163 / 318
一年生・秋の章 <エスペランス祭>
ファンファーレ①
しおりを挟むセオドアを迎えに来ていたフィンとルイは、こっそりとセオドアとフォリラの会話を陰から聞いていた。
フィンは思い詰めた表情をしながらルイを見る。
「……僕、フォリラさんに謝ったほうがいいかな」
フォリラ一行を少しの間ブタに変えてしまったフィンは、フォリラとセオドアの間にあった事情を知りしょぼんとした顔を浮かべる。
「んなもんいらない。アイツが酷いことを言ってたのは事実だし、実際憧れをこじらせすぎだろ。俺はせーせーしてるし、お前がやらなくても俺がやってたよ」
ルイはフィンを慰めるように頭を撫でてそう言うと、フィンは眉を下げ小さく笑った。
「うん……そっかあ。でも、よかったね。セオくんとフォリラさん、仲良りできて」
フィンは目を細め優しい笑みを浮かべる。
「俺だったら許さねーけどな。まー、あれもセオの良いところか」
「セオくんはみんなに優しくて人気者だよねぇー!あ!ルイくんも、かっこよくて強くてみんな憧れてるんだよ!僕、すごい友達もっちゃったなぁ」
フィンは照れ笑いを浮かべながらルイを見ると、ルイは軽く笑いフィンの額をつつく。
「お前が一番すごい」
「え?」
ルイはそう言ってセオドアを迎えに行くために歩き始めると、フィンは首を傾げながらもそれを追いかけた。
--------------------------------
勝者の凱旋。
個人戦で勝利を収めた者たちは、閉会式前にその姿を会場で発表し、箒に乗って飛び回るのが伝統となっている。
そのファンファーレを彩る役目を担ったリヒトは、“譜面”を手にして最終確認を行なっていた。
「どうだ、リヒト。問題ないか?」
エリオットは譜面を見つめるリヒトに声をかける。
「元の案より何百倍も手を加えた」
リヒトが譜面を渡すと、エリオット驚愕な表情を浮かべ顔を引き攣らせた。
「おいおい、元の原型ないじゃないか。まあいい、成功すれば俺は何も言わないぜ」
エリオットはそう言ってリヒトに譜面を返し呆れ笑いを浮かべる。
「……三人は初めての勝者の凱旋だ。一生記憶に残るようなものにしてやる」
「……」
“フィン”ではなく、“三人”と表現したリヒトに、エリオットは一瞬表情を固まらせる。
「お前……」
「あと5分か。最終調整をしつつ位置につく。お前はそこで見てろ、俺の演出なんてもう一生見られないかもしれないからな」
リヒトは自信満々の表情をフードで隠しながら、その場を離れローブを翻す。エリオットは軽く笑みを浮かべると、過去に思いを馳せながら一人呟き始めた。
「初めての勝者の凱旋をサボった奴があんな必死に譜面を作り込むとはな……」
そんなエリオットの後ろに、赤いローブを着用したハイエルフがフードを深く被りながら口を開く。
「いやー俺もビックリだよぉーエリオット」
「!?」
エリオットは聞き覚えのある声に驚き、慌てて振り向いた。
相手はフードを外すと、金色の稲妻のような髪色に、エメラルドを彷彿とさせる輝く緑の瞳を晒し、周囲の人々の注目を浴びる。
「……おい、驚かせるなよアレク」
エリオットは盛大に溜息を吐いて小声で抗議すると、第一王子・アレクサンダーは舌をぺろっと出しておどけた表情を浮かべた。
「お忍びで見に来ちゃった♡」
「来ちゃった♡じゃないだろー……来るなら俺ぐらいには言えって。いつからいた?」
次期国王のアレクサンダーと対等に口を聞ける、数少ない存在であるエリオット。周囲は二人の会話に興味津々だが、会場の騒々しさに掻き消され聞き耳を立ててもあまり聞こえず悶々としていた。
「最初からずっと観客席で見てたぞ~。可愛い妹と愚弟も出ているしな」
「仮にも次期国王が、普通の観客席にいるなんてどうかしてるぞ」
「大丈夫大丈夫、一般市民に扮した護衛たくさんいるから。いやぁ、そんなことよりお前んとこの一年豊作だな。ビックリした」
アレクサンダーの視線の先には、勝者の凱旋に出るため待機しているフィン・ルイ・セオドアがいる。
アレクサンダーはまず、フィンをじっと見ながら続けた。
「リヒトの恋人、フィンくん。ありゃ精霊に愛されてる。シルフクイーンの完全体なんて童話レベルだっていうのに、あれを生で見れるとは。精霊はひとの本質をすぐ見極める。よっぽど純粋な心を持ってなきゃ無理だな」
エリオットは相槌を打ちながら、同じようにフィンを見る。
「さらに恐ろしいのは精霊語の理解スピードだよ。シルフクイーン・アルストロメリアの精霊魔法は精霊語の理解がないと難しい。あの子は驚異的に頭が良いんだ」
「あー、末恐ろしいねぇ」
アレクサンダーは楽しそうに笑みを浮かべ、次にルイを見る。
「ルイはさすがとしか言いようがなかったねぇ。センスあり、能力あり、完璧と言える戦いっぷり。なーんか、リヒトを思い出すよ」
「分からなくもない。だがリヒトほど舐めてかかってはいないだろうがな。常に真剣にやっていたし」
「はっはっはっ。ルイに失礼なことを言ってしまったね。確かに、ルイの方がまだ人格者だ」
二人はリヒトをネタに笑い合う。
アレクサンダーは、セオドアに視線を移した。
「一番驚いたのはあの子だな。セオドア・フルニエ!正直あそこまでやるとは思ってなかったよ。今までなぜ有名になってなかったんだ?」
「あれは元の頭も良いが、スタートラインが最近だっただけの話だ。かなりの努力家で、基本をしっかりと身に付けて応用も失敗せず最速で処方を組める。あとは、いい意味で狡猾だな」
遊び心を加えた臨機応援な戦い方は、一番観客を楽しませたと言っても過言ではない。セオドアは自身では気付かないほど、今回のエスペランス祭で名前を有名にしていた。
「これで帝国も、学生の質が高いと感じて怯んでくれればいいさ。この会場のどこかで諜報員が試合を見ているはずだからな」
「諜報員はある程度目星をつけてる。わざと泳がせているからな。まあ、間違いなく、学園への潜入をしようとはしばらくは考えないだろうよ」
エリオットはそう言って諜報員らしき観客を睨み付け笑みを浮かべると、それに気付いた帝国の諜報員はそそくさとその場を離れた。
「さぁ、始まるぞ。リヒトが奏でるファンファーレだ」
エリオットは襟を正し上空を見上げた。
179
お気に入りに追加
4,774
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる