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一年生・秋の章 <エスペランス祭>

毒迷宮(ラビリンス)③

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「うわ……陰気だな。光が全然入ってこない」


 暗い雰囲気の毒迷宮に足を踏み入れた三人。エスペランスのためとは言え、ミネルウァがここまでクオリティの高い緑のエリアを生み出したことに驚くセオドア。
 少ない木漏れ日を頼りにして歩くセオドアは、暗い雰囲気を放つ道に顔を顰めた。


「で、まずはお姫様を見つけなきゃか?」


 セオドアはうーんと首を傾げながら歩くと、シャオランはそれに頷く。


「症状や様子を見てみないとどうも出来ませんからね。解毒は失敗すると逆効果になる場合もありますし」

「だよなぁ」


 そう話しながら冷静に道を歩く二人だが、フォンゼルはキョロキョロと辺りを見回し、見たことのない植物を見つけると立ち止まった。


「なぁ、見てや~。真っ赤なハート型の葉っぱやで!こんなん見たことあるぅ~?」


 フォンゼルは笑いながらそれに触れようとすると、シャオランは驚きの速さでフォンゼルの前に行き手首を掴む。
 フォンゼルを掴む手は血管が浮き上がり、シャオランの必死さが伺えた。


「いけませんよフォンゼルさん。知らないのであれば易々と触れないでください。触るだけで害がある物もあるのは知っているでしょう?」


 シャオランはそう言ってフォンゼルを見下ろすと、フォンゼルはキョトンとして眉を下げ、少し目を見開く。


「なんや、シャオランくぅーん。ライバルなんやから気ィ使わんでええのに。チーム戦ちゃうで?」


 フォンゼルの指摘に、シャオランはハッとした表情を浮かべた。


「……た、確かに。そうですね」


 人の良さが出てしまったのか、自分の行動に顔を少し赤らめるシャオランはフォンゼルから手を離し気まずそうな表情を浮かべる。


「(いい奴……)」


 セオドアはシャオランの行動に笑みを見せた。


「とは言っても一本道だし、しばらくは一緒だぞ俺達。暴れ薬草でもあったら道連れだし、しばらくは協力して……」


 セオドアがそう言っている間に、フォンゼルは先ほどの赤いハートの葉を引きちぎって口に含む。


「ってオイオイ!!!なぁーに食べちゃってんのー!!!」


 セオドアがそう叫ぶと、シャオランは驚いた表情でフォンゼルを見下ろした。


「んー?嗅覚がアカンから香りはよーわからんけど、……甘いで!コレ!」

「フォンゼルさん、正気ですか……?」


 笑うフォンゼルを心配そうに見る二人だったが、フォンゼルは急に大人しくなり瞳孔が開くと、シャオランを猫のように見上げ始める。


「……な、なんですか?」


 シャオランは困った顔でフォンゼルを見下ろすと、フォンゼルはシャオランの襟部分を掴んで引き寄せてから口付けをした。


「!?!?!?」


 シャオランは驚き固まり、セオドアはそれを目の前にして口をあんぐりと開ける。


「な……」


 狼狽えるシャオランは、急いでフォンゼルを引き剥がし方を掴む。


「一体何の真似ですか!?」


 少し顔を赤らめるシャオランは、大きな声でそう言い放ち顔を引き攣らせる。


「好きやで~シャオ~」

「……頭がおかしいひとなのかと思いましたが、違いますね」


 フォンゼルは急にシャオランへ好意を見せ始めたため、明らかに様子がおかしいと気付いたシャオランは後退りもう一度赤いハートの葉に目を向けた。
 セオドアも細心の注意をはらい赤い葉を掴んで様子を見る。


「惚れ薬の効果がある類の葉っぱか?」


 シャオランは抱きついてくるフォンゼルを引き剥がそうと必死になっている中、セオドアは謎の赤いハートの葉を見つめ唸る。


「この国の魔法薬学は勉強してますが、知りませんよそんな見た目の葉は」


 シャオランがそう言うと、セオドアは杖を取り出す。


「……最後に触れた奴を一時的に好きになる“メロフ”という葉に作用は似てる。でも見た目が図鑑に載ってるのとは全然違う」


 セオドアの言葉に、シャオランはハッとした表情を浮かべた。


「まさかっ……」

「そのまさかかも」


 セオドアは赤いハートの葉に向かって杖を当てる。



幻想解除イリュジアレス


 セオドアの魔法により、赤い葉は本来の姿である“黄色いギザギザの葉”へと変貌する。毒迷宮ラビリンスのフィールドに幻魔法がかけられていることが分かったセオドアとシャオランは、目を見開いて目を見合わせた。


「メロフの葉だな」

「そうですね……」


 セオドアは苦笑しながらメロフの葉を引きちぎると、シャオランに引っ付くフォンゼルを引き剥がしてシャオランに手渡す。


「お前もそれを食べてフォンゼルに触れば惚れ薬の効果は相殺される」

「はい」


 シャオランは言われた通り食べようと口まで持っていったが、ピタッと動きを止める。


「あれ……?解毒の方法はそれで合ってましたか?」


 シャオランが不審そうにそう言って問いかけると、セオドアは横を向いて唇を尖らす。


「ひっかからなかったか……」

「!?セオドアさん、騙そうとしましたね!!」


 本来、メロフの葉による惚れ薬の効果は、食べた相手にもう一度食べさせることで効果の解除となる。


「いや試しただけ。シャオランくんがどれだけ勉強してるかなーと。マジで止めるつもりだったから!」

「本当ですか……?」

「本当だって!」


 セオドアはシャオランに弁明するも、シャオランが疑心暗鬼になりながらもう一度メロフの葉をフォンゼルの口に突っ込む。


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