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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
灼熱地獄(インフェルノ)④
しおりを挟む「陽炎」
ルイは再び陽炎を発動すると、自身周辺の炎の雨を抑えるようにして頭上に魔法陣を展開させ、降り注ぐ炎の雨を継続的に昇華させる。
蝋燭への着火は防げてはいるが、昇華されても火の魔力自体は自由運動を繰り返しじわじわとルイの蝋燭を溶かしていく。
さて、ここからどう勝利しようかと笑みを浮かべるルイは、小さく杖を振り続け魔力の質を上げていった。
「おいおい、全範囲に炎の雨なんてどうかしてるぞ炎の神子様!」
キランは嫌味ったらしくそう言うと、続けざまに「狂ってんのかあの女」と言い捨て華麗な動きで炎の雨を的確に剣で薙ぎ払いガーネットを睨む。
どうやら剣に火の魔力を宿らせてぶつける事で相殺をしているが、ルイのような完全な相殺ではないため周囲に火の魔力が弾け自身への影響が大きい。それでも着火するよりはマシだとキランは剣を振り続けた。
「炎の神子が炎にビビるわけないでしょう!蝋燭が何だって言うのよ、一気にアンタ達のを消しちゃえば解決じゃない!」
ガーネットは大量の火の魔力を一時的に纏ってから魔法を放ったため、自身の蝋燭が一時的に激しく消耗されたが、それでも勝気な笑顔を浮かべた。
瞳に炎を宿すガーネットは、杖を上に翳しさらに炎の雨を降らせ始める。
「(蝋燭の消費量から見ると、この状態で真っ先に負けるのは俺だな)」
キランは顔を引き攣らせながら降り注ぐ炎の雨を薙ぎ払い続け、残り三分の一ほどになった蝋燭を見て顔を歪ませた。
ゴーン、ゴーン、ゴーン。
アリーナに残り十分を示す鐘が鳴り響くと、残された時間が僅かだと悟った三人は目を見開く。
「一か八かだな。太陽の剣」
キランは剣に青い炎を宿らせると、一気に走り抜けガーネットに襲いかかる。
周囲の炎の魔力を剣が吸い取り、そこから放たれる攻撃は強力となる。ガーネットはそれを悟り受けて立とうとするも、キランは地面に剣を振った爆風で一気に距離を詰めてガーネットに耳打ちをした。
「俺達が戦っても無意味だ。一番蝋燭が残ってるルイを狙うぞ」
「ふん、それもそうね」
ガーネットは瞳に炎を宿すと、魔法陣を瞬時に発現させる。すると四肢に炎が着火し、この世のものではない不思議なオーラを放ちながら目を輝かせた。
「炎の神子・プロメテウス……!」
炎の精霊プロメテウスは、フレイベルの血筋であれば降臨させることができる契約となっている。ガーネットは多くの力を引き出すことができる逸材として炎の神子と揶揄されているが、多くの火の魔力を自身から放つため、今回の競技には向いていない。
しかしながら、ガーネットは力を制御しながら降臨させているのか、蝋燭は最小限の昇華ですんでいた。
「……(力を抑えて降臨させたのか)」
本来のプロメテウスであれば、場内が炎に包まれるほど圧倒的な力を持つ。ガーネットはおそらくこの日のために習得した技だと察したルイは小さく笑った。
そして、向かってくる二人を見ると、ルイは杖を小さく振る。
「さて、準備完了だ」
一瞬、周囲の元素運動がピタリと止まったような異変に気付いたガーネットは目を見開いた。
「ルイ!させないわよ」
ガーネットは炎の爆発の力で一気にルイの方へ詰め寄り背後をとり、ルイは咄嗟にガーネットの攻撃を防ごうとするが、キランが阻止するようにして火魔法を放ったため叶わず、ガーネットは隙をついて右手を振り翳し蝋燭に着火させた。
ガーネットの動きの速さは目に負えないほどで、会場は大盛り上がりを見せる。
『で、でましたガーネット選手の“プロメテウス”!!最小限の力でうまく使いこなしている!!目に負えない速さでルイ選手の蝋燭に着火したー!!!!』
「(俺の活躍は無視かよ)」
キランは苛ついた表情を浮かべ、肩で呼吸をしながら顔を拭う。
ガーネットはルイに見事着火させること成功はしたが、制御するのに自身の魔力を大量に消費しているため激しく息切れを起こして動きが鈍くなっていた。
「やるじゃねぇか」
蝋燭に着火した炎は、火の魔力による昇華よりも二倍速く蝋燭を消費させる。しかしルイは慌てた様子がなく淡々とガーネットを褒めると杖を小さく振った。
すると、真っ赤な魔法陣がアリーナの床全てを覆うようにして浮き上がり、ガーネットとキランは目を見開く。
「……これは、何?」
感じたことのない知らない火魔法の気配に、ガーネットは明らかな動揺を見せ魔法陣を見る。
「地中放熱・炎渦」
ルイがそう唱えると、地上からは圧倒的な火の魔力が吹き出す。
「!?」
ガーネットとキランが地面を見ながら狼狽えていたので、ルイは小さく笑みを浮かべながら口を開いた。
「今度は上だよ、ばーか」
ルイがそう言うと、二人はすぐに上を確認する。
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