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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
ささやかな仕返し
しおりを挟む新人戦や学年対抗戦が終わると昼休憩時間になり、生徒達は学食へと募り各々食事を取り始める。
フィンとルイはすでに注目を受けているため、学食でも他校を含めて視線を送られることが多かったが、本人はさほど気にしていない様子。
新人戦と学年対抗二つをこなしたフィンとルイは、魔力の消費を補うためにサクランボのような見た目をした苦い果物を食べてから食事を取り始めた。
「苦ぇ」
「でもすごく魔法回路が元気になってる感じだねー」
苦さに顔を歪めるルイと、その苦さすら楽しむフィン。
そんな二人を前に、セオドアは少し居心地が悪そうに眉を顰めた。
「おいセオドア、どうした」
セオドアの異変に気付いたルイは、グラタンを頬張りながら声をかける。
「いや、視線がさ……お前ら目立ってるんだけど気付いてる?」
セオドアがそう指摘すると、ルイはきょろきょろと周りを見回し軽く溜息を吐く。
「気にすんなよ。俺達だけじゃない、紙の翼で勝ったイデアルのロイフォルクがそこで食事を摂ってるが、アレもかなり目立ってるんじゃないのか?」
「ロイは昔から美少年で注目されてたってー」
セオドアが、同じ王都の伯爵家であるロイフォルクを見る。
ロイフォルクは視線を受けながらも優雅に食事を取っている姿が目に映り、ロイフォルクがなんとなくフィンを見ている気がしたセオドアは少し首を傾げるがルイに向き直る。
「それに、コイツなんてまず気付いてもいない」
ルイの横でカリカリに焼かれたベーコンがかかったサラダを頬張るフィンは、首を傾げながらニコニコする。
「新人戦に関わらず、有名な奴は注目されるってやつか」
セオドアは溜息を吐きながらパスタを食べていると、横に座っていたイデアルの集団がこちらを見ていることに気付きセオドアは眉を顰める。
ルイとフィンを見ているかと思ったが、視線は自分に向いておりセオドアは目を丸くした。
「え?なんか用ですか?」
セオドアは自分を指差し不審げにそう問いかけると、ルイとフィンも同じようにしてイデアルのグループに目を向けた。
「そいつらさっきからお前のこと見てたぞ。友達か?セオドア」
ルイがそう問いかけると、セオドアは首を横に振る。
「いや、見覚えねぇけど……」
セオドアがそう言った瞬間、イデアルの三人グループはセオドアを同時に指差して笑みを浮かべた。
「お前やっぱり”セオブタ“だよな!?」
リーダー格であろう一人に指差されそう問われたセオドアは目を見開く。
セオドアはまだ丸々と太っていた時期である中等部の時に、他の貴族からそう呼ばれて虐められたことを思い出し顔を引き攣らせる。
「お前……中等部で一緒だった……な、なんだっけ、えーっと、ご、ゴリラ?」
セオドアがうーんと悩みながらそう言うと、リーダー格の男は顔を真っ赤にして立ち上がる。
「フォリラだ!!!間違えてんじゃねーぞこのブタ!!」
フォリラがそう指摘すると、ルイは鼻で笑いスプーンでフォリラを差しながら口を開く。
「おいおい、少なくとも目の前にいるセオドアがブタに見えるならお前ら目腐ってるぞ。俺からすれば、どう見てもお前らより高身長でスタイル良くて端正な顔立ちしてると思うが」
侯爵家であるルイの助太刀に、フォリラ一行は言葉に詰まり顔を引き攣らせた。
「ブタさんは可愛いですよ。僕もフィンブタって呼ばれたいなぁ」
フィンは口にミートソースをつけながら満面の笑みで天然な返しをすると、騒ぎを聞いていた周囲はぷっと吹き出し、フォリラ一行はさらに恥をかく。
「お前は変なこと言ってんじゃねぇ……」
ルイはフィンの口をナプキンで拭いながら溜息を吐くと、セオドアは大きな声で笑ってからフォリラ達に目を向けた。
「で、なんか用?ゴリラ」
ルイらの援護射撃ですっかりどうでも良くなったセオドアは、余裕の笑みを浮かべそう返すとフォリラは歯を食いしばり悔しそうに口を開く。
その表情を見ただけでスカッとした気分になれたセオドアはニコニコと楽しそうな表情を浮かべた。
「侯爵家を味方につけて調子に乗りやがって……!!覚えてろ馬鹿!そこの庶民もな!」
フォリラはそう言い捨て他の二人を引き連れその場を離れた。
「なんだアイツら」
ルイは真顔でその背を見送り首を傾げる。
「俺がデブってた時に一番からかってきた奴らだよ。あのフォリラってやつは飽きもせずずっと俺を虐めてたな、そう言えば」
「どこの貴族だよ」
「子爵家だったとおもうけど」
「あんま爵位で優劣付けたくねーけどよ、お前そんな小物に舐められたのか」
ルイはやれやれと首を横に振った。
「いやー、当時の俺は悟りを開いてたからね。太ってるのは事実だったし、とりあえず楽に生きていこうと思って受け流してたっていうか。伯爵家の俺にそこまで酷いこともしなかったしな。子供のからかいだよ」
セオドアがそう言うと、フィンが少し考えてからセオドアを見る。
「セオ君は嫌な思いをしていたの?」
フィンがそう問いかけると、セオドアは少し悩んだ後に小さく笑って頷く。
「ま、自己否定感が強まったかな。嫌だったよ、正直なところ。わざと押されたり、暴言吐かれたりな」
セオドアがそう言うと、フィンは一瞬目を見開いた後に小さく笑う。
「そっかぁ。じゃあ、次会った時は僕が仕返ししてあげるね」
フィンは相変わらずの笑みを浮かべていたが、その声色はルイとセオドアが聞いたこともない冷たいものだったため、二人は目を見開き思わずフィンを見た。
「フィ、フィンちゃん?」
セオドアが声をかけると、フィンは首を傾げる。
「ん?どうしたの?」
「「…………」」
フィンはいつも通りの様子に戻っており、二人はまたもや目を見開くと、フィンに聞こえないようにルイがセオドアに耳打ちをした。
「こいつ怒ったところ見たことないけど、マジで怒らせたら怖いんじゃねーのか!?」
「うん……自分が馬鹿にされても怒らないのに、友達が馬鹿にされたと分かると怒るタイプっていうのは分かった」
二人は、どこまでいっても自分に無頓着で仲間思いのフィンを見て小さく笑みを浮かべた。
「これあげるフィンちゃん」
セオドアはプリンを差し出す。
「これやる」
ルイは果物が乗ったプレートを差し出す。
「えぇ!?いいの!?」
目を輝かせるフィンに、二人は笑みを浮かべた。
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