153 / 318
一年生・秋の章 <エスペランス祭>
ご褒美ちょーだい①
しおりを挟む「やったー!セオ君が勝った!すごい!すごかったね!!」
フィンは興奮した様子でそう言うと、ルイは小さく笑って頷く。
「ああ、そうだな。あんな作戦俺には思いつかない。随分と賭けに出たな、アイツ」
ルイはセオドアの勝利を心から喜び、ニコッと笑みを浮かべて目を細めた。
「僕達、ちゃんと目的達成できたんだね!!」
帝国への牽制として、接触された自分達がいかに強いかをアピールする目的で修行をしていた三人は、優勝するという目標を立てており、今日それが報われた。
「そうだな……お前も、セオドアも、時間があれば修行してたもんな。報われて当然だよ」
「ルイくんもだよ」
フィンが満面の笑みを浮かべてそう言うと、ルイは悪戯な笑みを浮かべる。
「俺の場合、絶対に勝たないと恥ずかしいだろ。ハイエルフで、魔力に恵まれて、家柄にも恵まれて。それに甘えず小さい時から修行を重ねてきた。カッコ悪いところは見せられない」
フィンはルイの言葉に、少し俯き加減で口を開く。
「やっぱりルイ君の試合も見たかったな……寝ちゃったのもったいないや」
フィンはそう言って申し訳無さそうにルイを見ると、ルイはぽんぽんとフィンの頭を優しく撫でた。
「来年も再来年もあるだろ。それに、俺の試合は正直面白くなかったと思うぞ、コレに比べたらな」
「どうして?」
「俺が強すぎて、すぐ終わったから」
ルイはそう言って鼻で笑うと、フィンは目を輝かせた。
「さすがルイくん!来年は絶対に見るからね!!」
「はいはい」
セオドアが勝利したことで安堵した二人。その後戻ってきたセオドアに、フィンは勢いよく抱きつき、ルイはグーの手を差し出した。
「セオくんおめでとう!!すごかった!!」
「やるじゃねーか、セオ」
セオドアは、目を輝かせるフィンの頭を撫で、ルイのグーの手に自らのグーの手を当てて満面の笑みを浮かべる。
「ありがと!!二人とも、応援ありがとね。つーか、めっちゃ疲れた」
セオドアは二人からの歓迎に喜び笑みを浮かべると、そのまま椅子に座り俯き大きなため息を吐く。魔力の消耗が激しかったのか、少しふらついている様子だった。
「セオドアくーんっ!」
「おつかれさまっ!」
「カッコよかったよ~っ!」
セオドアのファン達が一気に押し寄せ、セオドアは苦笑し立ち上がって手を振る。
「ありがと、子猫ちゃん達」
セオドアは自身を応援してくれたクラスメイトやファン達に応えるが、フィンとルイは心配そうにセオドアの体を支えた。
「セオくん、一回お休みしてきた方がいいよ……?」
「セオ、無理すんな。今日はもう俺たちの出番はないし、競技が終わるまで休んでた方がいいぞ」
「悪いねー二人とも……さっき回復薬もらったし、後で効いてくると思う。着替えも兼ねてしばらく休むかなー」
セオドアは二人に支えられ、医務室の方へと歩いた。
その道中、三人の前にジャスパーが現れる。
「救護対象を預かる」
ジャスパーは真顔でセオドアの肩を背負うと、三人は目を丸くさせる。
「え、せんせ?」
セオドアは嬉しさのあまり表情を緩めジャスパーを見つめるが、ジャスパー自身はルイとセオドアの前で表情を崩すことなく真顔のままだった。
「ランベール先生にお任せしてもいいんでしょうか?」
フィンの問いかけに、ジャスパーは頷く。
「問題ない。これは教師であるスタッフの仕事だからな。行くぞセオドア・フルニエ」
セオドアはジャスパーの呼びかけに応じ、フィンとルイから離れ、振り返りニコッと笑う。
「ありがとな、二人とも。お前らは祭り楽しんでて。勝者の凱旋までには絶対戻るから!」
「ああ。待ってるぞ」
「待ってるね!凱旋は一緒にでようね!!」
微笑むフィンとルイに、セオドアはクシャッと笑みを浮かべて手を振った。
ジャスパーはそのままセオドアの肩を支えながら歩き始める。
「おめでとう」
ジャスパーは真顔で祝いの言葉を発すると、セオドアは嬉しそうに目を細める。
「うん。ありがと、せんせ。……あれ、せんせーなんか小さくなった?」
入学当初は少しセオドアが高いぐらいであったが、今は結構な差がついている状態。ジャスパーは悔しそうに顔を顰める。
「……お前が大きくなったんだろう。まったく、若者は成長が著しいな」
ジャスパーは顔を顰めながら、何もない壁に向かって杖を振って扉を出すと、そこにセオドアを入室させた。
「え、なにここ」
「隠し部屋だ。医務室は相部屋だろう?ここで休むといい」
ジャスパーはそういって杖を振り、新しい制服と大きなベッドを出す。
「えっ、せんせー……」
「なんだ」
セオドアは少し口角をあげる。
「えっち……こんな隠れた個室に俺を呼ぶなんて。もしかしてご褒美くれるってこと?……」
「そんな訳ないだろう」
セオドアの言葉に、ジャスパーは顔を赤らめ否定するとさらに続けた。
「まったく、何を考えてるんだお前……疲れているところ悪いが、少しだけ話がある。とりあえずその泥だらけをシャワーでどうにかすることだ。終わったらとっとと新しい制服に着替えてこい。話はそれからだ」
ジャスパーは溜息を吐きながらシャワールームの扉を指さすと、セオドアは嬉しそうに笑みを浮かべて頷く。
「はいよ。せんせーのために綺麗にしてくるねー」
「いいから早く行け……」
余裕な笑みを見せながらシャワーへと消えていったセオドア。
シャワーの音が聞こえると、ジャスパーは軽く溜息をつきながら椅子に座った。
147
お気に入りに追加
4,803
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる