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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
炎も滴る良い男
しおりを挟む「これはっ……」
ガーネットは瞳を震わせながら天を仰ぎ、キランは剣を握ったまま呆然と立ち尽くす。
ルイが放つ炎渦はルイが独自に編み出した魔法なのか、その複雑な魔法陣の構成にガーネットは動揺を隠しきれず瞳を震わせる。
上空は炎の海となり、三人の視界は赤で埋め尽くされる。
「何よこれ、全くどんな魔法なのか想像もつかない!」
「地中放熱の論理を応用した俺独自の魔法だ。発動の条件が厳しくてな、時間がかかった」
ルイは凛とした表情を浮かべ、まるで勝利が確定しているかのような口ぶりでそう言い放つ。
キランは自身の剣から火の魔力が消えていることに気付き目を見開くと、とっさに上を見上げて顔を引き攣らせた。
そして自身の蝋燭を見ると、明らかに蝋燭が減るスピードが早まっていることを確認する。
「ガーネット!プロメテウスを解くんだ!地中放熱の魔力だけじゃない、俺達の火の魔力が一度外に出て活性化してから自分に跳ね返っている!」
「!?」
ガーネットは言われた通りプロメテウスを解くが、後ろを見るとすでに蝋燭が三分の一にも満たないほど減っていることに気づき目を見開く。
「魔力共鳴と魔力引性の活用か。珍しい現象を利用したな。お前の入れ知恵か?」
エリオットはなるほどと呟きながらその様子を眺めながらリヒトに問いかける。
「理論的に可能かどうかを聞かれたので知恵は貸したが、魔法の作り方までは教えてない。そもそも教えて出来ることではないが」
リヒトが淡々とそう答えると、エリオットは感心した表情を浮かべた。
地中から溢れる魔力を源泉にし、業火の雨を吸収した炎渦は、一定以上の火の魔力を纏った二人の魔力に反応して“魔力共鳴”を起こし、引き寄せられ活性化し合うと、やがて“魔力引性”が起こり術者への還元が行われる。
そしてそれは圧倒的な高濃度の火の魔力であり、目に見える炎とは違い、理論に基づき術者へと自動的に還元される。逃げ場のない二人は、ただただ消えゆく蝋燭を見ているしかなかった。
高濃度の火の魔力は、まるで雨のようにアリーナに降り注ぎ、それは目に見えない。しかし、ルイの周辺はまるで光の粒のように分散した炎の雨粒が分散し、それは神々しく、幻想的で、会場にいた観客は息を飲んだ。
「なんでアンタは無事なの……」
ガーネットは、ルイの着火した蝋燭よりも自身の蝋燭の減りが恐ろしいほど早く、諦めたような表情を浮かべそう問いかけた。
「使ったのは俺の魔力じゃない。お前らのだからだよ。洗練され、濃度の高いお前らの炎の魔力と、地中放熱をハイパワーで活性化させて魔力共鳴を起こし、炎渦を発動させることでこのアリーナの上空を高濃度の火の魔力で満たした。
そしてその魔力は、魔力引性の法則に従い、磁石のように持ち主に引き寄せられる。簡単に言えばそんなとこだが、詳しくは自分で調べろ」
ルイは頭を掻きながら面倒くさそうにそう言い放つ。
「だからって、この炎渦からは地中放熱の火の魔力も降ってるはずだ。なぜお前の蝋燭の減りは俺たちとそんなに差がある?その光の粒はなんだ」
キランは、あっという間に自身の蝋燭が全て昇華してもなお、ルイに問いかけた。
「表面着火だ。降ってくる魔力の粒に反応するように、俺の周りに自動的に着火の魔法を仕掛けている。
それは表面だけ炙られているような加減に調整して火の魔力を最小限に抑え、魔力を可視化したあとに目に見えたものを全て相殺している」
二人は繊細なルイの魔法に言葉を失う。
「それに、表面だけを相殺すれば、影響を受けずに触ることだって出来るぞ」
ルイへ降り注ぐ火の魔力は、光っては消えるを繰り返す。まるで蛍のように点滅し、滑るようにルイへと滴る炎。
一人遊ぶルイに対して、蝋燭が全て消え失せたガーネットは悔し涙を流してルイに向かって指をさす。
「ちょっと!さっき“圧倒的な力を”とか灼熱がどうたらーとか言ってたくせに結局魔法力学とか理論的な話ばっかりじゃない!」
二人の蝋燭が消えたことで、試合終了の鐘が鳴り響き会場が湧く。
「でも圧倒的だっただろ。会場は火の海で、まさに灼熱地獄だ。そして、俺は半分以上も残ってるぞ、蝋燭」
ルイはべっと舌を出して背負っていた蝋燭を地面に投げ捨てると、颯爽とアリーナを退場していく。
「うぅぅ~っ!!!ルイのバカァー!!!」
ガーネットはそう叫び、キランは溜息を吐いて剣を鞘にしまった。
『二人の蝋燭を完全昇華させた見事な戦い!!!これほどまでの完全勝利は何年ぶりでしょうか!?第二試合灼熱地獄はまたしてもミネルウァの勝利~!!!
勝者、炎も滴るいい男!ルイ・リシャールだぁー!!!』
会場にいるミネルウァ勢は大きな声をあげてルイの勝利を祝福し、ミネルウァが勝利したことを示す青色の祝砲が鳴り響く。
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