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一年生・秋の章 <エスペランス祭>

ルイの本質②

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 特設された休憩室に立ち寄った二人は、イデアルの制服を纏った二人の生徒を見かける。向こう側はこちらには気付いておらず、話に夢中のようだった。


「さっきの灼熱地獄インフェルノ、すごかったよなぁ。まさか炎の御子が負けるとは」

「ルイ・リシャール、さすが南部一の大貴族だよな。炎帝再来って言われてるらしいし、家柄良し、顔良し、スタイル良し、そんで頭も良いなんて最強だよな」

「そーそ!疾風走テンペスターに出てた無名のフィン・ステラとかいう庶民より全然すごくねーかー?だってあの庶民、結局精霊頼りって感じでさー。本当に第一位なのかも怪しいぜ?」

「確かに~。会場は盛り上がってたけど、正直ルイ・リシャールの方が上なんじゃ……」

「フィン・ステラ、あの顔でミネルウァの副学長をたらしこんだか?アハハ!」


 話の邪魔をしないようにしていた二人だが、フィンを馬鹿にした発言が聞こえてくると顔を顰めたルイとセオドア。


「(ったく、貴族至上主義派は性格が悪い奴が多いな)」


 ルイはとうとう我慢できずに二人に近付き声をかけた。


「おいお前ら」

「っ!!」


 イデアルの二人は恐る恐る振り返ると、有名人ルイ・リシャールがいることに言葉を失う。


「へ……」

「ルイ・リシャール……」


 エスペランス祭においては、貴族庶民問わず等しく学生として扱われるとは言え、目の前に急に大貴族の嫡子、ルイ・リシャールが現れると狼狽える二人。


「随分と俺のことを褒めてくれてるようだな」


 ルイはニッと怪しい笑みを浮かべてそう言い放つと、二人は小さく「は、はい……」とたじろいだ様子で目を逸らす。


「それで、フィン・ステラという庶民が俺より劣ってると言いたいのか?」


 ルイは苛ついた感情を抑えきれず、二人を見下ろしながら冷笑した。


「え……あ、あの……そうですね。庶民なんかより断然ルイ様の方が優秀かと」


 ルイの冷ややかな声を受けながらも頷くイデアルの生徒は、ルイとフィンの仲を知らず頷く。セオドアは「あちゃー……ルイを怒らせた」と頭を抱えその様子を見た。



「そうか。なら説明しよう」

「「えっ」」


 ルイは二人に顔を近付ける。


「お前らはまず、シルフクイーンを呼ぶための魔法がどれだけ難解か分かっているか?教科書に載ってるとはいえ、それが出来るのはほんと一握りだということを忘れるな」


 フィンは少しコツを掴むことに時間を要したが、一回の授業でそれを成功させたためあたかも簡単に見える。しかしそれはごく稀で、さらには呼び寄せたとしてもシルフクイーンという好き嫌いが激しい精霊に好かれるかは別。


「そしてフィンは、シルフクイーンの本来の姿であるシルフクイーン・アルストロメリアを疾風走テンペスターで召喚させた。
お前ら、シルフクイーン・アルストロメリアを今までに誰かが“召喚した”という文献は見たことがあるか?」


 ルイの問いかけに、二人は固まり冷や汗をかく。


「ないだろ?つまりフィンはこの世で初めてシルフクイーン・アルストロメリアを召喚させたパイオニアなんだよ。歴史に名を刻むのは間違いない。
そして本題はここからだ。そのシルフクイーン・アルストロメリアのを解読し、披露した。それも二つもだ。あれが簡単に見えたか?そうだな、あまりにも普通にやっていたから簡単に見えるよなァ?」

「そっ……それは……」


 ルイは狼狽える二人にさらに続けた。


「精霊を使役し、精霊界の魔法をこの世界で使うには、精霊界のセオリーに従わなければならない。つまり言語、理論、元素を利用した魔法陣の構築方法はまるで違う。例えるなら、全く知らない国に行ってその土地の言語・文化・歴史を理解するよりも難しいことだ。
そして俺がそれをやろうと思えば一年でも難しい。だがフィンはおそらく1ヶ月で習得している」


 ルイがそう言い放つと、二人は魂が抜けたような表情を浮かべる。


「ここまで言ってもフィンの凄さがわからないならお前らは正真正銘の家柄だけが取り柄の馬鹿だ。
俺はな、お前らみたいな口だけは達者な無能な貴族が大嫌いでイデアルに行かなかった。お前らを見て入学しなくてよかったと改めて思う」


 ルイは目を細めながら満面の笑みでそう言うと、二人は気まずそうな表情を浮かべてルイから目を逸らした。


「次フィンを侮辱してみろ。お前らの首はその瞬間消えるぞ」


 ルイは親指で首を切るポーズをして冷淡な笑みを浮かべると、殺気を籠めた魔力を放出し二人を圧倒する。その魔力は二人の首に蛇のように巻き付いて締め付けた。


「「ひっ!……す、すみませんでしたぁぁぁぁぁ!!!!」」


 二人は大慌てでその場を走り去ると、セオドアがルイの肩を叩く。


「ナイス。ちなみにあいつら二年生」


 セオドアはルイを褒め称え親指をグッと立てると満面の笑みを浮かべた。


「……一瞬マジで殺しそうだった。俺はやっぱりリシャールの血を濃く継いでる。忌々しいぐらいにな」

「まぁ、その血に支配されないように抗って生きるお前が好きだよ。フィンちゃんもきっとそうだ。そんで、俺たちの師匠もな」


 セオドアがそう言うと、ルイは少し安心したように笑みを浮かべた。


「フィンの様子でも見に行くか」

「おうよ」


 二人は医務室へと足を運ぶため、校舎に繋がる廊下を歩いて行った。
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