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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
後見人はリヒト・シュヴァリエ
しおりを挟むリヒトにつれられ別の部屋に入ったフィンは、扉を閉められた瞬間にフードを外したリヒトに抱き締められる。
その後はひたすら何度もキスをされ、唇を重ね合わせるだけじゃ止まらず舌を捩じ込まれ深くキスをし、しばらくの間フィンはされるがまま唇をリヒトに許した。
「……りひ、と」
フィンは唇が離れた瞬間に蕩けた瞳でリヒトを見上げると、リヒトは目を細め優しく微笑む。
「フィン」
リヒトは愛おしそうにフィンの頬を包み込みように両手で触り、まるで宝物を眺めるかのように見下ろした。
「(リヒト、まつげながい……きれい)」
「(フィン目大きい……潤んでいて可愛い。頬も柔らかくて気持ちいい……小さくて愛おしい……)」
何度見ても整った完璧なリヒトの顔と、月の光にも似た銀色の眩く繊細な長髪。まるで芸術作品かのような見た目に、フィンはしばらく唇に残る熱も相まってぼーっとした表情を浮かべた。
そんなリヒトはフィンの可愛さにしばらく悶えじっと見続ける。
「可愛いフィン、俺だけのもの」
リヒトは満足げに笑みを浮かべると、頬を柔らかく撫でてから軽く唇を落とし、滑らせるようにフィンの耳元に自身の口を移動させた。
「いいかいフィン。君を庶民だからと甘く見て手を出そうとする奴がいるなら、これからは迷わず俺の名前を出すんだ。そうすれば下手に君に手を出せない」
元々悪目立ちしないようにと大っぴらにすることが無かった後見人の存在。
しかし、こんなことが起きることもあると実感したリヒトは、フィンに自分の名を使わせるように囁く。
「リヒト・シュヴァリエの名を出せば、さっきのようなことは阻止できる。分かったね?」
リヒトは鋭い眼光でフィンを見下ろすと、その異常な執着心を声色に込めてそう言い放った。
「うん……分かった。また迷惑かけてごめんなさい」
フィンが申し訳なさそうにすると、リヒトは椅子に座りフィンを膝に乗せて後ろから抱きしめる。
「フィンが王族に意見を言うのは難しいだろう。アレクはまともな王子だが、ライトニングのような少し意地悪な奴もいるんだ。今回それが分かったのだから、次からは上手にかわしてごらん」
「(あれって意地悪だったんだ……)」
リヒトはフィンにそう説くと、フィンは少し動揺しつつもコクリと一度頷いた。
「ん、いい子だね」
リヒトはフィンの首元にキスをする。
「疾風走、見事だったよ。まさかあそこまで完全体の力を引き出すとはね」
「えへへ……この日のずーっと練習してたから!上手くいって良かった」
フィンはここ最近、学校に行きつつもミスティルティンでバイトし、家に戻るとシュヴァリエ家の領地内の森でひたすらエスペランス祭の練習する日々を送っていた。
リヒトはそんなフィンの努力を知っているため(実は心配で監視していた)、目を細め口角を上げる。
練習で疲れきったフィンを抱くわけにもいかず、ここ数週間はご無沙汰状態だったため、密室でフィンといるリヒトは内心今すぐにでもフィンを襲いたいぐらいに悶々としていた。
しかしエスペランス祭の合間にそんなことは出来ないとぐっと堪え、フィンを抱き締めたまますりすりと頬を擦り合わせる。
「……ルイとセオドアも君を探していた。観客席にいるように伝えているから、戻って祭りを楽しんでおいで。紙の翼も終わる頃だろうけど」
リヒトがそう言ってフィンを抱き上げ名残惜しそうに強く抱きしめると、扉の前にちょこんと下ろす。
「……さ、戻って」
リヒトはフィンの背中をとん、と優しく押すと、フィンはちらっと振り返り寂しそうな表情を浮かべる。
「お祭りが終わったら、いっぱい構ってくれる?」
リヒトの理性を根こそぎ奪い取るような甘ったるく切なげな声色でそう問いかけるフィン。
「……フィンが嫌って言っても構うよ?むしろ俺が構って欲しいくらいだ」
リヒトは今すぐにでもフィンを引っ張って手元に戻したい感情を抑え込み、美しい笑みを浮かべてフィンを見つめた。
「えへへ……だいすき!」
フィンは嬉しそうに満面の笑みを見せると、愛の言葉を言ってそのまま走り去り会場へと戻っていくのであった。
「……(行ってしまったか)」
残されたリヒトは、大きな溜息を吐きながらフードを被り、やがて鋭い眼光で伝書梟を召喚すると、アレクサンダー宛にメッセージを送る。
「タダで済むと思うなよ、第三王子。死ぬほどアレクにお灸を据えてもらえ」
リヒトはそう呟き口角を上げながらその場を後にした。
時を同じくして、会場に戻っているライトニングはくしゃみをする。
「大丈夫ですか王子。少し冷えますね」
リーヴェスは暖を取るために火の球を指先に宿らせる。
「あぁ……(嫌な予感がした)」
ライトニングはぶるっと身震いをしながら、空を飛ぶ梟を見上げるのであった。
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