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一年生・秋の章 <エスペランス祭>

灼熱地獄(インフェルノ)②

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「どういうことよ」


 ルイが地中放熱ゲオセルミアの影響を受けていないことに焦りを見せるガーネット。自身の蝋燭がじわじわと昇華していくのを感じ眉を顰めた。
 炎の壁を作っているキランは、壁の向こうで戦う二人の声を聞きながら余裕そうに首を鳴らしている。


「簡単なことだ。俺の近くだけは相殺させてる」


 ルイは涼しい顔でそう言うが、ガーネットは信じられない様子でルイを睨む。


「はぁ?火の魔力を相殺してるって言うの?そんなの、一旦魔法として発動し……っ」


 ガーネットはそう言いかけて何かに気付いたのか、ルイの方へ向かって走り出す。


「お前にして気付くのが早かったな」


 ルイは微かに笑みを浮かべて小さく杖を振った。
 ルイが地中放熱ゲオセルミアの影響が自身に及ばぬよう、魔法として発動させてから相殺していることに気付いたガーネット。
 ルイの方へ近づくことで蝋燭の昇華を免れることに気づき慌てて走るも、追い討ちをかけるようにして地中放熱ゲオセルミアが地中で暴発を繰り返しガーネットの蝋燭がどんどんと昇華し始めた。


「なんなのよもう!」


 この競技は箒を使って飛ぶことが禁止されているため、ガーネットは昇華していく蝋燭を見て慌ててルイの方へと駆ける。


「野良の魔力自体は自由に動かせないのは知ってるだろ?……お前が歩く場所にある火の魔力を、タイミングよく小さく爆発させれば効果倍増だ」


 ルイは自身に近づこうとするガーネットに向かって杖を振るい、邪魔をするように炎の柱を四方八方から出現させ進路を断つ。するとガーネットは苛ついた表情を浮かべそれを避けながら動き歯を食いしばった。


「つまり何よ、アタシの歩く場所にある火の魔力を爆発させつつ、自分の蝋燭が溶けないように周りの火の魔力をわざと発動させて、その瞬間に相殺させてるってこと?」


 ガーネットは杖を持った手を震わせながらそう問いかける。ようやく安全範囲まで到達したため、ルイは「もっと減らす予定だったが」と呟きながら地中放熱ゲオセルミアを解いた。


「物分かりが早いな、その通りだ。最小限の昇華で相手を追い詰められるからな」


 ルイは涼しい顔でそう言うと、会場はルイの器用さに感嘆の声を上げる。


「そ、そんな器用な真似ができるなんて、まるで大魔法師様じゃないの!?」


 ガーネットがそう叫ぶと、大魔法師というワードは強烈な響きなのか、会場に響めきが起きる。
 火の小爆発自体は、ルイ達のような貴族であれば魔法陣を用いるまでもない初級魔法。それ自体は簡単ではあるが、まるで地雷のように爆発させるそのコントロールと、自身の周囲を僅かに爆発させ瞬間に相殺させるという芸当を同時に行っている事実に会場は困惑した。


「なんと……先程の疾風走テンペスターとはまた違った強さだ。さすがはリシャール侯爵家の血筋。そしてミネルウァの第二位でこの実力、今年は粒揃いですね」


 来賓席にいる貴族は各々感嘆を示し、父親であるルーベンは「ほう」と関心を抱いている。


「馬鹿言え、ガーネット。簡単に大魔法師様を引き合いに出すな。あの方はこんなもんじゃない」


 修行している時の悪魔のようなリヒトを思い出していたルイは、少し苦笑しながらそう言い放つ。


「さて、キラン。お前は平気か?背中見てみろ」


 ルイは大きな声で炎の壁の向こうにいるキランに声をかける。キランは言われた通りにすぐに背中を確認すると、予想外の事態に目を見開いた。
 そして苦悶の表情を浮かべながら舌打ちをする。


「クソッ」


 炎の壁が消え失せ、キランは顔を引き攣らせて口を開く。





 キランの背負っている蝋燭は半分ほどにまで昇華されており、会場はどよめきが起こっていた。


「……!?」


 ガーネットはキランの蝋燭の減り方を見て目を見開く。


「どうやって俺の蝋燭を昇華させた?」


 キランは剣を地面から引き抜き、ルイを睨み付ける。


「お前の技は、剣を地面に刺して地中の火の元素エレメントを搾取し、範囲を指定して継続的に壁になるように炎の魔法を発動させる上級の魔法だ。太陽の加護を得たその剣のおかげで、俺はそれを相殺できない。
そして、その壁から離れたところにいれば、お前自身には火の魔力の影響はないな」


 確認するように問いかけるルイ。


「ああその通りだ」


 キランはだから何だと言いたげな表情で相槌を打つ。


「その技を継続的に発動させるために、自分の魔力を送り続ける必要がある。ましてやこの大きさの壁だ、ある程度の効力を持たせるのに中途半端な魔力供給じゃ不可能。お前は離れた位置から常に剣に自分の魔力を送り込んでいた」

「それがどうした」


 キランは剣の柄を持ってルイに向けた。


「どんな魔道具も、魔力の供給に許容範囲がある。お前が持つその剣も、耐久性は無限じゃない」


 ルイがそこまで言うと、キランは目を見開き口をあんぐりと開けた。


「まさか……」


 キランはようやく何が起こったのかを理解し呆然とした表情を浮かべる。


「そのまさかだ。お前が作っている炎の壁の魔力供給を俺が無理矢理ゴリ押しで成り代わった。そして行き場のなくなったお前自身の魔力はどうなる」


 ルイは軽く笑みを浮かべながら涼しい顔でで問いかける。その表情が何とも生き生きとしており、クールな格好良さが滲み出し会場にいるルイのファン達は思わず溜息を漏らした。

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