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一年生・秋の章 <エスペランス祭>

第三王子はフィンが気になる②

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 リーヴェスがフィンを馬鹿にしていたつもりだが、フィンはそう感じていないため二人の感情に差が開き、リーヴェスは戸惑いの表情を見せた。
 フィンはふわっと笑みを浮かべると、リーヴェスを見つめて口を開く。

 
「リーヴェス様を責めるなんてとんでもありません。僕はリーヴェス様の激励もあって、あの場に自信を持って立てたました」


 フィンがそう言い放つと、ライトニングは「人格者だな」と小さく呟く。
 激励をしたつもりではなかったが、フィンにとってはそう聞こえていたことも事実。リーヴェスはフィンの鈍感さに驚きつつも、そう捉えることの出来るポジティブさに何も言えずただフィンの話を聞いた。


「ミネルウァは庶民の子が多いです。なので、そんな子達に少しでも自信を持ってもらえたらと思って必死だったのですが、あの場に立って魔法を使うとなんだかワクワクして。僕、純粋に戦いを楽しんでいました!」


 フィンは満面の笑みでリーヴェスに近付くと、リーヴェスに手を差し出す。


「あの……さっきすごく、楽しかったです。僕と戦ってくれてありがとうございました。今日はまだたくさんの競技が残ってますけど、お互いがんばりましょうね」


 フィンは目を細め愛らしい笑みを浮かべながらリーヴェスを見上げると、リーヴェスは目を見開き動揺を示す。


「あっ……ご、ごめんなさい僕貴族じゃないのに!無礼でした!」


 フィンは安易に貴族に握手を求めてしまったことに気付き慌てて手を引っ込めるが、リーヴェスは少し考えた後その手を引っ張るようにして握る。


「構わない。お前の勝利に免じて今回は手ぐらいいくらでも握らせてやろう」


 相変わらずの上から目線な言葉だが、フィンは嬉しそうに笑みを浮かべてリーヴェスの手をぎゅっと握り返した。

 貴族の世界は華やかに見えるが、それだけではない。常に脅かされ、責務を持ち、歩み寄る笑顔には裏があることさえある。
 しかし、フィンの笑顔には一切そんな闇は見えず、心からリーヴェスに歩み寄ろうとする気持ちで溢れていた。いくら嫌味を言おうが、曇りのない心で接してくるフィンの気持ちを汲んだリーヴェスは、一瞬小さく笑みを浮かべた。


「……おめでとう。フィン・ステラ」


 リーヴェスはフィンの温かくて細い手を少し強く握ると、目を逸らしながら、小さい声でフィンの疾風走テンペスターの勝利を祝った。
 その様子を見ていたライトニングは、感心した様子でそれを眺める。


「ほう。リーヴェスをここまで絆すとはな。さすがはシルフクイーンから加護を受けるだけある。こんなにも見どころのある庶民は初めてだ」

「ありがとうございます」


 フィンはにこにこと笑みを浮かべると、ライトニングは二人の間に割って入り、フィンの目を覗き込むようにして顔を近付けた。


「それにしても、お前本当に男か?制服を誤魔化しているのではないのか?」


 眉間に皺を寄せ疑うライトニングに、フィンは目を見開く。


「はい、男です……やっぱり、見えませんか?」


 フィンは困り顔でライトニングにそう問いかけると、ライトニングは目を細める。
 鈍感でぼーっとしているフィンの慌てふためく姿が見たくなったライトニングは、ニヤッと笑みを浮かべてフィンを見下ろした。


「全く見えないな……」

「ごっごめんなさい……!」

「別に怒ってはいない。だが性別を偽っている可能性がある以上は見過ごせない。少し脱いでみろ」


 ライトニングの唐突な命令に、フィンは目を見開く。リーヴェスもまた、深く溜息をついて首を横に振った。


「ぬ、ぬぐんですか……?」

「あぁ。下を見れば私も納得する。どうした?脱いでみろ」


 ライトニングは淡々とそう指示するが、リーヴェスは困り顔でライトニングに声をかける。


「王子。さすがにこの場で脱げはダメですよ」

「そうか。確かにここは人通りがあるからな。ならばその空いている教室でいいだろ。フィン・ステラ、来い」

「え!?で、でもっ……」


 フィンは少し顔を赤らめながら動揺した様子で、半ば強引にライトニングに引っ張られ空き教室に入る。


「見張ってろリーヴェス」


 ライトニングはそう言って空き教室の扉を閉めた。


「……下心がないのは分かりますが、少々強引すぎますよ王子。この庶民が嘘を言っているワケないでしょう」


 リーヴェスはそう言いつつも、王子には逆らえないのか軽く溜息を吐いて言う通りに扉の前に立つ。


「お、王子……あのっ」


 ライトニングは動揺するフィンの表情を見ながら楽しそうに笑みを浮かべて椅子に座る。


「どうした?下を少し脱いで見せるだけでいい。王族の命令がきけないのか?」


 ライトニングの脅迫めいた指示に、フィンは顔を真っ赤にさせて俯く。
 いくらこの国の王子だからとはいえ強引な命令だと思うが、自分が疑われるような容姿なのも悪い、とフィンは自分にも非がある思考に切り替わりライトニングを見た。


「わ、分かりました……」


 フィンが逆らえないのを分かっているライトニングは、頬杖をつきながら笑みを浮かべた。
 フィンは制服のローブのボタンを少し外すと、半ズボンの制服のベルトに手をかける。カチャカチャと金属音が擦れる音が消えると、ボタンを外してチャックを下ろしていった。
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