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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
硝子匣のお姫様③
しおりを挟むガラスケースにぶつかった竹は床に落ち、一瞬静けさが流れた後、ガラスケースの中にいたレッドドレスのお姫様が静かに目を開いた。
「わたしは誰?」
ガラスケースの中で、静かに声を出すお姫様。一同はこれまでとは違うお姫様の雰囲気に目を丸くする。
「かわええ赤毛のお姫様は、ガラスケースから飛び出して暴れへんみたいやね?」
フォンゼルがそう言うと、セオドアはゆっくりとレッドドレスのお姫様に近付く。
そして、そっとガラスケースに触れると、それは割れることなくまるで幻だったかのように消え失せた。
「っ!」
セオドアは少し驚きつつも、お姫様を見下ろす。
「(なんかどっかで見たことあるような赤毛と顔……)」
既視感のあるお姫様だが、その正体は思い出せないセオドア。
「わたしは誰?」
お姫様はもう一度そう問いかけると、セオドアは何か思いついたように制服のローブの下に隠していた小瓶をいくつか取り出す。
「記憶喪失ってことなら、これで解けるはずだな」
複数の小瓶の蓋を全て開けたセオドアは、それを片手で器用に持つと、杖を振り魔法陣を展開する。
そして小瓶から液体を魔法陣に放ち口を開いた。
「万能薬・改」
セオドアの呪文に反応し、液体はスムーズに混ざり合うと光り輝く。
「へー、見たことない調合やね」
「貴方独自の魔法調合ですか?記憶を忘れる毒にはそれ相応のきちんとした解毒剤を使わないと!」
シャオランは驚いた表情を浮かべ訴えるが、セオドアは得意げに笑う。
「俺はむちゃくちゃ持ってきたんだよね、俺だけが使える魔法薬を。材料探すよりこっちの方が早い」
「そんな、レシピよりオリジナルが早いだなんて馬鹿げてますよ。貴方は一体……」
シャオランは目を見開く。
魔法薬は決められたレシピに則って作るのが基本とされる世の中で、セオドアは自信満々にオリジナルのレシピを用いて魔法を使うのが相当驚きなのか目を見開く。
「なるほどねー……イケメン君もしや、ほんまはめちゃくちゃ努力家?」
フォンゼルの指摘に、セオドアは顔を赤くする。
「なんかそう言われると恥ずかしいな……」
「魔法薬学のレシピが完璧やからこそ、オリジナルのレシピが作れるゆーことやね。ボクもその勤勉さを見習お」
「貴方は腹の中で変化草を飼い慣らしてるのも驚きですよ」
「まったくだ!普通できるかよそんなこと」
シャオランの鋭い指摘に、セオドアは頷く。フォンゼルの特殊能力は努力じゃ得られない才能。自身を平凡だと信じているセオドアは溜息を吐いた。
「んー、でもなぁー、油断するとすぐ養分取られるから疲れるし痩せるねん。ダイエットハーブかいなっ!なんてなアハハ」
フォンゼルは愉快に笑いながらそう言うと、二人は顔を見合わせてなんとも言えない表情を浮かべた。
「とりあえず、と」
セオドアは調合を終えた液体を小瓶に入れると、それをお姫様に飲ませる。
「きっとコレで思いさせるよ、お姫様」
セオドアはそう言って優しくお姫様の口元に小瓶を持っていった。
お姫様は従順にそれを飲み干すと、何かを思い出したように目を見開く。
「あぁ思い出した!わたしの名前はセレシア!」
レッドドレスのお姫様もとい、セレシアと名乗るお姫様は明るい笑顔を浮かべて自己紹介をした。
「貴方すごいわね!毒を毒で相殺するようなやり方で綺麗に解毒するなんて!」
セレシアはそう言ってどこからともなく大きな銀色の鍵を取り出しセオドアに渡す。
「貴方は次のステージに進めるわよ」
「え」
セオドアはその鍵を受け取ると、部屋の奥に隠された銀色の扉の前に通される。
「次のお姫様を探してねっ」
セレシアはそう言って手を振った。
「俺が抜け駆けできるってこと?」
セオドアは自身を指差すと、セレシアは嬉しそうに頷く。
「なるほどそういうシステムですか、油断しましたね」
「なんか普通にイケメン君のやることに感心してもーた」
残される二人は、コレからどうすればいいのかとセレシアを見つめた。
「貴方達は近道無し、更なる迷宮から次のステージに進んでいきます。この屋敷は偽物のお姫様も本物のお姫様もたくさんいるの。どれだけのお姫様を救えるか、勝負ですよー」
セレシアはそう言って杖を取り出すと、セオドアに向かって振り翳す。
「さぁ、人喰い草に食べられる前に先に進んでね」
「おわっ!?じゃ、お先!!」
セレシアは人喰い草を操ると、セオドアは慌てて鍵を使って次の部屋へと向かっていった。
「貴方達も、ここからどう脱出するか考えてね!運が良ければセオドア君に追いつけるかもよ」
セレシアはそう言って人喰い草を二人にも向かわせる。
「えー、そんなん言われても」
フォンゼルは人喰い草を避けることなく手で掴み、怪我をしながらも一口齧って取り込む。
「なっ……フォンゼルさん、貴方まさか」
「取り込み完了」
フォンゼルはセレシアに向かって口をパカっと開けて無数の人喰い草を生み出すと、セレシアはギョッとした表情を浮かべて狼狽える。
「あらあら、なんてことー!」
セレシアは自身の操る人喰い草と対峙させるが圧倒され、自分が逃げるハメになり慌てて空を飛んだ。
それを横目に見ていたシャオランは目を丸くする。
「そんなことも出来るんですね」
「もち。でも制御ムズイ」
はぐれ人喰い草がシャオランを見つけると、新たな獲物を貪るようにして真っ先に向かっていった。
「貴方ねぇ……!まあでも敵同士ですもんね、こんなこともあろうかと」
シャオランは慌てて綺麗な側転でそれをかわした後、今度は別の苗を取り出す。
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