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一年生・秋の章 <エスペランス祭>

祝勝会①

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「よりにもよって、フィン君に辱めを受けさせようとしたらしい。ズボンを下ろさせようとしたとか。我が弟ながら、品位を疑う……クソ、酔いが覚める」


 アレクサンダーは口に出すのも嫌なのか、言った後に溜息を吐いて頭を抱える。


「えぇー……そりゃまた、なんでそんなことを?理由もなくやるほど馬鹿ではないだろ」


 エリオットは顔を引き攣らせ首を傾げる。


「ふん。アレクの弟だからその場は許したが、次はないぞ」


 リヒトは苛ついた表情でアレクサンダーを睨むと、いつの間にか飲み干していた白ワインのお代わりを手に取る。


「ああ……本当にすまなかったなリヒト。もう二度とそんなことさせないように教育しておくから、今回は許してくれ。
 ただ、庇うわけじゃないが、アイツは驚くほど馬鹿というか、変に天然なところがある。側近のリーヴェスも手を焼くことが多い」


 アレクサンダーは赤ワインを一気に飲み干し同じようにお代わりをすると、エリオットも同じようにウイスキーの二杯目を手に取る。


「で、その馬鹿で天然な第三王子は何を思ってフィン君のズボンを?」


 エリオットの問いかけに、リヒトが口を開いた。


「下心があったわけではないが、どうもフィンが女だと思っていたらしく、男なら証拠を見せろと言って脱がせようとしたらしい。庶民ということもあって、強引にな」


「……えぇー」


 エリオットは引いた目でアレクサンダーを見る。


「……あー、もう、本当にすまない。兄として恥ずかしい限りだ。アイツは一度疑問に思うととことん探る癖もあってな……下心がないとは言え、馬鹿としか言えない。 
 おまけに小心者だから、王族というカードを簡単に使う。カッコ悪い愚弟だが、この一週間でどうにか根性を叩き直しておく」


 アレクサンダーはそう言って溜息を吐くと、ピリついた視線をライトニングに送りったが、それに気付いたのは側近のリーヴェスだった。
 リーヴェスは青ざめた顔をし、横で食事を摂るライトニングに目を向けたが、ライトニングは呑気に食事をしていたため全く気付いていない。


「はー。みろ、視線を送っても気付いたのは側近だ。どれだけ鈍感なんだか」


 アレクサンダーは手すりを背にして大きな溜息を吐く。


「まあ、団体戦では第三王子も活躍してたし、今日はゆっくり休ませて明日から始動すれば良いさ。下心が無いなら良かったよ。それで良いだろ?リヒト」

「第三王子のしつけはアレクに任せる。腹立たしいが、アレもかなり浮世離れしているんだろう」

「おっしゃるとーり……少しぶっ飛んだ思考してるのは母上に似たのかもしれない」


「まー、とりあえず今日は飲んで食ってけ」


 エリオットは苦笑しながら、今度は酒のアテを持ってこさせ、三人はお酒と食事を楽しんだ。


--------------------------------


「あの、シャオラン様……」


 食事を摂っていたシャオランは、突然後ろから話しかけられて振り返る。


「私、二年のアーシェと言います」


 そこにはスレクトゥの制服を着た華奢な女子生徒がおり、シャオランを見上げ自己紹介をすると、少し顔を赤らめて目を逸らした。


「は、はい。何か……?」


 まだスレクトゥに馴染めていないシャオラン。
 それでも、今日の戦いでシャオランを評価する者が増え、特にクラスメイトからは労いの言葉をかけられることが多かったが、二年生から声をかけられるとは思わずシャオランは狼狽える。
 とりあえず、相手の身長差があるため、シャオランは自然と膝を曲げて少し腰を落としながらアーシェを見た。
 

「いっいえ、その、大した話ではないのですが!今日の戦いっぷりを見て、スレクトゥのために体を張ってる姿を見て、その……」

「?」

「とても、カッコよかったです」


 アーシェはそう言って顔を真っ赤にする。


「……ありがとう、ございます」


 シャオランはそう言って物腰柔らかい雰囲気を出しながらお礼を言うと、アーシェは笑みを浮かべて一礼しその場を立ち去った。


「楽しそうやなー」


 そこに、聞き覚えのある声が聞こえたシャオランは慌てて振り返る。


「フォンゼルさん。見てたんですか」

「浮気してないか見張りにきただけやで」


 フォンゼルはにっこりと笑っているが、その声は刺々しくシャオランは狼狽える。


「しませんよ……どっちかというと貴方の方が心配ですけど」


 シャオランはそう言うが、フォンゼルはフッと笑ってシャオランの鼻を摘む。


「西のど田舎貴族がモテるワケないやろ~。じゃ、帰るわー」
 
「もう帰るんですか?」

「うん。疲れたし、眠くて眠くて。お祭りは大好きなんやけどなー?
 が馬車呼んでくれてるから、そろそろいかな」


 知らない名前が出てきたため、シャオランは首を傾げる。


「誰ですか?ティオさんというのは」


 シャオランが疑問を投げかけると、フォンゼルはニヤッと笑い口を開く。


「クラスメイトの中で、いちばぁーん仲ええヤツゥー」
 

 フォンゼルは意地の悪い笑みを浮かべそう言って、シャオランに背を見せる。


「そう、ですか。クラスメイトの方は優しいんですね」


 シャオランはフォンゼルの背中に小さくそう言った。


「……(なんや、シャオくんってあんまり嫉妬とかせーへんのかな?)」


 フォンゼルはシャオランの顔を見るために振り向くと、シャオランが少し暗い表情でフォンゼルを見下ろしていたことに気付く。


「……(あれ?案外、嫉妬してるんかな?)」

「……馬車まで送ります」


 シャオランは低い声でフォンゼルにそう言って、キスの代わりに指をフォンゼルの唇に這わせた。


「っ~♡」


 フォンゼルはゾクっと体を震わせ、心配そうなシャオランの声色でうっとりした表情を浮かべた。


「優しいなぁー、ほんなら馬車まで送って?シャオくん」


 フォンゼルはそう言って会場の外を目指す。


「シャオくん、これからモテるねー」

「なんですか急に」

「だってさっきの女、完全にシャオくんに惚れてる目しとったよ」


 フォンゼルは唇を尖らせながら不機嫌そうに言い放つ。


「どんな目ですか……興味ありませんよ。変な事言わないでください」


 シャオランはそう言って溜息を吐いた。
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