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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
エスペランス祭 開会式④
しおりを挟む「ったく、父様はなぜいつも喧嘩腰なんだ」
エリオットは父親の挨拶を聞きながら呆れた表情を浮かべると、横でフードを深く被り正体を隠したリヒトが口を開く。
「お前が言うなよ、“鮮血のエリオット”」
リヒトはそう言って鼻で笑うと、エリオットは言葉に詰まり顔を引き攣らせた。
今はこうして大人しく副学長を務めているが、学生の頃は祭りの度に血だらけになって暴れていたため、他校からは“鮮血のエリオット”などと呼ばれ恐れられていたことを引き合いに出すリヒト。
エリオットは恥ずかしそうに額を押さえてからリヒトを睨む。
「黒歴史を掘り返すんじゃないよ……そういうお前は“星の数の呪文を持つ者とか言われてたよな。お前は良いよな格好いい呼び名で」
その名の通り、星=数え切れないほど存在する数多のもの、つまりそれだけ多くの魔法を操るという意味で”エトワール・マスター“と呼ばれていたリヒト。
「昔、イザックもそう呼ばれていたから、それを転用されただけの話だろう。別に呼び方なんぞどうでもいい。そもそも肩書きが多すぎるんだ」
シュヴァリエ家でもっとも才のあったイザックを指す呼び名を、時を超えて隔世遺伝のように才覚を現したリヒトに転用されるのはそう遅くはなかった。
リヒト自身はどう呼ばれようと興味が無かったため、エリオットの話に特に興味を示さず目を細める。
「……ところでお前、何で正体隠してこそこそ見てるんだ。普通に来賓席に行ったっていいんだぞ?大魔法師様」
エリオットは来賓席を指さし、リヒトを訝しげに見て嫌味っぽくそう言うと、リヒトはフードを深く被る。
「生徒よりも目立ってしまうだろう。エスペランス祭を見に来たことが無い俺が、急にあの場に現れたら騒ぎにもなる。それに今回はフィンらが目立たねばならない」
リヒトは悪気なくそう言い放つと、エリオットは顔を引き攣らせる。
「言ってることは至極真っ当だが、生徒よりも目立つとか自分で言うなよ……」
エリオットは髪をかきあげながら、溜息を吐く。
「で、フィン君は当然のことながら、ルイ君とセオドア君は鍛えたのか?あの二人にも勝ってもらわないとね」
「ああ、出来ることはやった。元々俺は教育に向いてない性質だが、思ったよりは苦労しなかったな」
「へぇ、お前にしては珍しく優しいな。どう鍛えたんだ?」
エリオットは目を見開きながら興味津々な様子で問いかけた。
「ルイはそもそも頭が良い。それを自覚し、自分を信じている。だからなのか、頭で考えてから行動する癖がついているようだったから、それをやめさせた。
セオドアは得意不得意がはっきりしているが、案外努力家だな。基本の底上げをして、得意分野をぐんと伸ばしてやった。今回お前が作った教技で活躍出来るだろうな」
リヒトが直接指導をする、ということは今までなかったため、当初エリオット自身も少々不安な部分があった。
しかしながら、フィンが絡んでいることというのもあり、熱心に指導をした様子で語るリヒトを見たこエリオットは、安心した様子で笑みを浮かべる。
「なるほど。少し指導風景は見させてもらったが、あの時よりは伸びてるんだろうな?」
「当たり前だ。誰が教えたと思っている」
リヒトは口角を上げ美しすぎる表情を浮かべると、横目でエリオットを見て自身ありげな視線を送る。
「それもそうだな。お前はこの国で一番強い男だ、愚問だった。じゃ、出番だからいくな」
エリオットは軽く笑ってから、父親である学長の挨拶が終わると、入れ替わるようにして登壇する。
「どうもみなさん。ただいまご紹介にあずかりました副学長のエリオット・ミネルウァです。さて、学長の長い挨拶が終わったところなので、私からは一言だけ」
エリオットはマイクに口を近付け、演台に手をつきながらにこやかに話をし始める。
「はっきり言いましょう。主催校である今年のミネルウァは強いですよ」
エリオットは低い声でそう言い放つと、主賓席のセレスタンとスレクトゥの学長であるロディオン・カーティスに視線を送った。
「(親子揃って喧嘩を売ってるな)」
リヒトはじとっとした目でエリオットの方を見て溜息を吐く。
セレスタンとロディオンは、同時にミネルウァの一年生の列に視線を向けた。しかし、第一位に君臨しているフィンを見てもピンとこない様子。噂でも聞いたことのないエルフの少年に、ロディオンは首を傾げながらセレスタンに小さく問いかけた。
「パラディール侯爵、ミネルウァのあの第一位の子って知ってます?」
ロディオンの問いかけに、セレスタンは首を横に振る。
「知らないな。その後ろはリシャール侯爵家の嫡子で有名人だが」
「ですよね?ルイ・リシャールを抑えて一位にいるあの子は一体何者でしょう」
「さぁ?どうせ庶民だろう」
セレスタンは鼻で笑ってワインを飲みながらフィンを眺めた。
「(だが見たことある顔だな……昔のエスペランス祭に出ていたような)」
セレスタンは訝しげにフィンを眺めていたが、曖昧な記憶を思い出すことなく視線を逸らす。
『選手宣誓の儀を始めます。呼ばれた生徒は前にお並びください』
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