123 / 318
一年生・秋の章 <エスペランス祭>
第三王子はフィンが気になる③
しおりを挟む戸惑うフィンを見たライトニングは、その様子を見ながら口角を上げる。
フィンは屈辱にぎゅっと目を瞑り、ズボンを降ろそうと手をかけたところで扉が開く音が聞こえた。
「そこまでです」
ライトニングはこれから、という時に邪魔が入り顔を顰めながら扉の方向を見る。フィンはその声を発する人物の正体がすぐ分かると、安心したように表情を緩ませた。
「(リヒトだ……!)」
真っ白なローブ姿の長身の男が入室すると、その後ろから気まずそうな表情を浮かべるリーヴェスがライトニングを見て首を横に振っている。
「おいリーヴェス。見張ってろと言ったろ」
リーヴェスの意図が読めず、ライトニングは不機嫌そうに顔を歪めた。
「で、ですが」
ローブ姿の男が誰か分かっている様子のリーヴェスは狼狽えたまま立ち尽くす。
「フィン、おいで」
リヒトの柔らかな声に、フィンは素直に従って抱きついた。リヒトはフィンの服を綺麗に直してあげると、その様子を見たライトニングは眉を顰める。
「おいお前。私が誰か分かっていない訳ではないだろう。それは私が目を付けたものだ、こちらによこせ」
ライトニングがそう発言すると、リーヴェスはこの世の終わりと言いたげな表情を浮かべ頭を抱えた。
リヒトはフィンの頭を撫でると、少し殺気だった魔力を解放しライトニングに向き直る。
「王族だからといって、ひとの尊厳を奪うような行動はどうかと思いますが、ライトニング王子」
リヒトがそう言ってライトニングを見下ろすと、ライトニングは鼻で笑い立ち上がる。リヒトはそのままライトニングを見下ろしてさらに続けた。
「特に、フィンのような庶民は王族に意見を言うことすら難しい。その立場を利用してこんな場所で服を脱がせようとするなど、王族も品位が落ちたものだ」
リヒトが鼻で笑いながらそう言い放つと、ライトニングは目を見開き同じように魔力を放出する。
しかし、リヒトはライトニングの魔力に気圧されることなくむしろ圧倒し始め、ライトニングはようやくこの人物が只者ではない事に気付いた。
「貴様……一体どこの貴族だ」
ライトニングは動揺が混じった声でそう問いかけると、リヒトはゆっくりとローブのフードを取る。
銀色の長髪に、澄み切った美しい碧眼の見覚えのあるハイエルフの姿にライトニングは思わず後退りをした。
「シュヴァリエ公爵……!?」
ライトニングは明らかに狼狽えた様子で顔を引き攣らせると、リヒトは美しくそして怒りを必死に抑え込むような笑みでライトニングを睨み付ける。
「はい。リヒト・シュヴァリエでございます王子。フィンの後見人をしております」
「なんだと……シュヴァリエ公爵が庶民の後見人!?」
貴族の最高位である公爵が庶民の後見人を務めることは極めて少ない事例であり、あろうことか冷徹だと噂されるリヒトがそれを行っていることにライトニングは目を見開く。
フィンを大事そうに撫でている様子から、リヒトがフィンをかなり大事にしているのがすぐ分かったライトニングは、リーヴェスに視線を向け「何故言わなかった」と言いたげな視線を送ったが、リーヴェスは目を逸らした。
「……ところで本件、アレクサンダー王子に報告させて頂いても?」
公爵とはいえ王族より格下なのは否めない。しかしライトニングはリヒトに対し恐怖心を隠せずいる様子だった。
リヒトは王族をも圧倒する歴代最強の王族特務・大魔法師であるが故、敵に回すと不利益を被ることは確実。位としてはもちろん王家が上だが、公爵家や侯爵家などの力を持つ貴族達を味方につけることが出来なければ、国として成立しない。
さらに、ライトニングが本当に恐れているのは、リヒトが第一王子であるアレクサンダーとかなり仲が良いことであった。
ライトニングは唇を震わせさらに後退る。
「いや……兄様、アレク兄様にだけは言わないでくれ!」
ライトニングはアレクサンダーがよっぽど怖いのか、首を横に振って懇願する。
「報告されたく無いということは、いけないことをしているという自覚はあったのですね」
リヒトが追い討ちをかけるようにそう問いかけると、ライトニングは顔を真っ青にし、いつもの堂々たる表情は消え失せ怯えた表情でリヒトを見上げた。
「フィン、いこうか」
「う、うん……!」
フィンはリヒトに背中を撫でられながら一緒にその場を出ると、ライトニングは床に崩れ落ちてがっくりを項垂れる。
「……申し訳ありません王子。庶民とはいえ、後見人があれでは私も止められず」
リーヴェスはライトニングに向かって頭を下げる。
「……最悪だ。アレク兄様に知られたら」
「怒涛の雷訓練でしょうね。それもかなりハードな。あと、ふつーに怒られると思いますよ。今回は相手が悪すぎました」
アレクからの調教によっぽどトラウマがあるのか、ライトニングは目を潤ませながら悔しそうに表情を歪ませる。
「くそっ……後見人がリヒト・シュヴァリエだなんて。フィン・ステラは思っていたより大物だったか」
「……過ぎたことは仕方ありません。とりあえず立ち上がってください王子。王族が床に手をついて良いわけありません」
リーヴェスはライトニングの前に膝をついて手を差し伸べると、ライトニングは涙目でその手を取る。
威勢を張っていた時とは真逆で、眉間に皺を寄せ頑張って泣かないようにしている姿に、リーヴェスは宥めるようにライトニングの背中を撫でた。
「(全く……威勢は張るくせに小心者だ。まぁでも、時々誰かを玩具にする癖はこれを機にやめてくれるかもな)」
リーヴェスは軽く溜息を吐きながらライトニングを宥め続けるのであった。
175
お気に入りに追加
4,774
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う
まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。
新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!!
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる