォンゼルから襲われたことが始まりではあるが、結局絆された自分はシャオランを抱いている。そして嫉妬心が芽生えている時点で、もう自分はフォンゼルが好きになっていると確信していたシャオランは、微笑みながら口を開いた。


「いえ、その……迷惑とかはまったくないですよ。驚かせてしまい申し訳ありません」

「フォンはあまりすぐ他人に懐かないんですが、貴方と話すと楽しそうにしていたので、相当貴方のことが好きみたいです」


 ティオボルドがそう言うと、シャオランは目を見開き少し顔を赤らめる。


「そう、ですか」

「これからも弟をよろしくお願いしますね」


 ティオボルドはそう言って馬車に乗り込み、そのまま上昇して夜空に向かって飛んでいった。


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