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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
疾風走(テンペスター)⑤
しおりを挟む「シルフクイーンの加護を受けし風の申し子が命ずる」
フィンの瞳は、淡い緑とピンクが入り混じる輝きを見せながら小さく光る。
シルフクイーンはそっとフィンの背中を包む様に後ろから抱きしめると、小さく笑みを浮かべた。
「暴風飛行」
フィンの目の前にある特大の魔法陣が呼応し、シルフクイーンは羽根をバタつかせたかと思いきや瞬時に突風を起こしフィンはスタート位置から姿を消す。
目にも止まらぬその速さに圧倒された観客達は、唖然とした表情を浮かべて一瞬呼吸を忘れる。
「シルフクイーンの加護だけではなく、精霊固有の魔法を使いこなしているのか」
エリオットが驚きの表情を浮かべて感心したようにそう言うと、リヒトは勝ち誇った笑みを浮かべ映像水晶越しにフィンを見守った。
一方、リーヴェスとライノアが攻防戦を繰り広げる中、背後からとてつもない魔力の気配を感じ取り同時に振り返る。
そこにはシルフクイーンに抱き締められ、大きな風を纏いながら凄まじい速さでこちらに向かってくるフィンがいた。
「シルフクイーンだと!?」
「そういうことか……」
文献でしかお目にかかれない精霊を召喚したことを瞬時に理解した二人は、動揺を隠しきれず動きが止まる。
風の小精霊であるシルフがフィンに引き寄せられた理由が分かったライノアは、顔を強張らせ近付く未知の力に緊張を覚えた。
「何枚も重ねた風の壁が、ここまで全く効いていない」
風の壁が消え失せる感覚。壊される訳でもなく、まるで無かったかのように散っていくその光景。シルフクイーンの加護を受けているフィンは、ある程度の風魔法であれば無効化することが出来たため、この程度の邪魔であれば全く問題が無かった。
異常なほどに迫る“脅威”に、リーヴェスとライノアは背筋を震わせる。
二人に気付いたフィンは、慌てた表情を浮かべて大きく口を開いた。
「そこをどいてくださーい!!!!危ないです!!!」
フィンは思っているよりも力が出てしまっていることを危惧し、進路にいる二人が風に巻き込まれて怪我をしないように大声を出すが、二人は動揺しつつも迎え撃つ様に手を翳した。
「どけるわけないだろう……」
「仮にも学院の名を背負っている以上、騎士として迎え撃つ他にないなぁ」
二人が臨戦態勢を取ると、フィンは困ったように笑みを浮かべる。
『おおぉっと!先頭にいた二人の選手、まさかの共闘です!圧倒的脅威を目の当たりにして二人で立ち向かう気です!これはフィン選手大ピンチか……!?』
ライノアは自ら作った”風の道“の中心に浮くと、すぐさま魔法陣を発動させて呪文を唱える。
「道を作る剣・風の道、風向き変更」
ゴールに向かって突風の吹く道を作っていたライノア。それを逆の風向きにし魔力を込めることで、フィンに対し強烈な突風を喰らわせることを目的とした。自身はロードランスの継承者の為、その風の影響を受けない。
そしてその横にいるリーヴェスは、苦悶の表情を浮かべ上級の風魔法を出すべく無詠唱で魔法陣を出現させた。
「(少し荒いな……だが無詠唱でなければ間に合わない!)」
上級の魔法は難易度が高く、簡単に無詠唱で練り上げられる魔法陣ではない。しかしリーヴェスは何とかそれを形にすると口を開く。
「暴風」
リーヴェスとライノアの同時攻撃。
フィンはそれを避けることなく、むしろ立ち向かう様にして顔を強張らせた。
「合わせ技か、流石にあれは完全に無効化はできぬぞフィン。もう一つの精霊魔法を使うか?」
シルフクイーンはニッと口角を上げながらフィンに声をかけると、フィンは一瞬目を閉じて考えてからパチっと目を開ける。
エスペランスで自分がやらなければならないことは”目立つこと“。フィンはリヒトを脳裏によぎらせながら覚悟したように口を開いた。
「勝たなきゃ……ごめんなさい、二人とも!どうかご無事で」
フィンは小さくそう呟くと、腕輪を光らせながら魔法陣を瞬時に構成する。
「その優しさの裏に隠れた強気な気持ち、私にはわかるぞ。謝るということは、勝てるということだな」
シルフクイーンは、余裕の表情で羽を大きく開いて大きく息を吸った。
「大地から狂い咲きしアルストロメリアよ、風の起源たる証明をいまここに!嵐を告げる者」
フィンは完璧にシルフクイーンと呼吸を合わせ呪文を唱えると、シルフクイーンは大きく息を吐いて大嵐を巻き起こす。
リーヴェスとライノアの魔法が一瞬でかき消されると、防ぎきれず大嵐によって左右に散る二人。強い魔力の奔流に手も足も出ず、大嵐は周囲を混沌の様にかき乱して正常な呼吸を大きく見出した。魔力で出来た色鮮やかな花弁は風と一緒に激しく舞い、何かに触れるたび不規則な風を生み出して二人を混乱させた。
「下手に手を出すと逆効果だっ……」
ライノアはロードランスのスイッチで再びゴール方向に風を流すと、後ろを追いかける様に飛ぶ。
リーヴェスも慌てて何度も風魔法を生み出し、二人はフィンの背中を見失わない程度には何とか飛ぶことが出来ていたが、シルフクイーンは振り返って指を鳴らす。
「!?」
すると、風によって散っていた花弁が暴発する様に弾け、不規則な暴風が吹き荒んで二人を襲った。そこまでがオラクル・テンペストの技だったのか、フィンは少し心配そうに後ろを振り返ってからゴールまで一気に駆け抜ける。
暴発を受けた二人は、バランスを崩して箒から落ち、何とか柄に捕まって宙に浮く。一気に飛び抜けるフィンの背が小さくなっていき、二人は負けを悟った。
「無様だな」
リーヴェスは自身にそう言い放つと、何とか箒に乗りなおし眉間に皺を寄せながらゴールを目指す。髪が激しく乱れた様が映像水晶に映し出されると、ライトニングが鼻で笑った。
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