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一年生・秋の章 <エスペランス祭>

ご褒美ちょーだい①

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「やったー!セオ君が勝った!すごい!すごかったね!!」


 フィンは興奮した様子でそう言うと、ルイは小さく笑って頷く。


「ああ、そうだな。あんな作戦俺には思いつかない。随分と賭けに出たな、アイツ」


 ルイはセオドアの勝利を心から喜び、ニコッと笑みを浮かべて目を細めた。


「僕達、ちゃんと目的達成できたんだね!!」


 帝国への牽制として、接触された自分達がいかに強いかをアピールする目的で修行をしていた三人は、優勝するという目標を立てており、今日それが報われた。


「そうだな……お前も、セオドアも、時間があれば修行してたもんな。報われて当然だよ」

「ルイくんもだよ」


 フィンが満面の笑みを浮かべてそう言うと、ルイは悪戯な笑みを浮かべる。


「俺の場合、絶対に勝たないと恥ずかしいだろ。ハイエルフで、魔力に恵まれて、家柄にも恵まれて。それに甘えず小さい時から修行を重ねてきた。カッコ悪いところは見せられない」


 フィンはルイの言葉に、少し俯き加減で口を開く。


「やっぱりルイ君の試合も見たかったな……寝ちゃったのもったいないや」


 フィンはそう言って申し訳無さそうにルイを見ると、ルイはぽんぽんとフィンの頭を優しく撫でた。


「来年も再来年もあるだろ。それに、俺の試合は正直面白くなかったと思うぞ、コレに比べたらな」

「どうして?」

「俺が強すぎて、すぐ終わったから」


 ルイはそう言って鼻で笑うと、フィンは目を輝かせた。


「さすがルイくん!来年は絶対に見るからね!!」

「はいはい」


 セオドアが勝利したことで安堵した二人。その後戻ってきたセオドアに、フィンは勢いよく抱きつき、ルイはグーの手を差し出した。


「セオくんおめでとう!!すごかった!!」

「やるじゃねーか、セオ」


 セオドアは、目を輝かせるフィンの頭を撫で、ルイのグーの手に自らのグーの手を当てて満面の笑みを浮かべる。


「ありがと!!二人とも、応援ありがとね。つーか、めっちゃ疲れた」


 セオドアは二人からの歓迎に喜び笑みを浮かべると、そのまま椅子に座り俯き大きなため息を吐く。魔力の消耗が激しかったのか、少しふらついている様子だった。


「セオドアくーんっ!」
「おつかれさまっ!」
「カッコよかったよ~っ!」


 セオドアのファン達が一気に押し寄せ、セオドアは苦笑し立ち上がって手を振る。


「ありがと、子猫ちゃん達」


 セオドアは自身を応援してくれたクラスメイトやファン達に応えるが、フィンとルイは心配そうにセオドアの体を支えた。


「セオくん、一回お休みしてきた方がいいよ……?」

「セオ、無理すんな。今日はもう俺たちの出番はないし、競技が終わるまで休んでた方がいいぞ」

「悪いねー二人とも……さっき回復薬もらったし、後で効いてくると思う。着替えも兼ねてしばらく休むかなー」


 セオドアは二人に支えられ、医務室の方へと歩いた。
 その道中、三人の前にジャスパーが現れる。


「救護対象を預かる」


 ジャスパーは真顔でセオドアの肩を背負うと、三人は目を丸くさせる。


「え、せんせ?」


 セオドアは嬉しさのあまり表情を緩めジャスパーを見つめるが、ジャスパー自身はルイとセオドアの前で表情を崩すことなく真顔のままだった。


「ランベール先生にお任せしてもいいんでしょうか?」


 フィンの問いかけに、ジャスパーは頷く。


「問題ない。これは教師であるスタッフの仕事だからな。行くぞセオドア・フルニエ」


 セオドアはジャスパーの呼びかけに応じ、フィンとルイから離れ、振り返りニコッと笑う。


「ありがとな、二人とも。お前らは祭り楽しんでて。勝者の凱旋ファンファーレまでには絶対戻るから!」

「ああ。待ってるぞ」

「待ってるね!凱旋は一緒にでようね!!」


 微笑むフィンとルイに、セオドアはクシャッと笑みを浮かべて手を振った。
 ジャスパーはそのままセオドアの肩を支えながら歩き始める。


「おめでとう」


 ジャスパーは真顔で祝いの言葉を発すると、セオドアは嬉しそうに目を細める。


「うん。ありがと、せんせ。……あれ、せんせーなんか小さくなった?」


 入学当初は少しセオドアが高いぐらいであったが、今は結構な差がついている状態。ジャスパーは悔しそうに顔を顰める。


「……お前が大きくなったんだろう。まったく、若者は成長が著しいな」


 ジャスパーは顔を顰めながら、何もない壁に向かって杖を振って扉を出すと、そこにセオドアを入室させた。


「え、なにここ」

「隠し部屋だ。医務室は相部屋だろう?ここで休むといい」


 ジャスパーはそういって杖を振り、新しい制服と大きなベッドを出す。


「えっ、せんせー……」

「なんだ」


 セオドアは少し口角をあげる。


「えっち……こんな隠れた個室に俺を呼ぶなんて。もしかしてご褒美くれるってこと?……」

「そんな訳ないだろう」


 セオドアの言葉に、ジャスパーは顔を赤らめ否定するとさらに続けた。


「まったく、何を考えてるんだお前……疲れているところ悪いが、少しだけ話がある。とりあえずその泥だらけをシャワーでどうにかすることだ。終わったらとっとと新しい制服に着替えてこい。話はそれからだ」


 ジャスパーは溜息を吐きながらシャワールームの扉を指さすと、セオドアは嬉しそうに笑みを浮かべて頷く。


「はいよ。せんせーのために綺麗にしてくるねー」

「いいから早く行け……」


 余裕な笑みを見せながらシャワーへと消えていったセオドア。
 シャワーの音が聞こえると、ジャスパーは軽く溜息をつきながら椅子に座った。





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