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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
ファンファーレ②
しおりを挟む夕暮れの空。
各競技で勝利を収めた生徒達は、箒にまたがり一列に並ぶと、会場は静かになる。
杖を持ったリヒトは、ファンファーレを指揮する位置につくと、ミネルウァの教員達はヒソヒソと話しながら首を傾げた。
「ミゲロ先生の代わりとは聞いたけど、あれ誰なの?」
「さぁ?副学長が代わりを手配したって聞いたけど」
「なんかすごいオーラ。ハイエルフだったりしてー」
「ミゲロ先生より凄いの、できるのかね」
教師陣の声が聞こえたリヒトは、チラッとその方向を見て馬鹿にしたような笑みを浮かべたあと、小さく杖を振った。
「……瞬きを忘れるくらいの光景を見せてやる」
リヒトは小さくそう呟くと、空には大きな魔法陣が展開される。
すると、会場はリヒトの瞳と同じ澄んだ青色の光に包まれ、ラッパを持った小さな天使の精霊が召喚されるとすぐに清らかな音を奏で始める。
「……この色!リヒト……!」
上空にいたフィンは、すぐにこれがリヒトの演出だと気付き驚いた表情を浮かべて振り向く。そこにはやはり、愛しいリヒトが所定の位置で杖を振っている姿だった。
ルイとセオドアも、それに気付いて驚愕の表情を浮かべる。
「「マジかよ」」
大魔法師がファンファーレを彩っている。こんな豪華なことはあるかと二人は目を見合わせた。
「(リヒト……ありがと)」
フィンは微笑みながら、再び空を見上げこの光景を目に焼き付けた。
今度はバイオリンを持った天使の精霊が出現し、音が複雑ながらも深みのある音になっていき、その音に合わせてさまざまな色の光の玉が召喚され、一列に並んだ生徒達は合図を受けて光の玉が作る空の道に沿って飛び回り始める。
一人一人が色分けされた道に沿って飛ぶと、上空は色鮮やかな風景に様変わりし、会場は感嘆の声を漏らした。
「すごすぎる……」
「綺麗……」
「空に花が咲いたようだ」
さらにリヒトは杖を三度振り、今度は上空から星が降ってきたような煌びやかな演出を始めた。そして、空には花火が何個もあがり、出演している生徒が目立つように光を纏わせていく。
そしてそこに、フルートを持った音楽隊の演奏がが合わさって、音に軽やかさと華やかさが宿った。
まるで夢のような空間。
会場はこれだけでも驚いていたというのに、リヒトはさらに杖を振る。
火、水、風、地の小魔法を一度に行い、四大元素で優勝した生徒の周りを覆った。
「ほう。今年のファンファーレの質が高いな!譜面の邪魔になるからあんまりやらない複数人でのファンファーレを、こうも完璧にこなすとは」
来賓席でも大いに盛り上がっているが、実際はリヒト一人でこなしているということを知ればどんな顔をするだろう。
エリオットは一人小さく笑って、壮大なファンファーレを目に焼き付けた。
空は再びリヒトの瞳のような色に覆われ、夕焼けとマッチする。そして上空の一点にそれが集まったあと、音はフェードアウトしていき、やがて青い光の玉が思い切り弾けた。
その光の粒が散乱していく光景は、閉会式の終了まで続くのであった。
-------------------------------
『これより、ミネルウァ大ホールにて、祝勝会および三代学院交流会を始めます。参加される生徒はお集まりください』
エスペランス祭が終わりを告げ、トロフィーを持った三人は大ホールで祝勝会を楽しんでいた。
三人の個人戦優勝者を出し、団体でも勝利を収めたミネルウァが今年の優勝を飾ったため、大ホールはミネルウァの生徒で盛り上がる。
他の学院の生徒も、用意された豪華な食事に手をつけながら歓談し、讃え合う者もいれば、いがみ合う者もいる、そんな光景が広がっていた。
「フィンくーん、おめでとうっ」
「すごかったぜー!」
「第一位!最高だぞ!」
クラスですっかり可愛がられる存在となったフィンは、クラスメイトだけに留まらず、二年、三年からも讃えられていた。
そばにいたルイやセオドアも同様に囲まれており、教師陣もお疲れ様会と称して大いに盛り上がっていた。
二階のバルコニーに静かに佇むリヒトは、フィンを見守りながら白ワインを口にする。
「いやー、恋人も弟子もすっかり人気者だねー。他校の子も群がってるじゃーん」
赤ワインを片手に茶化すアレクサンダーを、リヒトは鼻で笑う。
「ふん。それで良い。これでフィンを庶民だからと言って舐めてかかるバカは減るだろう」
リヒトは楽しそうなフィンの笑顔を見守りながら、再び白ワインを口にする。
「三人の勝者、そしてミネルウァの優勝。こりゃ俺達の時代を思い出すねぇ~」
アレクサンダーは楽しそうに笑うと、エリオットはウイスキーが入ったグラスを片手に肩を鳴らしながらその場に現れる。
「よっ副学長ー!お疲れ様」
アレクサンダーは愉快に笑いながら手を振ると、エリオットも手を上げて挨拶を交わす。
「なんだお前ら、こんなとこにいないで下で飲んだらどうだ。……いや、さすがに目立つか」
盛り上がっているとはいえ、第一皇子と大魔法師が現れるとなれば大騒ぎになるに違いない。二階のバルコニー付近であれば、この大ホールなら目立たないと考えた二人は、フードを外してお酒を嗜んでいたのであった。
「俺は目立ってもいいけどねー、この銀髪野郎が、”俺は目立つのが嫌いだ“なーんて抜かすからさぁー」
アレクサンダーは少しリヒトを真似ながらそう話すと、エリオットは吹き出す。
「ぜんっぜん似てないぞ……」
エリオットはそう言いながら笑い続けると、アレクサンダーは少し咳払いをしてから再度口を開く。
「”俺は目立つのが嫌いだ“」
「ぶふぉっ!」
エリオットは再度吹き出すと、リヒトは不機嫌そうな表情で舌打ちをした。
「貴様ら……もう酔っ払っているのか」
「まさかー、俺は今、これが一杯目だよ」
エリオットは可笑しそうに笑ってグラスを上にあげる。
「リヒト、お前はもっと飲め」
「飲んだところで、お前らみたいに無様に酔ったりしないが」
「ひゅーう。言うねえ~」
アレクサンダーは口笛を鳴らしながらリヒトに肩を組むと、指を鳴らしてお酒を持ってこさせる。リヒトは持っていたグラスを空けて新しいワインを手に取った。
アレクサンダーも同様にワインを空けると、新しいワインを手に取って上にあげる。
「楽しい夜に、乾杯」
アレクサンダーの号令で、三人はグラスを軽くぶつけて乾杯を交わした。
「……ふー」
エリオットは手すりに腕を乗せウイスキーをロックで飲みながら、祝勝会の様子を眺めて一息つく。
「明日から一週間、各校はエスペランス祭での疲れを癒す大型連休に入る。生徒も教師も休みだ、俺も久しぶりにゆっくりできるぞー」
「俺は愚弟の教育でもするか。リヒトから怒りの伝書梟が届いたからな」
エスペランス祭を見にきていたアレクサンダーは、どうやら会場でリヒトからの伝書梟を受け取り弟のライトニングの愚行を把握していたため、眉間に皺を寄せながら下で食事をとるライトニングを睨む。
「第三王子、なんかやらかしたのか」
エリオットは目を丸くする。
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