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一年生・秋の章 <エスペランス祭>

愛しき教え子

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「さて、と」


 セオドアが立ち上がると、ルイは時計を確認する。午後一発目の毒迷宮ラビリンスが始まるにはまだ早いと首を傾げた。


「セオ、もう行くのか?まだ出番までだいぶ時間あるだろ」


 ルイがそう言って引き止めると、果物を頬張るフィンも大きく頷く。


「(リスみたい)」


 セオドアは二人の背後に回り、ルイに肩を組みつつぷにぷにとフィンの頬を突いてから笑みを浮かべる。


「準備もあるし、ちょっと寄るとこあるから。また後で、出番前に俺に喝入れてくれな」

「……おう」


 何となく察したルイはにっと笑うと小さく手を振った。


「セオ君またあとでねー!」

「あいよーん」


 セオドアは満面の笑みで颯爽とその場を去っていき、セオドアはとある場所を目指した。


「っと、ここか?準備室って」


 セオドアは誰かに呼びだされたのか、普段行かないような部屋の前に着くと首を傾げながらその部屋に入る。
 中では古びた椅子に座るジャスパーが本を読んで待っていた。


「来たか」


 ジャスパーはパタンと本を閉じると、小さなアンティークテーブルにそれを置いて眼鏡をかけ直した。


「せんせーからの呼び出しなんて照れちゃう」


 セオドアはジャスパーの姿を確認すると、少し照れたような顔で笑みを浮かべジャスパーに近付いた。


「でも嬉しい」


 セオドアは心底嬉しそうに目を細め、ジャスパーの前に片膝をついて愛おしそうに見上げた。少し古びた暗めのカーテンは閉められており、隙間から漏れた光がセオドアを優しく照らす。


「忙しいのに悪かった」


 ジャスパーが背もたれから背中を話して前屈み気味でそう言うと、セオドアは小さく横に顔を振ってジャスパーの色白な手を取る。


「せんせーのためならいつでもどこでも行く」


 セオドアは呼び出されたことがよっぽど嬉しいのか、にこにこしたままジャスパーを見上げる。


「ね、なんかあった?せんせーが俺呼び出すなんて正直ビックリしてるんだけど」


 セオドアの問いかけに、ジャスパーはジッとセオドアの顔をしばらく見つめ、やがて口を開く。


「……少し、近くで顔が見たかっただけだ」


 普段のジャスパーならばあまり言うことが無いセリフだが、今日は照れもせずすんなりとそう言って退ける。意外な返答に、セオドアは目を見開いて顔を赤くした。



「せんせ、俺の顔近くで見たいってだけで呼び出したの……!?」


 セオドアはガバッと立ち上がり押し倒す勢いでジャスパーに詰め寄る。


「あ、あぁ。悪かったとは思ってる。だが最近、お前はめっきり放課後に私の執務室に来なくなったから、元気かと思ってな」


 ジャスパーは照れ隠しに目を逸らし咳払いをすると、セオドアは目を輝かせジャスパーに抱き付いた。


「!?」

「なんだよもー、すげー嬉しいんだけど。ごめんね?準備で忙しくてさー。でも言ってくれたら飛んでったのに!」


 セオドアは嬉しそうにそう言うと力一杯にジャスパーを抱きしめ続ける。


「私が無性に会いたがっていたような解釈はやめろ!っ、おい、お前なっ……力強すぎだ」


 ジャスパーが顔を顰めながらそう言うと、セオドアはパッと手を離して申し訳無さそうに笑った。


「あはは、ごめんね。つい嬉しくてさ」


 笑みを浮かべ続けるセオドアだが、ジャスパーはセオドアの顔色を間近で見るだけで寝不足なことに気付く。
 うっすらと浮き出たクマと、疲労が溜まっているのかそれが無意識に表情に出ていた。

 ジャスパーは杖を取り出し立ち上がると、ソファーに魔法をかけて一気に大きなベッドにして見せた。


「三十分寝ろ。それだけでも疲労はだいぶマシになる」


 ジャスパーの提案にセオドアは目を見開く。


「えぇ!?急に何!?」

「疲れているのがバレバレだ。お前のことだ、どうせロクに寝ることなく毒迷宮ラビリンスに備えていたのだろう?」


 ジャスパーの指摘が図星だったのか、セオドアは言葉に詰まり頬をかく。


「起こしてやるから寝なさい、ほら」


 ジャスパーがポンポンとベッドを手で叩くと、セオドアは少し悩んでから頷いた。


「じゃあせんせー膝枕して」

「……」


 普段なら断るジャスパーだが、そうでもしないと眠らなさそうだったため渋々ベッドに深く座り自身の太もも叩いた。


「来い」

「……!」


 セオドアは無邪気にジャスパーの太ももに顔を埋めると、腰の抱きついたまま目を瞑った。


「このまま死んでもいいかも」


 セオドアはそう言って目を瞑る。


「馬鹿なことを言うな」


 ジャスパーは低く、それでいて相手を愛しむような優しいトーンでそう言うと、すぐに眠りに落ちたセオドアの頭を撫でた。



「……無理はするなよ、セオドア。私はもうお前が倒れる姿を見たくない」


 眠るセオドアにささやかな本音を投げたジャスパーは、そっとセオドアの頬を撫でる。


「(せんせ、ありがとう)」


 セオドアはうっすらと目を開け微笑むと、心の中でそう呟き再び目を閉じた。
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