上 下
115 / 318
一年生・秋の章 <エスペランス祭>

灼熱地獄(インフェルノ)④

しおりを挟む


陽炎カリマ


 ルイは再び陽炎を発動すると、自身周辺の炎の雨を抑えるようにして頭上に魔法陣を展開させ、降り注ぐ炎の雨を継続的に昇華させる。
 蝋燭への着火は防げてはいるが、昇華されても火の魔力自体は自由運動を繰り返しじわじわとルイの蝋燭を溶かしていく。
 さて、ここからどう勝利しようかと笑みを浮かべるルイは、小さく杖を振り続け魔力の質を上げていった。


「おいおい、全範囲に炎の雨なんてどうかしてるぞ炎の神子様!」


 キランは嫌味ったらしくそう言うと、続けざまに「狂ってんのかあの女」と言い捨て華麗な動きで炎の雨を的確に剣で薙ぎ払いガーネットを睨む。
 どうやら剣に火の魔力を宿らせてぶつける事で相殺をしているが、ルイのような完全な相殺ではないため周囲に火の魔力が弾け自身への影響が大きい。それでも着火するよりはマシだとキランは剣を振り続けた。


「炎の神子が炎にビビるわけないでしょう!蝋燭が何だって言うのよ、一気にアンタ達のを消しちゃえば解決じゃない!」


 ガーネットは大量の火の魔力を一時的に纏ってから魔法を放ったため、自身の蝋燭が一時的に激しく消耗されたが、それでも勝気な笑顔を浮かべた。
 瞳に炎を宿すガーネットは、杖を上に翳しさらに炎の雨を降らせ始める。


「(蝋燭の消費量から見ると、この状態で真っ先に負けるのは俺だな)」


 キランは顔を引き攣らせながら降り注ぐ炎の雨を薙ぎ払い続け、残り三分の一ほどになった蝋燭を見て顔を歪ませた。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 
 アリーナに残り十分を示す鐘が鳴り響くと、残された時間が僅かだと悟った三人は目を見開く。


「一か八かだな。太陽の剣フレイ・スパーダ


 キランは剣に青い炎を宿らせると、一気に走り抜けガーネットに襲いかかる。
 周囲の炎の魔力を剣が吸い取り、そこから放たれる攻撃は強力となる。ガーネットはそれを悟り受けて立とうとするも、キランは地面に剣を振った爆風で一気に距離を詰めてガーネットに耳打ちをした。


「俺達が戦っても無意味だ。一番蝋燭が残ってるルイを狙うぞ」

「ふん、それもそうね」


 ガーネットは瞳に炎を宿すと、魔法陣を瞬時に発現させる。すると四肢に炎が着火し、この世のものではない不思議なオーラを放ちながら目を輝かせた。


「炎の神子・プロメテウス……!」


 炎の精霊プロメテウスは、フレイベルの血筋であれば降臨させることができる契約となっている。ガーネットは多くの力を引き出すことができる逸材として炎の神子と揶揄されているが、多くの火の魔力を自身から放つため、今回の競技には向いていない。
 しかしながら、ガーネットは力を制御しながら降臨させているのか、蝋燭は最小限の昇華ですんでいた。


「……(力を抑えて降臨させたのか)」


 本来のプロメテウスであれば、場内が炎に包まれるほど圧倒的な力を持つ。ガーネットはおそらくこの日のために習得した技だと察したルイは小さく笑った。
 そして、向かってくる二人を見ると、ルイは杖を小さく振る。


「さて、準備完了だ」


 一瞬、周囲の元素運動がピタリと止まったような異変に気付いたガーネットは目を見開いた。


「ルイ!させないわよ」


 ガーネットは炎の爆発の力で一気にルイの方へ詰め寄り背後をとり、ルイは咄嗟にガーネットの攻撃を防ごうとするが、キランが阻止するようにして火魔法を放ったため叶わず、ガーネットは隙をついて右手を振り翳し蝋燭に着火させた。
 ガーネットの動きの速さは目に負えないほどで、会場は大盛り上がりを見せる。



『で、でましたガーネット選手の“プロメテウス”!!最小限の力でうまく使いこなしている!!目に負えない速さでルイ選手の蝋燭に着火したー!!!!』


「(俺の活躍は無視かよ)」


 キランは苛ついた表情を浮かべ、肩で呼吸をしながら顔を拭う。
 ガーネットはルイに見事着火させること成功はしたが、制御するのに自身の魔力を大量に消費しているため激しく息切れを起こして動きが鈍くなっていた。


「やるじゃねぇか」
 

 蝋燭に着火した炎は、火の魔力による昇華よりも二倍速く蝋燭を消費させる。しかしルイは慌てた様子がなく淡々とガーネットを褒めると杖を小さく振った。
 すると、真っ赤な魔法陣がアリーナの床全てを覆うようにして浮き上がり、ガーネットとキランは目を見開く。


「……これは、何?」


 感じたことのない知らない火魔法の気配に、ガーネットは明らかな動揺を見せ魔法陣を見る。


「地中放熱・炎渦フォティア・カルマ


 ルイがそう唱えると、地上からは圧倒的な火の魔力が吹き出す。


「!?」


 ガーネットとキランが地面を見ながら狼狽えていたので、ルイは小さく笑みを浮かべながら口を開いた。


「今度は上だよ、ばーか」


 ルイがそう言うと、二人はすぐに上を確認する。

しおりを挟む
感想 153

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

処理中です...