大魔法師様は運命の恋人を溺愛中。〜魔法学院編〜

みるくくらうん

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一年生・秋の章 <エスペランス祭>

最後のお姫様①

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 数十分後。
 フォンゼルは、爆発草を見つけるとそれを大量に取り込んで片っ端から行き止まりの箇所を攻撃する。
 すると、薄い壁に偶然当たり、ワルキューレの塔へ侵入を成功させた。


「ひゃっほう!」


 自らが開けた穴から勢いよく入ると、凶暴な魔法生物達がフォンゼルを睨む。


「お?おお?おおおお?すんごいとこ来てもうたー」


 フォンゼルは一気に魔法生物達に囲まれると、お腹をトントンと撫でて笑みを浮かべた。


「ステーキにしたる」


 フォンゼルはすぅっと大きく息を吸い込むと、変化草カメレオンハーブ爆発草エクスプログレを発動させて魔法生物達を一掃し、終わるとケホッと数回咳き込んだ。


「あー、今ので燃料切れや」


 フォンゼルは丸焦げになった凶暴な魔法生物を見下ろした後、フロアに目ぼしいものがないことを確認するとその場を後にする。外へ出る扉を開けると、そこには偶然シャオランが立っていた。
 フロアに入ろうとしていたが、内側からフォンゼルが出てきたことに驚くシャオラン。


「わおっ!」

「フォンゼルさん!?」

「おさげくん、ココ入れたんやね~?」


 フォンゼルは嬉しそうにシャオランの手を握り上下に振った。シャオランはフォンゼルの近い距離感に戸惑いながらも頷く。


「え、ええ。セオドアさんがいたフロアにたまたま合流したんですが、もたもたしている間に先にセオドアさんが上に行ってしまって。この建物、外側より豊富にお姫様が居ますよ。ハズレを引くこともありますが……」


 シャオランはセオドアの取りこぼしを解毒してきたことを説明しながら、とりあえず上をのフロアを目指す。フォンゼルも横にピッタリとくっついてシャオランについていった。


「ふーん、じゃあおさげくんはこの下から来たってことやね?」


 フォンゼルは吹き抜けになった中央部分に顔を出して下を覗き込みながら問いかける。


「そうです。セオドアさんは最初に当たりを引いたので一階から順番に登ってきたと思います。結構な数のお姫様を解毒していると思いますよ……」

「そうなん?でもボクらも外で結構頑張ったし、ええ勝負ちゃう?」

「……随分とポジティブですね」


 楽観的なフォンゼルと悲観的なシャオラン。対極な二人は、そのまま上に登っていく。


「ボクさっき来たばっかりやし、イケメンくんとは会ってへんから、もっと上におるんかな?」

「おそらくは。でももう最上階は近いようですよ」


 吹き抜けの上を見ると、階段の終わりが見えたシャオラン。


「とりあえずここ入ろか」

「はい」

「開けてや」

「なんで僕が」

「罠とかあったら怖いやん」

「……まったく」


 シャオランは顔を引きつらせ、ゆっくりと扉を開く。


「なんやここ」

「すごい鬱蒼としてますね」


 特に罠が無いことを確認した二人は、魔法植物らしきものが大量に生い茂るエリアに踏み込んでいく。
 沢山の魔法薬草がある中に、毒々しいオーラを放つ毒薬がいくつかあることに気付いたフォンゼルは目を見開いた。


「これ、薬草ちゃうな。目暗草ダークハーブに似てるような」


 フォンゼルは首を傾げながら植物を見る。


「……これは、毒草ですね。ピクシア類の物は類似しているのでしょう?これなんかは目暗草ダークピクシアなのか、無音草サイレントピクシアなのか僕には見分けがつかないのですが」


 シャオランは似たような毒草を眺めながら困ったように首を傾げた。


「こーゆうのは匂いで見分けるやけど、ボクら最初に匂いわからなくされてるからなぁ」

「……フォンゼルさん、奥を見てください」


 シャオランは、奥にお姫様がいることに気づき近寄る。
 淡い水色の髪の毛で、少し癖っ毛のあるお姫様は、まるで人形のように動かず横たわり、うっすらと開いた瞳には光が宿っていなかった。


「おーい」


 フォンゼルが声をかけるも、そのお姫様は反応しないためフォンゼルは首を傾げた。


魔法人形ドールではなさそうやけど、何も喋らへんね」

「……体温があるのと、呼吸をしているので間違いなく本物のお姫様のはずです。それにこのお姫様、目が見えていないようです。眼瞼閉鎖反射をしません」


 シャオランは指でお姫様の目に指を近付けるが、相手は瞬きもせず反応を示さなかった。


「ワッ!!!!」


 フォンゼルはお姫様の耳元で大声をだして反応を見るが、相手は全く反応を示さない。それどころか、そばにいたシャオランが驚いてしまい心臓を抑えている。


「ちょっと、びっくりするじゃ無いですか」

「ゴメンゴメン。でも、耳も聞こえてへんみたい」

「……」

「目が見えなくて、耳が聞こえないんやね」


 シャオランはちらっと周辺の毒薬を眺める。


「それってもう、貴方の出番ですよね。毒を食べて解毒薬を貴方が作れば良いのでは?目暗草ダークピクシア無音草サイレントピクシアだとすれば、ここのお姫様は貴方が解毒できるように作られたエリアかもしれません」


 シャオランは毒草を指差してフォンゼルを見た。


「せやねぇ。でも複合的な毒やと時間かかるかも。とりあえず食べとこか」


 フォンゼルは嗅覚が使えないことで見分けることが出来ないが、ピクシア類の毒草をもぎ取って飲み込んだ。


「今更ですけど、二種類の毒を飲んで二種類の解毒をすることもできるんですか」

「たぶん?ピクシア類はうちの近くによぉ生えてたから昔に食べたことある。郷愁花よりも解毒薬ができるスピードは早いと思うで」

「そう、ですか。悔しいですが私には解毒する方法が今ありませんので、お任せします」


 シャオランはそう言って扉を目指す。


「(……セオドアさんはこのエリアを諦めてもう最上階の方へ行ったんですかね?)」


 
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