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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
ご褒美ちょーだい②
しおりを挟む「(郷愁花の時、セオドアは“あの日”の姿に戻った。自らその毒を解いたとは言え……お前はまだ、あの日を後悔していた)」
ジャスパーは一人思いに耽る。
セオドアが自分を思っていたからこそ、後悔していたというのは分かっている。しかし、まだ心のどこかで後悔が残っているという事実に、ジャスパーは少し心の引っ掛かりを覚えた。
「(私が、あの日から姿を消したことがそんなにトラウマだったのか……?)」
良かれと言って身を引いたあの時の時間は、今もなお、彼を苦しめる材料になっているのであれば、それを精算したいと考えているジャスパー。
そうこうしているうちに、シャワーを浴び終えたセオドアが上半身裸の状態で、タオルで頭を拭きながらシャワールームから出てきた。
「おまたせー。すっきりした」
淡い水色の髪から滴り落ちる雫が、学生のはずのセオドアを大人に見せていた。
不覚にも、性的な目で見てしまったジャスパーはすぐに目を逸らし杖を出す。
「お前、ちゃんと服を着ろ。髪は私が乾かしてやる」
ジャスパーはそう言って風魔法を展開すると、セオドアの頭目掛けて杖を振る。少し動揺があったのか、思ったよりも強風になってしまったためジャスパーは顔を引き攣らせた。
「すまない」
セオドアはジャスパーが珍しく魔法をミスそたことに驚きつつ、優しく笑みを浮かべる。
「あはは、そんなに照れなくても」
セオドアはそう言って制服のシャツを羽織り、ベッドに腰掛けてジャスパーの方を見る。
「せんせー。話ってどうせ郷愁花の時の話でしょ」
話を切り出したセオドアは、柔らかい笑みを浮かべつつ問いかける。ジャスパーは思わず緊張した表情を見せた。
「……」
ジャスパーは何も答えず、眼鏡のブリッジ部分を指で押し位置を戻したため、セオドアはさらに続ける。
「やっぱり。ねぇせんせ……確かに俺、あの時のこと後悔してないって言ったら嘘になるけどさ」
セオドアは話をしながら持っていたタオルをテーブルにシュートし、立ち上がってジャスパーが座る椅子の前まで行くと片膝をついてジャスパーを見上げる。
「でも、本当に後悔してるのってせんせーの方なんじゃないの」
セオドアの核心をついた一言に、ジャスパーは目を見開き眉を顰めて視線を逸らした。
「後悔……」
ジャスパーは瞳を揺るがせて明らかな動揺を見せる。
「うん」
「私は……」
ジャスパーは自分の心境を冷静に判断しようと回想する。
「せんせー。思うんだけど、俺のこと好きになっていくの……怖かったんじゃない?」
ジャスパーは一気にあの日に引き戻された感覚に陥る。最初は教え子として成長していく彼を応援していたが、日に日に募る”別の“気持ち。
長い間近い距離で接しすぎた所為だと誤魔化していたが、あの日をきっかけにジャスパーは自分の気持ちを隠すように逃げた。もちろん、自信がセオドアを追い詰めたということもあったが、それ以上に募っていく恋心に人しれず嫌悪感を抱いていたのだ。
『相手は子供だぞ……』成長途中の子供に抱く感情ではないと必死に気持ちを抑えてきたが、セオドアが倒れた時に痛感した。
教え子が倒れ、真っ先に思ったことは、『世界で一番大切なものを、私のせいで壊してしまった』だった。
それは愛と言わずしてなんだと言うのだ。
そして自分は、セオドアに対するそんな感情を醜いと思い、逃げたのだ。
「っ……」
ジャスパーはいつの間にかぽろっと一筋の涙を流し、体を震えさせる。
セオドアはそんなジャスパの涙を愛おしそうに指で救うと、優しい声色で話を始めた。
「そもそもさ、せんせーがいくら俺を手放そうとしたところで、俺が諦めるわけないじゃん。俺もちょっと臆病だったけど……でも、きっとどんな方法でも使って、せんせーに会いに行ってた。ちゃんと元気な姿でさ」
セオドアの言葉に、ジャスパーは喉の奥が熱くなる感覚を覚える。
「……私は自分のためにお前から逃げたのに、そのくせ後悔していたなんて」
セオドアは眼鏡を外し目頭を抑え俯くと、震えた声でそう言った。
「よいしょ」
セオドアはそんなジャスパーを簡単に抱え、ぽふっとベッドに寝かせる。
「!?」
ジャスパーは突然のことに固まっていると、セオドアはふわっと笑った。
「せんせー。どう足掻いても両思いなんだから、もう過去の後悔なんてやめて俺のことちゃんと見てよ」
セオドアはジャスパーの上に覆い被さり、顔を近づけてジャスパー見下ろす。
澄んだ紺色の瞳がジャスパーを映すと、そのまま捉えて離さなかった。
セオドアからはせっけんの香りがし、まだほんの少し湿った髪がジャスパーの顔をくすぐる。
「ね。俺ってまだ子供……?」
セオドアは大人びた声でジャスパーの耳元に唇を寄せて問いかける。
「…………」
普段なら当たり前だ、と返す場面。
しかし、ジャスパーは動揺し、目を逸らしながら「からかうな」と小さく返すので精一杯だった。
「真面目だよ。真面目に聞いてんの」
セオドアはジャスパーの手を掴み、完全に組み敷く。
「お前っ、……」
ジャスパーは自分を掴む手首が思ったよりも強いことに気付くと、セオドアはとっっくに大人の体になっていることを実感して瞳を震わせ下唇を噛んだ。
「なんかせんせ、悔しそう……可愛い。俺に押し倒されて、思ったよりも力強くて、筋肉もあるの実感しちゃったーって顔」
「……!」
心を読まれたかのような展開に、ジャスパーは思わずセオドアを睨み付ける。
「そんな怖い顔したってだーめ」
セオドアはジャスパーを宥めるように頬にキスをすると、瞼や額にもキスをして顔を上げる。
「今ので3回。うんと前のキス百回の刑、いまやっちゃおうか。あと44回」
「覚えてたのか……馬鹿なことをいってないで、体を休ませた方がいい」
ジャスパーは疲れているであろうセオドアの心配をしつつ肩を押すが、セオドアはジャスパーを組み敷いたまま離れない。
「せんせー、俺今日頑張ったし、ご褒美ちょーだいよ。そしたらぐっすり眠れそうなんだけどなー」
セオドアは少し首を傾けて愛嬌たっぷりの笑顔を見せると、ジャスパーは少しの間考え、小さく口を開いた。
「……少しだけだぞ」
「やった」
ジャスパーの一言で、セオドアはまずジャスパーの唇を甘噛みし、ゆっくりと顔中にキスした後、ジャスパーの胸元を少し開けて首元に唇を這わせる。
「おいしそ。食べていい?」
「どう言う意味だ?」
「こう言う意味」
セオドアはジャスパーの首に舌を這わせると、そのままちゅっとキスをしてから強く吸い付く。
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