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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
疾風走(テンペスター)②
しおりを挟む「そんな役に立たない精霊を侍らせたところで何になる。所詮はただの庶民、貴様は私の引き立て役になってもらうぞ」
会場が各々ざわついている中、リーヴェスの嫌味な言葉を聞いているのはフィンとライノアのみ。
ライノアがリーヴェスの言葉にムッとした表情を浮かべるも、フィンは嫌味を悪く受け止めることなく、むしろ笑みを浮かべて頷いた。
「精一杯がんばります!」
「は?」
リーヴェスは、フィンが屈託のない笑みを浮かべて返事をしたため、拍子抜けしたような声を出して顔を引き攣らせる。
ライノアはキョトン顔でフィンを見た。
「私は貴様を馬鹿にしているんだぞ。何をへらへらしているんだ?」
リーヴェスはムキになってフィンに詰め寄り指をさすと、フィンは首を傾げ困り顔でリーヴェスを見上げた。
なぜ怒らせてしまったか分からないフィンだったが、とりあえず謝ろうと申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「?ご、ごめんなさい……あっ!」
フィンは、リーヴェスの頭の上に下位精霊が落とした羽が乗っていることに気付き目を見開いた。
「あの、リーヴェス様、しゃがんでもらえませんか?精霊の羽がついています!」
「なにっ……」
リーヴェスは苛ついた表情で頭を触るが、余計に羽が食い込んでしまったためフィンが口を開く。
「僕がとります!」
「庶民の手助けなどいるか」
「で、でもどんどん髪の毛の中に入ってしまいますよ!?」
フィンは必死にリーヴェスを説得する。最初は抵抗していたリーヴェスだったが、人畜無害そうなフィンを警戒することが馬鹿らしいと思ったのか、言われた通りに上半身をフィンの方へ少し倒し頭を差し出した。
「ほら、早くしろ。何が楽しくて庶民に頭を下げねばならない」
リーヴェスは不機嫌そうにそう呟く。
「すぐに取ります~!ええと……」
フィンはすぐに羽を抜き取ると、リーヴェスは不機嫌そうにすぐに頭を上げた。
「はい、取れました」
フィンは愛らしい笑みを浮かべてリーヴェスを見上げ、小さなふわふわの羽を摘んだままリーヴェスに差し出す。
「生まれたてのシルフは、すごーく羽が小さいですね」
フィンはふわっと笑い純粋な瞳でリーヴェスを見上げると、リーヴェスは一瞬呼吸を忘れ、その愛らしい表情と雰囲気に飲まれそうになり慌てて首を振る。
フィンの周囲には相変わらず小さなシルフが飛び回っており、柔らかい風がフィンの髪を優しく靡かせた。
「この国では、精霊の羽は幸せの象徴ですから、持っていてください。リーヴェス様にたくさんの幸せが訪れますように」
フィンは半ば無理矢理リーヴェスの手を取り羽を握らせると、にぱっと愛らしい笑顔をリーヴェスに向けた。秋風に当たったフィンの白い手は少しひんやりしており、リーヴェスの大きな手にその体温がしばらく触れる。
「……」
フィンの真っ直ぐな純粋さを目の当たりにしたリーヴェスは、狼狽えながらも羽を見つめる。
「……精霊の羽は縁起が良いが、こんなのが無くても私が勝つ。弱々しい庶民が、験を担ぐのに持っておくのが最適ではないのか?」
リーヴェスは馬鹿にしたようにフィンにそう言い放つと、フィンはとびっきりの笑顔で口を開く。
「いいえ、僕はいいんです!もう、大きいのを貰ってますから!」
「?(どういう意味だ……)」
リーヴェスはフィンの言葉の意味が分からず眉を顰める。そうこうしているうちに、疾風走のスタート位置に案内された三人は、指示通りに箒に跨り準備を始めた。
フィンの両隣にリーヴェスとライノアが並ぶと、スタッフが箒に乗りながら説明を開始する。
『伝統行事だから知っているとは思いますが、ルールは至ってシンプル。ここから5km先のゴールに早く着いた者が勝者となります!
“風属性”のものあればどんな魔法でも使用して構いません。ライバルを邪魔しても問題ありません。とにかく速くゴールについた者、即ち疾風の如く飛び、嵐のような強さを持つ者がテンペスターの座を占めます』
三人は真顔で説明を聞き、観客達はいよいよ始まる疾風走に心を躍らせる。
フィン達はお互い距離を取りながら箒で飛び、いよいよスタートラインに並んだ。
「フィン!!!」
「フィンちゃん!」
フィンは後ろを振り向くと、応援する生徒が来れるギリギリのラインにルイとセオドアが来ていることを確認する。その後ろにはクラスメイトも来ており、大きく手を振っていることに気付いたフィンは目を見開いた。
「ルイ君!セオ君!みんなー!」
フィンは満面の笑みを浮かべて手を振り返す。
「勝つのはお前だ!第一位の力見せつけろー!」
ルイは珍しく大声をだしてグーの手を見せると、セオドアもそれに続いて口を開く。
「フィンちゃん!ぶっ飛ばしていけー!」
セオドアは満面の笑みで手を振り、ピースサインを送る。フィンは二人の声援に少し目を潤ませながら手を振って頷くと、ふと視界の端、エリオットの横にフードを深く被るリヒトの姿を見つける。
リヒトは少しフードを上げて視線をフィンに送ると、フィンは小さく笑みを浮かべて愛おしそうに口を開く。
「見ててね、リヒト」
大きな歓声の中、聞こえるわけもないフィンの声だったが、リヒトには通じたのかコクリと頷き目を細めて笑みを浮かべた。
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