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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
猛毒のワルキューレ③
しおりを挟む「毒を以て毒を制す」
セオドアは、リヒトの言葉を思い出しなぞらえながら、調合した魔法薬を眺めて頷く。
「よし。お姫様、俺の血だから美味しくないと思うけど、きっとコレで治るはずだから」
セオドアは猛毒に侵されている自身の血を使った解毒薬を、スポイトを使ってそっとお姫様の口の中へ滴下した。
すると、すぐに熱が引きお姫様はパチっと目を覚ます。
「効いた……!」
毒には毒を。
戦時中に薬草や魔法薬が不足していた時代に生み出された、猛毒感染者の血液を使用した解毒剤。“相殺剤”とも言われ、解毒というよりは毒同士を戦わせて相殺させる薬が発明された。
しかし、難点なのは毒の度合いよって調合が異なることと、それを行える処方技術者及び魔法薬学師が不足していることから、普及には至らなかった幻の魔法薬となり、使用するものが血液だったこともあり限定された状況下でしか必要性が求められない物だった。
リヒトは学生の頃に駆り出された国境防衛戦争の際に、文献でたまたま見たのをきっかけに応用を効かせたことがあったため、それをそれとなくセオドアに話していたが、セオドアが一発で処方を完成させたためリヒトは驚きで少し目を見開く。
その様子に気付いたエリオットは、ニッと笑みを浮かべた。
「嫌なことを聞くかもしれないが、お前はアレを何回で成功させた?」
笑顔で聞いてくるエリオットに、リヒトは舌打ちする。
「……一度失敗している。順番を誤って酸化が著しく進んだからな。非常に繊細な調合だ、運任せと言われるぐらいにな」
リヒトは淡々とそう語ると、エリオットは口角を上げる。
「そうか。お前は同じ失敗をしないようにセオドア君に指導をした、良い師匠ってことだな」
「……」
エリオットに褒められると、リヒトは具合が悪そうな表情を浮かべる。
「何だその顔」
「いや、そっちこそ気色悪いぞ」
「失礼だな。俺は基本、飴と鞭でいうと飴が多いタイプだ」
「俺はお前の生徒じゃないからな」
リヒトとエリオットが会話をする後ろで、他の教員達が気になった様子で二人の背を見る。
「先程から副学長が話してる白いローブの方って誰なんでしょう?」
「さぁ……?」
「副学長があんな楽しそうなのでなんだか気になりますよね」
「普段忙しそうにしてる姿しか見ないから、新鮮ですよね」
顔がバレずとも存在が目立ってきたリヒトは、それを察してその場を離れる。
「少し外す」
「あ?あぁ」
エリオットは颯爽とその場を離れるリヒトの背を見送った。
「(あの場にスライム・ポイズナーを用意してるあたり、予想してたんだろう?エリオット)」
リヒトはそう考えながら、ステージの構想を緻密に練り上げているエリオットに少し感心した様子で軽く笑みを浮かべた。
「さて、階数によってレベルが上がるっていう理論なら、このエリアはこの解毒薬でいけるはずなんだけど」
セオドアは自身の処方が間違っていないことを確認すると、今度はスライムにそれを全て飲ませて様子を見る。
「(ポイズナー種は毒に反応する。毒を摂取すると自ら細胞分裂して、それを弱っている獲物に含ませることで弱らせて捕食する習性を持っている魔法生物。だったら、俺の思惑通りに動くはず、だよな)」
スライムは思惑通りに大量に分裂すると、眠るお姫様達の元へと進んで動いていく。弱っている生物を察知する能力が長けているな、とセオドアは感心した表情を見せた。
「うおぉ……」
スライム・ポイズナーは、セオドアの思惑通りセオドアの血で構成された“猛毒”とも呼べる解毒剤をお姫様に注入していき、お姫様達は次第に目を覚ましていく。
「よし……このスライム使える!」
お姫様達を弱らせるつもりだったはずなのに、すっかり毒が抜けきった様子で立ち上がっていくため、スライムは心なしか不思議そうな挙動をして再度合体した。
合体するや否や、毒気のあるセオドアにブーメランのように戻ってくる様苦笑する。
「うん、毒気のある俺に戻ってくるわけね。しばらくお前は俺のペットだ。よっしゃぁこのペースで行くぞ!」
セオドアは再度スライムを抱えながら急いで上へと駆け上がっていく。
「視界が健康で手の感覚があるうちにとっとと終わらせないとな……」
動くたび、魔法を使うたびに全身を廻る猛毒。グレープフルーツを齧りそれを抑えつけるが、あくまでも応急処置レベルの対応なため、体の感覚はどんどんと奪われていった。
階数が上がるたびに、自分の血液を使って解毒剤を作る繰り返し。毒のレベルが上がるたびに、セオドアの使う血の量が増えていく。
「(フラフラする……治療薬で傷を治しても、血は増えねぇよな……増血剤は蛇とトカゲの血がないと作れないし)」
一体何階まで上がってきただろうか。
魔法生物がウロウロとしているエリアに辿り着いたセオドアは、お姫様がいないことに気付くとそのフロアを後にしようとする。しかし、とある生物を見つけると目を見開いた。
「いるじゃん、蛇とトカゲが合体してる魔獣が……!」
セオドアはフラつく頭を手で押さえながら、中瓶を取り出して歯で蓋をあけると、それを口に含み一気に吐き出した。
それはセオドアの口から放たれると、一気に氷と化して魔獣の足を凍らせた。
「俺のスペシャル調合魔法薬。こんなとこで使うのは勿体無いけど。よし、一瞬だけごめんな」
セオドアは魔獣の血を採取すると、氷が溶ける前にそのフロアを後にする。
「あとは鹿の角と、樹液があれば……」
きっとこのゲーム自体、対処が出来るように出来ているはず。自身にかけられた毒を打ち消せる解毒剤はないにしろ、勝つための方法は必ずあると見込んでいるセオドアは、一階ずつ丁寧にフロアを観察した。
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