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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
ルーク・ベイカーと二人の護衛②
しおりを挟む「こ、こんにちは……」
フィンは二人に対して、少し照れながら挨拶をする。全くもって悪意もなく純粋な感情を汲み取った二人は、互いに目を見合わせてから無愛想にぺこっとお辞儀をし品定めをするようにフィンを見下ろした。
「おい、セイン、シムカ。愛想良く出来ないのかお前らは」
ルークはそんな二人を嗜めると、二人はわなわなと震え、小さく口を開いた。
「……セインだ。よろしく」
「どーも、シムカです」
二人は渋々声を出してフィンに挨拶をすると、フィンは嬉しそうに笑みを浮かべた。その笑顔に少しずつ絆されている二人は正気を保つように顔に力を入れる。
「(ふん、少し可愛いからってルーク様のお気に入り気取りか)」
「(ルーク様はこんな平民のちんちくりんを目にかけているのですか)」
二人はフィンをじろじろと睨んでいるが、フィンは全くもって気にせずニコニコ笑みを浮かべ続けた。
「悪いなフィン。コイツらは俺の護衛なんだ」
「護衛?」
フィンが首を傾げると、セインが目を見開く。
「お前、まさかルーク様をただのそこらへんの小貴族だとでも思っているのか?平民のくせに生意気な……いてっ」
セインがそう言うとルークはセインの頭を軽く引っ叩く。シムカはセインに続き口を開いた。
「ルーク様はベイカー公爵家の次期当主ですよ。分かっているのですか?そんな方からあんなに褒められ……いてっ」
シムカの頭も引っ叩いたルークは、大きく溜息を吐いた。
ベイカー公爵家。遥か昔、聖槍・ロンギヌスを用いて国を襲った冥界の魔獣を一掃した伝説を持つベイカー家の祖先は、その圧倒的戦闘能力から王族・国を守護する“ローザリオン・ガーディアン”の位を賜った。
現在に至るまで、国の東西南北の門の守護を担当し、王城の守護長を担い、王家の守護を取り仕切る一族でもある。
つまりルークは、まだ当主ではないが後々リヒトと同じ公爵家の当主として君臨する存在で、貴族のヒエラルキーでリヒトと並ぶことになる存在だった。
もちろん、ベイカー公爵家というのは教科書にも載るぐらい有名なため、フィンの脳内にも記憶されていたが、それがルークと結び付かなかったため、フィンは今更になって目を見開き狼狽えた。
「ルークさんはベイカー公爵家の跡取りだったのですね……ご、ごめんなさい、僕とっても無礼でしたよね。ルーク様とお呼びした方が……」
フィンは慌てて目を潤ませながらルークを見上げると、ルークは小さく笑う。
「なぁーに言ってんだよフィン。俺にとっちゃお前はバイトの後輩で、お前にとって俺はバイトの先輩だ。それでいいだろ?
俺は疾風走の戦いを見てお前を労いに来たんだ。そもそも出場者の発表でお前の名前が呼ばれて正直驚いたっつの」
「えへへ、驚かせちゃいましたね」
フィンはにっこりと柔らかい笑みを浮かべてそう返すと、セインとシムカは頬を膨らませる。
その様子にフィンは慌てた表情を浮かべた。
「ったく。お前らいい加減にフィンを警戒するのはやめろ!こんなぼやーっとした奴が俺を襲うわけないだろうが」
「「いついかなる時もベイカー家を守るのがアルテミス家の掟です」」
セインとシムカはピッタリを息を合わせてそう言うと、フィンは目をぱちくりさせた。
「悪いなフィン。コイツらはアルテミス家で、従兄弟同士だ」
「だから弓を背負っているのですね!」
フィンが興味深々にそう声をかけると、二人はぶすっとしたまま溜息をつく。
「ふん。平民にこの弓の何が分かる」
シムカがそう言うと、セインが頷いた。
「我々のアルテミス家には多くの弓矢があり、それぞれを使いこなせる者だけがベイカー家の守護を担当します。まぁ、お前には分からないでしょうが……」
セインがそう言うのと同時に、いつの間にかフィンは二人の背後に回って弓をじっくりと見た。
「薄らと金色に輝くこの弓はユグドラシルの木から出来た“アニスの弓”ですね。本で見るよりうんと綺麗です!きっと触るとちょっとざらっとしてて、とっても軽いんでしょうね……!」
フィンが無邪気にそう言うと、セインは少し目を見開く。
「シムカ様のは複雑に屈曲している黒い弓……一見ロキの弓にも見えますが、黒曜石を含んでいて特徴的な反射をしているように見えます。テスカトリポカの弓ですか?」
フィンがシムカにそう問いかけると、図星だったのかシムカは驚きの表情を見せた。金色に輝く弓は他にもあるし、複雑な屈曲の弓も他に多くある。それなのにフィンは、数分でそれを見分け言い当ててしまった。
「馬鹿な……一族の弓は千を超える種類があるのだぞ!?なぜピンポイントで言い当てる!?」
狼狽える二人を見たルークは大声で笑った。
「平民平民と侮ってるからそうなるんだぞ、セイン、シムカ。フィンはミネルウァの一位だ。それに疾風走の戦いを見ただろ?」
ルークがそう言うと、二人は言葉に詰まり冷や汗を垂らす。ルークとやけに親しげに話す平民が気に食わなかった二人だったが、冷静になればフィンはどう考えても天才なのだと理解しすっかり黙ってしまった。
「あ、あの、僕本が好きで……!アルテミス一族の弓図鑑も読んだんです!偶然この間、十巻全て読み終えたところだったので、つい興奮しちゃいました」
フィンは満面の笑みでそう言うが、アルテミスの弓図鑑は一冊一冊が図解付きのため分厚く、それを十冊全て読破するとなると相当弓に興味があったり、本が相当好きでなければ無理な話だった。
それに、一度読んだだけで弓を言い当てるという芸当ができるのかと二人は口をポカンと開ける。
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