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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
エスペランス祭 開会式③
しおりを挟む「うんわ、すんげーピアス……え、どこの貴族?」
セオドアは横に立っている、白髪オールバックのイデアルの生徒を見て目を見開く。両耳に大量のピアスをつけており、イデアルの中でも異質な存在だった。
セオドアの視線に気付いた白髪オールバックは、ニヤッと笑みを浮かべる。
「ピアス見てんのー?ベロにもあんで~」
白髪オールバックは変わった話し方をしながらセオドアの方を向き、上半身を近づけて舌を出す。舌には銀色の丸いピアスが顔を出し、それを見たセオドアは「おお!?」っと声を上げて驚きを示した。
「おいフォンゼル、やめたり。行儀悪いことしたらあかんで。ただでさえイデアルの中でも浮いてるんやから」
「アハハ」
白髪オールバックはフォンゼルという名前らしく、その前にいた白髪のポニーテールにしている男がフォンゼルを嗜めた後、セオドアを見てぺこりと頭を下げる。
どうやら双子のようで、顔がそっくりだったため、セオドアは目を見開いた。
「ふ、双子ですか?しかも西の訛り」
セオドアは珍しそうに二人を見ると、二人はニッコリと笑みを浮かべる。
「そーやで。遠い遠い西の貴族が、はるばるイデアルにご入学や。この穴だらけがフォンゼルで、僕がティオボルド、よろしゅー」
ティオボルドはセオドアに手を出し握手を求めると、セオドアは快くそれを受け入れ握手を交わす。
「俺はセオドア。今日は頑張ろうな」
フォンゼルはティオボルドに変わり手を差し出すと、にへらーっと笑みを浮かべる。
「イケメン君、ボクも」
フォンゼルはヘラヘラしながらセオドアに手を差し出すと、セオドアは笑顔で手を握った。
「……?(ハーブの匂い、か?)」
フォンゼルから微かにハーブのような香りがしたセオドアは、一瞬目を見開く。そしてそれが何かを問いかける前に、開会式が始める合図である小精霊のパレードが始まったため、セオドアはフォンゼルとティオボルドにに手を振って列に戻った。
「始まったな」
ルイは小精霊のパレードを見上げ、それを指揮する教師が誰なのかを確認すると首を傾げる。
桃色のロングヘアーで緩やかなパーマがかかっている可愛らしい女性のエルフが指揮をしており、ルイはこそっとフィンに耳打ちをした。
「おい、フィン。あれ。あんな教師いたか?」
開会式を盛り上げるスタッフは基本的に主催校の教師がメインとなる。見たことのない教師だ、とルイは訝しげに眺めていたが、フィンはキョトン顔で口を開いた。
「んー?ミュレーせんせーだよ?」
フィンが平然とそう言って首を傾げると、ルイが目を見開きもう一度小精霊のパレードを指揮する教師に目を向けた。
「え?ミュレー先生?あの瓶底メガネの?」
普段のリリアナは髪を三つ編みにし分厚いメガネをかけた野暮ったい印象だが、目の前にいるリリアナはエスペランス祭ということもあってか普段とは真逆で着飾った美しい女性へと変貌している。
他の一年生もリリアナの変身っぷりの驚き、手を振ってそれを応援した。
「ああー俺の嫁ぇ!なんて可愛らしい!」
エスペランス祭を見に来たジャスパーの兄メイソンは、関係者席にて妻であるリリアナの可愛らしさに涙を見せていた。
その様子を遠くからジャスパーが眺めており、恥ずかしそうに眉を顰める。
『エスペランス祭、開会式を始めます』
開始の声に、生徒達は一気に静まり返った。
『ミネルウァ・エクラ高等魔法学院学長 兼、王族特務・大魔法学士、ケイネス・ミネルウァのご挨拶です』
司会の声と共に、赤毛のハイエルフが登壇する。口髭を生やし髪は腰まで長く、厳かな雰囲気を放つ学長の姿。
どことなくエリオットに似ていると思ったフィンは、見比べながら笑みを浮かべた。
「秋の妖精が新緑を赤へと染める季節となる中、本日はまたとない好天に恵まれました。毎年恒例であるエスペランス祭を、今年もこうして無事に開催できることを心から嬉しく思います。
また、お忙しい中をお集り頂きました来賓の皆様ならびに保護者や関係者、民の皆様には心より御礼申し上げます」
厳粛な雰囲気になったのも束の間、ケイネスは大きな溜息を吐き、首を回してから前を見る。
「まあお堅い話はここまでにして、生徒の皆さん。何がともあれ今日は君達が主役だ。怪我が無いように、とは言わないが、まあ死なない程度に頑張ってくれ」
ケイネスはニヤッと口角を上げながらそう言い放つ。先程とはうってかわって、エリオットと似た雰囲気を放つその姿に、やはり親子だ、とフィンは目を輝かせた。
「そして最後にミネルウァの生徒!」
ケイネスの突然の大声に、ミネルウァの生徒達はピシッと背筋を伸ばす。
「毎年のことだが、ミネルウァは庶民の生徒も多く、“頭脳派”だなんて言われて、この祭りでは少々舐められる節がある。
だが私はそうは思わん。いくら魔力に優れようとも、頭やセンスが悪けりゃ宝の持ち腐れだ」
ケイネスはそう言いながら、来賓席に座るイデアルの学長“セレスタン・パラディール”を横目に見てほくそ笑む。犬猿の仲なのか、セレスタンは「ふん」と鼻をならし真顔のままだった。
エリオットはわざわざセレスタンに喧嘩を売るケイネスに対し、眉を顰め溜息を吐いた。
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