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一年生・秋の章 <エスペランス祭>

郷愁花①

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「だから何故食べたんですか……全く。これを見越して、治療薬は外に用意されているはずです。試合終了後まで我慢するしかありませんね、おチビさん」


 シャオランはそう言って、少し笑いながら子供の頭を撫でるようにしてぽんぽんとフォンゼルの前髪辺りを触る。
 フォンゼルはニカーッと歯を見せて笑うと、シャオランとセオドアを見上げた。


「ほんなら、みんな道連れしよーか」


 フォンゼルはニヤッと口角を上げると、お腹の中心から緑色に発光し始め二人は驚愕する。


「一体何を……!?」


 フォンゼルは身構えるセオドアと狼狽えるシャオランの手を掴むと口を大きく開けた。


変化草カメレオンハーブ

「!?」


 セオドアとシャオランは緑の閃光に包まれると、光が止んだ瞬間、二人の姿が変貌し、会場は騒然とする。


『なんだなんだ!?』

『あの白髪の西訛り貴族がなんかしたぞ!』


 セオドアは自身の体の変化を感じ取ると、近くに設置されていた巨大なアンティーク調の鏡を見て目を見開く。


「おいおい……」


 セオドアは少し背が縮み、不健康に痩せた顔色が悪い姿に変貌していた。ちょうどミネルウァを受験する前の自身の姿だったことに気付くと、目を見開く。


「(ぶっ倒れる前の俺じゃんかよ……)」


 会場でその映像を見ていたジャスパーは、少し目を見開きあの日の光景を思い出して手をピクッと震わせた。


「(郷愁花が“戻りたい時間軸の自分に戻る”のだとしたら、何故セオドアはあの日に……)」


 お互い距離を置くきっかけになった、あの瞬間。ジャスパーは少し俯き思考を巡らせた。その様子を見ていたリリアナは、声をかけることなく心配そうに眺める。

 一方シャオランは、十歳ごろの姿に変貌し、鏡を確認するとフォンゼルを見下ろして睨んだ。


「……どういうことです。なぜ郷愁花の作用が私たちにまで?」


 シャオランは冷静に問いかける。


「あはっ!ボクの特殊能力やでぇー」


 フォンゼルは舌を見せながらそう言うと、セオドアが目を見開く。


「舌に魔法陣……」


 セオドアはフォンゼルの舌を指差して訝しげに眺める。


変化草カメレオンハーブをボクの体内で飼ってるんよ。直近で取り込んだ薬草をコピーして、その能力を発揮するための魔法陣を通して二人にお裾分けっちゅーことや」


 フォンゼルは愉快そうに笑いながらそう言う。


「会った時から匂いがしてたのはその薬草の匂いか」

「へぇ、鼻がええね」


 セオドアはニィーッと笑顔で答える。


「とりあえず、姿が変わる以外には影響はなさそうですしこのままお姫様を探しましょう」

「そーだな。幸い俺は大きく背丈もかわらねぇけど……お前ら大変そうだな」


 セオドアは制服を引きずる二人を見ながら苦笑した。


「歩きづらいねんけどー」

「全くフォンゼルさんは余計なことを……」

「イケメン君、おぶってやぁ」


 フォンゼルはわらいなながら手を伸ばし抱っこをせがむと、横にいるシャオランが顔を引き攣らせる。


「やってることと言ってることが滅茶苦茶ですよ」

「シャオランにどーかーん。俺だってこんな具合悪そうな見た目にされて会場ドン引きじゃねーかよ」


 セオドアはさっさと前を歩き、シャオランもそれを追いかけるようにして制服を引きずりながら歩くと、フォンゼルは渋々その後ろを歩きながら叫ぶ。


「正々堂々とお姫様を同時に見つけてそこから勝負しよやぁー!」


 セオドアはピタッと足を止め、少し考えた後に振り返る。


「まぁ俺も最初にお前らのこと騙したしな」


 セオドアは首を鳴らすと、フォンゼルとシャオランを抱えて始めた。


「お、重」

「おー、イケメン君、力持ちやねぇ」


 フォンゼルはケラケラ笑う。


「い、いいんですか僕まで」


 シャオランは戸惑った表情を浮かべながらセオドアに抱えられると、セオドアは少し笑って歩き始めた。


「お姫様のところまでな」

「お人好しやねぇーイケメン君」

「……我ながらそう思う」


 セオドアはしばらく迷宮のような城を彷徨っていると、フォンゼルが何気なく口を開いた。


「なあ、イケメン君はなんでそんな具合悪そうな時に戻りたいん?」


 フォンゼルの問いかけに、セオドアは目を細める。


「……俺の今までの人生で、一番後悔した出来事があったからかな」


 セオドアは少し悲しげに言うと、ジャスパーはハッとした表情を浮かべ顔をあげた。それからは映像水晶フォトクリスタルを食い入るように見つめる。


「何を後悔したん?」


 フォンゼルは淡々とセオドアに質問する。


「フォンゼルさん、人の過去をそんなに聞くものではありませんよ」

「えー」


 シャオランの指摘に、フォンゼルは眉を下げてつまらなそうに口を尖らせた。


「いいよシャオラン。大した話じゃないけど……俺はまだ子供で、まぁ今もだけど。がむしゃらに頑張りすぎて色々な人に迷惑をかけたから、多分今でも後悔してんだよ」


 セオドアは自分が倒れてからジャスパーがその罪を被り家庭教師を辞め、二度とセオドアの前に現れなかったことを思い出す。


「……?子供やったら、大人に迷惑かけるもんやろ?何をゆうてるかサッパリやねんけど」


 フォンゼルは首を傾げのほほんとそう言って退けると、セオドアは目を丸くした。




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