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一年生・秋の章 <エスペランス祭>

何色が好き?

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 一方、セオドアの戦いを見守っていたフィンは目を潤ませ映像水晶に食いつく勢いで見つめる。
 二つめのアイスを持つ手は動かず、アイスが溶けていく様子をみたルイは慌てて口を開く。


「おいフィン、垂れる」

「え?わあっ」


 フィンは慌ててコーンに垂れたアイスを舐め上げると、慌ててアイスを頬張っていく。フィンはデザート類を食べるスピードが早く、アイスをあっという間に平らげるとルイに笑みを浮かべた。
 フィンの口にはべっとりとアイスが付いており、ルイはやれやれとハンカチ取り出してまるで親のように口元を拭いてやると、フィンぎゅーっと目を瞑りされるがまま拭かれる。


「赤ちゃんかお前は」


 拭き終わったルイは、ぺちっとフィンの額を指で弾き溜息を吐くと、フィンは額を両手で押さえて笑みを浮かべたまま「ありがとう」と言った。


「楽しそうだな」


 そんな二人の間に割って入る男。
 白いローブに身を包み、フードを深く被って顔を隠した男は、低く嫉妬混じりの声で二人に声をかけた。
 それでも隠すことの出来ないオーラを放ち、周囲はそのオーラに気付いてヒソヒソと気にし始める。
 フィンとルイは瞬時にこの人物がリヒトだと分かったため、生徒の観客席に来たリヒトに対し驚きを見せた。
 

「り、リヒっ……」


 フィンは名前を呼ぼうとすると、リヒトはその唇を指で押さえて「しーっ」と言いながら笑みを浮かべる。


「師匠、こんなとこ来て大丈夫ですか?結構目立ってますけど」


 名前を呼ばずそう問いかけたルイに、リヒトは目を向けた。


「すぐ離れる。フィンに聞きたいことがあってな」

「僕に?なあに?」

「っ……」


 フィンは愛くるしい表情で首を傾げると、そのあまりの可愛さに内心悶えるリヒト。今すぐ拐って自分という名の籠に閉じ込めたいという欲望をグッと抑え、柔らかな笑みを浮かべて口を開く。


「フィン、何色が好き?」

「え?色?」


 フィンは唐突な質問を疑問に思いながらも、小さな声で問いかける。


「そう。フィンの好きな色」

「んー……ぜんぶ好きだけど……あ、その色が好き」


 フィンはリヒトを指差す。


「どういうことだ……?」


 リヒトがよく分からず首を傾げると、フィンは背伸びをしリヒトの腕を引き寄せ、そっと耳打ちをする。


「リヒトのおめめ!キラキラして宝石みたいで、お空よりも綺麗な青色っ!僕の大好きな色だよ」


 フィンはそう耳打ちすると、にぱーっと陽だまりのような暖かい笑みを浮かべてリヒトを見つめる。


「……っ」


 リヒトは一気に顔を赤くし、冷静を保つためにルイを睨む。


「!?(何で俺睨まれてるんだよ)」


 ルイは顔を引き攣らせたあと、呆れ顔を浮かべた。


「……どうかしたの?」


 フィンが心配そうにリヒトのローブを少し摘むと、リヒトは咳払いをしてからフィンを見下ろし笑みを浮かべる。


「いや……なんでもないよ。俺の瞳の色が好きなんだね」


 リヒトはそう言って少し顔を抑えると、フィンの頭を撫でる。


「うん……!」

「分かった。じゃあ

「?うん、わかった」


 リヒトはフィンの返事を聞くと、ローブを深く被りルイを一瞥して颯爽とその場を後にした。


「なんだったんだ……(俺がフィンの口を拭いてただけでこれかよ……溺愛が過ぎるぞ)」


 ルイは呆れ顔を浮かべたままその背を見送ると、会場の盛り上がりに気づき映像水晶フォトクリスタルに目を向けた。
 映像はシャオランが荊道を発動した後、それを掻い潜ってきたお姫様に対し、魔力を必要としない東方体術で応戦していた場面だった。
 無駄のない動きと圧倒的運動神経の良さ。そして極め付けに、とある箇所を強く叩いてお姫様を失神させていた。


「何だあの技」


 その華麗な身のこなしに、ルイは感心したように画面を見つめる。


「僕、これちょっとだけ本で見たかも!東方体術って言って、東方の人が使う武術でね、ツボを狙って失神させたりするの」

「へぇ、詳しいな」

「僕もやってみたいなぁ。ちゃんとできれば、自分より大きい人でも投げれたりするんだって!」

「お前は何を目指してんの……」


 ルイは首を傾げ不可解そうにフィンを見るが、フィンは至って真面目なのか「どこかで習えるかなぁ」と呟き笑みを浮かべた。

 一方、ワルキューレの塔では、フォンゼルはようやく解毒薬が出来そうなことに気付き、お腹を抑えポンポンと撫でて口角を上げる。


「まっててなお姫様、君のこと解毒して、ボクが優勝したるからー」


 そんな雰囲気を察したシャオランは、懐から魔法薬を取り出してそれを一気に飲み干す。


「くっ……流石に原液二本目はキツイですね」


 自国で最も強力な強化薬を原液のまま飲み干したシャオランは、再び血管を浮き上がらせて恐ろしい程に身体能力を上げる。相手の動きを素早く読み取れ、瞬時に移動する脚力と、武器を持たずして自身の体を凶器として操るその姿に、フォンゼルは目を輝かせた。


「なんや、無茶苦茶優男のくせして武闘派やし、あんな獣みたいな顔できるんやね……」


 フォンゼルはシャオランのギャップにときめきつつ、いかんいかんと首を振って解毒薬の出来上がりを待つ。



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