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一年生・秋の章 <エスペランス祭>

毒迷宮(ラビリンス)⑤

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「こんな小屋にお姫様がいるとは思えないけどねー」


 セオドアは苦笑しながら杖を持ち、辺りを警戒しつつ中へ入っていく。
 中に部屋はひとつしかなく、テーブルには金色の鍵が置かれていた。


「なにこれ……トラップ?」


 セオドアは幻術がかかっていないか警戒し、その鍵に触れようとする。するとどこからともなく赤い薔薇が咲き乱れセオドアを襲った。


血飢えの薔薇ブラッディー・ローザ!?!?」


 薔薇によく似たその赤い花は、血液を吸うことで凶暴化する危険度の高い花。セオドアは慌ててローブの内側にある試験管を取り出して杖を翳した。


水の花ウォーター・フルール・オルタンシア」


 試験官はすぐに割れ、中にあった水は花が咲くように形を変えると、セオドアは懐から青い花を取り出して杖を振る。
 すると、水の花は青色のアサガオのような花が咲き乱れるように増殖し血飢えの薔薇を食い止め、あっという間に小屋の中は無害化した血植えの薔薇を下敷きにするオルタンシアで咲き乱れた。
 その映像の美しさに、会場は目を輝かせる。

 魔法植物には魔法薬学(幻術の解除は可)で対応しなければならない毒迷宮ラビリンスは、咄嗟の行動でその知識を生かせるかがポイントとなる。
 血飢えの薔薇は火の属性のため、水の属性を持つ植物に弱い。それを瞬時に判断しらセオドアは、途中で採取したオルタンシアを使い、魔法植物の育成に使用する特殊な水を使って増幅させたのであった。


「っあっぶねー……ちゃんと道筋にヒントがあったワケね」


 後少し遅れていたら、薔薇に襲われて火傷していたかもしれない。しかし、咄嗟の判断で血植えの薔薇を抑えたセオドアの前に、祝福をするように金色の鍵が浮き上がった。


「っし」


 セオドアはそれを勢いよく掴むと、小屋の奥に真っ白な扉が現れ、セオドアは鍵を使いその扉を開ける。

 扉の奥は、今までの鬱蒼とした森の雰囲気からは想像できないほど明るく、穏やかな空間が漂っていた。


「……城の中庭みたいだな」


 真ん中は白いベールで包まれた空間があり、周囲は鮮やかな花で咲き乱れ、木漏れ日がひどく美しく花を照らす。

 すると、別の扉が現れ、それはすぐに開かれた。


「……セオドアさん、来ていたのですね。ということは全員ここに集まる仕組みですか」


 びしょ濡れ姿のシャオランが姿を現すと、セオドアは目を見開く。


「シャオラン、シャワーでも浴びた……?」


 セオドアの問いかけに、シャオランは苦笑する。


「いえ……凶暴化した雀草すずめそうに襲われたので、ワダツミに金木犀を与えて守ってもらったのは良いのですが、雀草が頭上で自爆したので大量の水が降り注いだんです」


 シャオランは溜息を吐きながら水を払う。


「うおー……そっちもトラップがあったんだな。それ、若干粘性があって乾きにくいやつ」


 セオドアは同情するような視線でシャオランを見ると、シャオランは苦笑しながらも水を払い続けた。


「それよりセオドアさん、先程はお見事でした。あんなに綺麗に騙されるなんて思いもしませんでしたよ」

「俺だってあそこまでうまくいくとは思わなかったよ。お前らがキスして、会場は盛り上がっただろうな」


 セオドアは腹を抱えながら笑い始め、シャオランは顔を赤くする。すると、また別の扉が現れると、そこから小さな男の子が入ってくる。


「「!?」」


 サイズの合わないイデアルの制服を引きずりながら現れた白髪の男児に、二人は驚愕した。


「まさかフォンゼルか?」


 セオドアがそう声をかけると、男児はニカッと笑みを浮かべて頷く。
 白髪のオールバック姿ではなく、髪はショートボブヘアーになっており、愛らしい見た目をしていた。


「やほー。見てやぁ、小さなってもうた」


 フォンゼルは気にした様子もなく手を振って現れると、セオドアは驚いた表情のまま声をかける。


「何を食べた?子供の実エンファズか?」


 セオドアがそう言うと、フォンゼルは首を傾げる。


「んー、ちゃうちゃう、小屋の前に咲いとった花が邪魔やったから、食べたらこんなんなった」

「なぜ知らないものを食べるんです……?懲りないな君は」


 眉間に皺を寄せるシャオランだが、“花”と聞いて心当たりがあるのか目を見開く。


「ん?花と言いましたよね……?どんな花ですか」

「白くて紫の線入ったやつやな。小さい花が無数にブワーっと咲いとった」


 フォンゼルは小さな姿で無邪気に笑いながらそう言うと、シャオランは目を見開いた。


「それは僕の生まれた国にある郷愁草きょうしゅうかという植物で、食べると一番戻りたい時期の自分に変化する物です」


 まさか毒迷宮ラビリンスで出現するとは、とシャオランは訝しげにフォンゼルを見下ろす。


「どーするんだよ、元に戻る方法はあるのか?」


 敵同士なのに情報を開示するシャオランと、フォンゼルの心配をするセオドアの様子に会場は笑いが起きる。



「“元に戻りたい”と思うことができなければ、永遠にそのままですよ。もちろん治療薬はありますが、この空間には無いと思います」

「えっ、ホンマにぃ?制服引きずるん嫌やわぁ」


 フォンゼルは少し困ったように眉を下げ、シャオランの服の裾を引っ張りながら見上げる。

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