136 / 318
一年生・秋の章 <エスペランス祭>
郷愁花④
しおりを挟む「いけません坊っちゃま、奥様からはここから出さないように言われております故、どうか奥様の帰還をお待ちください!」
護衛騎士がそう言うと、フォンゼルは困ったように眉を下げる。
「フォン……ぼくはだいじょうぶやから、ひとりにせんといてよぉ」
ティオボルドはフォンゼルもいなくなってしまうのは耐えられないと言わんばかりに首を横に振る。
「でも、ティオずっとないてるやん。ボクもかなしいし、母さまもしんぱいや。すこし見てくるだけやし、ここでまっときぃー?」
フォンゼルがそう言ってティオボルドに笑みを浮かべると、ティオボルドは止まらない涙を拭いながらフォンゼルを見上げた。
「フォン……」
「坊っちゃま、何を言っているのですか。ここから出てはいけません!」
外に出ようとするフォンゼルを止めに入る護衛騎士。フォンゼルはお腹の中心を光らせて、目を細めた。
「ほんなら、とめてみてやー?」
フォンゼルは笑みを浮かべながら口をパカッと開く。
「変化草・爆薬草」
「な!?」
フォンゼルの口から火球が飛び出るかのように火が集まると、護衛騎士は後退り目を閉じる。
「なんちゃってー」
フォンゼルは護衛騎士が狼狽えている隙に外へ飛び出して笑みを浮かべた。
「フォンゼル坊っちゃま!(いつのまにリコリス家の特殊能力を使いこなしてる……!?変化草はシエラ様でも発現しなかったというのに!)」
怖いもの知らずな性格のフォンゼルは、そのまま街を走り抜けその惨状を目にし目を見開く。
倒れて動かなくなった市民、民兵。フォンゼルは顔を歪めながら走り、やがて噴水のある広場に出る。
そこには全身ボロボロの姿をシエラが、帝国軍の上級衣を纏う男と対峙している場面だった。
男はパーマのかかった前髪を前に垂らしながら、猫背気味の姿勢でシエラを見据え小さな矢を数本背後に出現させる。
「ほー。ここまで骨のある女がいるとはな。今日は王国感謝祭の日だろ?貴族がなぜ王都に行かずここにいるんだぁ?」
「そんなこと、どーでもええやろこのキモ前髪。ぶっ飛ばすで」
シエラは口の血を拭いながら笑みを浮かべると、前髪を垂らした男は苛ついた表情を浮かべる。
「あぁん?帝国じゃウケがいいんだよ。この田舎者が」
田舎者、と言われたシエラも苛ついた表情を浮かべて杖を振るう。
「田舎者上等!毒棘」
「おおっと」
無数の矢と無数の毒棘が相殺し合う状態の中、シエラはニヤッと笑みを浮かべる。
「そろそろ効いてくるころやな、キモ前髪」
「あぁ?何言ってんだ?つーかキモ前髪じゃねぇよ、帝国軍第二師団・鉄矢のゴーシュ様だぜ?お前ごときが遊べる相手じゃねぇんだ、失せろ」
男はゴーシュと名乗り、大きな鉄矢を出現させると不気味な笑みを浮かべる。
今まで国境あたりの警備兵を何人も惨殺し、以前は西北の村を遅い女子供構わず殺害したとされる帝国の狂犬。
「そんなん知っとるよ。王国では要注意人物として名前があがっとるからねぇ。けどお前みたいな下衆野郎は、キモ前髪で充分や」
シエラがそう言った途端、ゴーシュの目が霞み魔力が消えていく感覚に陥る。
「なんだ……?」
ゴーシュは目を擦り自身の異変に顔を歪め、後ろを振り返る。
「なっ……」
自身が出現させた鉄矢が気化するように消失していく様を見たゴーシュは舌打ちをする。
「ようやく効いてきたなぁ。終わりやで、キモ前髪。アンタは私の毒で死ぬ」
「なんだと……?喰らった覚えはないぞ、このクソ女ァ!!!」
「喰らってるんや、さっきからずっと。アンタの矢で私の毒をさっきからずっと喰らってるでしょう?」
「!」
シエルが放つ毒棘を、ゴーシュは自身の魔力で練り上げた矢で全て打ち消していた。しかしながら、それ自体が問題だったことに気付いたゴーシュは目を見開く。
「やっと気付いたんやねぇ。アンタの能力が回帰タイプでよかったわぁ。わざと完全相殺ではなく少し余力を残し、残された魔力がアンタに帰るようにしとるねん。毒に侵された魔力をね」
「魔力への毒の干渉……貴様、リコリス家か!?」
“西を堕とすならリコリス家には気を付けろ。お前とは相性が悪い”
上官の言葉が脳裏をよぎるゴーシュ。
まさか目の前で戦うドレス姿の女がリコリス家の血を引くものとは思わず、ゴーシュは悔しそうにその場に倒れた。
「クソッ……たかが女一匹に……!」
「即死はしない毒や。アンタを拘束して王都に連行するから覚悟しときや」
シエラがそう言うと、母親の勝利を確信したフォンゼルが後ろから顔を出す。
「母さま」
「!?」
シエラは目を見開き振り返った。
「フォン、待ってて言うたやんか!」
シエラは慌ててフォンゼルに駆け寄ると、倒れたゴーシュはニヤッと笑みを浮かべる。
「ガキがいたのか」
ゴーシュは毒に侵されながらも、背中を見せるシエラに、今練り上げることが出来る矢を出現させる。
それに気付いたフォンゼルは、シエラを庇うようにして口を開いた。
「変化草・爆薬草」
「!?」
シエラは、フォンゼルがリコリス家の最も強い特殊体質を受け継いでいることを初めて知ったのか目を見開き驚きを示す。
フォンゼルの口からは大きな火球が飛び出し、ゴーシュの鉄矢を飲み込んだ。
「グアァァ!!!!」
-----------------------------
ご愛読のみなさま。
あけましておめでとうございます♪
本年も執筆頑張りますので、よろしくお願いします♪
セオドアの戦いが終わればエスペランスは終了です。お付き合いくださいっ!
107
お気に入りに追加
4,774
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる