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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
毒迷宮(ラビリンス)②
しおりを挟む「?」
セオドアは目の前の怪しげな液体が入ったコップを見ると、それを持ち眺める。
「(甘酸っぱい匂い、温度で色が変わるタイプの変色系薬草か?少し煌びやかということは、光を吸収して継続的な品質を保つような作用が発揮されてる)」
セオドアはその青とピンクが混じったような液体を見つめ匂いを嗅いだあと、思考を巡らせながら左右にいるイデアルの代表とスレクトゥの代表を見て様子を伺う。
「飲まへんのォ?イケメン君」
イデアルの代表、白髪のオールバックフォンゼルはすでに液体を全て飲んでおり、ひらひらとセオドアに手を振って笑った。
「フォンゼル、飲むの早いな(やっぱこいつ、朝と同じで変な薬草の匂いがする……)」
「考えても分からへんしィ」
「……少しは考えろよ」
セオドアは苦笑しながらフォンゼルから微かに香る謎の薬草の匂いに顔を顰め、意を決して謎の液体を飲む。
スレクトゥの一年生代表・暁狼は、セオドアと同じタイミングで液体を飲み干し、視線を感じてセオドアの方を見た。
「……なんですか、ジロジロみて(制服を着崩してる……不良貴族?)」
シャオランは留学生にも関わらず、流暢な敬語でセオドアにそう言い放つ。そこに敵意はなく、単純にセオドアの視線が疑問だっただけであったので、シャオランはじとっとした目でセオドアを見つめた。
「いや、珍しい服だなーと」
セオドアは暁狼のパオを指差して笑みを浮かべる。
案外人懐っこそうな雰囲気に驚いたシャオランは、目を丸くした後に口を開いた。
「僕は東方のグンロン出身です。最近、諸事情で留学したばかりなので制服が間に合わなかったんですよ。スレクトゥの制服は少々特殊な作りですからね」
スレクトゥは布地だけでなくプレート部分も存在しているため、どうしても間に合わせることが出来ずグンロンで着用していた制服を着ているシャオランは、かなり浮いた存在だった。
まだスレクトゥに来て間もないため、試合前の彼を見送る者もおらず、セオドアはそんなシャオランに屈託の無い笑みを浮かべる。
「グンロンか、随分遠いところから来たな。それなのに競技に選出されるなんてすげーじゃん!よろしくな!」
「……!は、はい」
セオドアの悪意のない明るい笑みを浮かべてそう言うと、シャオランは軽く笑ってぺこりと頭を下げた。
転校早々、毒迷宮に出場するように言われたシャオランは、本来出場すると言われていた生徒からよく思われておらず学校でも浮いていたため、同じ年の生徒から明るく接してもらえたことに少し嬉しくなったのか顔を綻ばせた。
『今みなさんが飲んだ魔法薬は、嗅覚が一時的に失われる特殊な魔法薬となってます!薬草は特徴的な匂いを発するものも多く、皆様には嗅覚を失くした状態でこの試合に挑んでいただきまぁーす!!』
「随分厳しいハンデだな」
セオドアは目を丸くして顔を引き攣らせる。薬草は見た目が似ていても匂いで見分けることが出来るものも多く、それが出来ないとなれば別の方法で見分けるしかない。
セオドアはフォンゼルから放たれる変わった薬草の香りがしなくなったため、嗅覚が失われたことに気付く。
フォンゼルはケラケラと笑みを浮かべて楽しそうな表情を浮かべた。
「ええやんええやん、おもろなってきたァ!過酷な状況が燃えるやんなァ?」
「呑気だな」
シャオランはへらへらしているフォンゼルを横目に困った表情を浮かべながら小さくそう呟いた。
フォンゼルは目を細めて暁狼に笑みを見せる。
「あー、おさげ君、聞いたでー?君、この試合のために留学させられたって。頑張らなアカンねぇー」
フォンゼルの言葉に、セオドアは目を見開く。
「マジ?」
セオドアが驚いた声で暁狼に問いかけると、暁狼は顔を顰めながら小さく頷く。
「スレクトゥの学長と父上が仲が良くて。スレクトゥには魔法薬学に精通した生徒が少ないという話をした時に、僕ならうってつけだと急に留学させられたのが始まりです。秋のこんな中途半端な時期に……」
セオドアは目を見開き驚愕したままシャオランの話を聞く。
「それだけの理由で留学か……随分と勝手なんだなお前の親も」
「そうですね。……僕の名前は胡・暁狼。胡家はグンロンで魔法薬を商いとする魔法薬学最高権威を持つ家系です。そして僕はその家の三男。いいように使われてるでしょう?」
シャオランは自虐のように諦めた笑みを浮かべ、柔らかな口調でそう言い放つ。
「だから僕は、この戦いで君ら二人に勝たなければ、この国に来た意味が無いってことです」
シャオランは草木が生い茂る森の迷宮を目の前にすると、入り口の前に立つ。
セオドアとフォンゼルもそれに続くように立った。
「だから勝たせてもらいますよ」
勝たねば家の面子も、スレクトゥでの居場所もない。普段は温厚で優しい性格のシャオランだが、プレッシャーを与えられたその表情は苦い。
その様子をみたセオドアは複雑そうな表情を浮かべた。
『今日このために作られた迷宮は、ありとあらゆる薬草が存在してます!中には毒もたくさんある危険な毒迷宮!お姫様を救うのは一体誰だ!?よぉ~いスタートぉ!』
司会のスタートコールで、三人の前のゲートが開かれ、鬱蒼とした薄暗い森が彼らを受け入れた。
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