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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
エスペランス祭 開会式②
しおりを挟むミネルウァの生徒は、三年生を中央にして、両脇に大きくスペースをあけて左に一年生、右に三年生が順位順に整列する。
上から飛んできたイデアルとスレクトゥの生徒は、同じように三年生が中央のミネルウァ三年生の横に並んでいき、最終的に学校ごとの列ではなく、学年ごとに並んでいった。
一年生の列では、ミネルウァはイデアルとスレクトゥに挟まれる形で整列しており、フィンはチラッと左を向く。
「……」
フィンの左横には、イデアル魔法学院の生徒が次々と並んでいき、フィンは興味本位で横にちらっと視線を向ける。
そこには美しい金髪で長髪のハイエルフが凄まじいオーラを放ちながら立っており、まっすぐと前を見据えていた。
「(キラキラな金髪だ~!この前のパーティーにいた第一王子と同じ色!)」
フィンの視線に気付いたハイエルフは、フィンを見下ろすようにして視線を向け、困惑した表情を浮かべる。
「……?(なんだこの女、堂々と私を見るなんて変わってる)」
フィンは金髪のハイエルフと目が合うと、にぱーっと笑みを浮かべた。金髪のハイエルフは首を傾げる。
「フィン、前向け。王子をじろじろと見るな」
後ろにいたルイは「いいか、第三王子だぞ」と小声でフィンに囁き、頭を前へ向かせる嗜めると、ハイエルフにお辞儀をする。
ミネルウァは成績主義で貴族と庶民の階級の差は学園内では不問となるが、イデアルはその真逆で貴族至上主義のため無礼は許されない。
ルイは王城に寄宿している身のため、ハイエルフと顔見知りなのか慣れた様子で口を開いた。
「申し訳ありません、ライトニング王子。この者は庶民の出。王子の稀有な髪色に興味を持った様子です。ご無礼をお許し下さい」
フィンはルイの言葉に目を見開き冷や汗を垂らす。
「(お、王子様だったんだ……どうしよう……謝ったほうがいいかな)」
フィンの焦っているオーラがライトニングに伝わったのか、ライトニングは鼻で笑い前を向く。
「ルイ、いたのか。まあ気にするな。淑女の視線など、昔から慣れている」
自信満々に笑みを浮かべながら言うライトニングの言葉に、フィンはおずおずと口を開いた。
「あの……男です……」
フィンの細やかで遠慮がちな訂正に、ライトニングは思わず顔を顰めフィンを見下ろす。
「男?」
ライトニングはグイッとフィンの顔を掴んで顔をまじまじと見つめ、ルイは大きな溜息を吐いてその場を見守った。
ふにふにとした柔らかい頬の感触、ぱっちりとした純粋な瞳、舐めると甘そうな淡いピンクの唇、雪のように白い肌。
ライトニングはしばらくフィンを見つめると、パッと手を離し口角を上げる。
「ふん。この私の目を欺くとはやるな。性別など別にどうでもいいが、貴様ミネルウァの一年生の列先頭か。ということは第一位ということだろう?」
ライトニングの問いかけに、フィンは小さく頷く。
「奇遇だな。私も一年の第一位だ。庶民の出であるお前に一位の看板は重かろう?今日、この私がその看板を壊してやるから覚悟しておけ」
ライトニングはフィンに顔を近付けて美しい緑眼で睨み付けると、フィンは嫌味が通じていないのか、ニコッと満面の笑みを浮かべる。
「はい!よろしくお願いします!」
「…………(第一位とは思えない馬鹿面だな)」
お花畑のようなほんわかとしたオーラを纏い、元気よく返事をするフィン。
調子が狂ったライトニングは、咳払いをして再び前を向き鼻を鳴らした。
「(ライトニング王子を黙らせるなんて、すごいなコイツ)」
ルイはライトニングが反応に困ったことが面白かったのか、フィンの後ろで必死に笑いを堪えていた。
次にフィンは、右を向いてスレクトゥの生徒を確認した。自分と似たような背丈の紺色の髪の少年で、背中には大剣を背負っている。
フィンの視線に気付いた少年は、ちらっとフィンの方を見た。フィンは目が合うと嬉しそうに笑みを浮かべたため、少年もつられてにぱっと笑みを浮かべた。
「同い年で俺と同じくらいの身長のエルフ、初めて見ました」
少年は人懐っこい様子でフィンに話しかけると、フィンは嬉しそうに頷く。スレクトゥの制服は、胸当と腰当の鎧があるため、動くたびにカシャッと音がした。
「僕もです」
「お名前は?」
少年はニッと歯を見せて笑うと、フィンは嬉しそうに口を開く。
「フィン・ステラって言います!」
「俺はライノア・ハスティングスだ。よろしくねフィン君。君、ミネルウァの第一位なんだ。賢いんだね」
「そんなことないです!あの、ライノア様も第一位なんですか?」
「まあね。でもミネルウァと違ってこっちの一位だけど……。今日は正々堂々、頑張ろうね」
ライノアは肩に背負った剣を指さすと、歯を見せてニカッと笑みを浮かべる。
「はい……!(いい人だぁー!)」
フィンはそう言って笑顔でライノアと話し終えると、振り返って嬉しそうにルイに笑みを浮かべる。
「……嬉しいのか、よかったな」
ルイはやれやれと溜息を吐きながらポンポンとフィンの頭を撫でた。
「でもお前、あまり簡単に話しかけたりしちゃダメだからな?いい奴ばっかりじゃないぞ」
「?わかったー」
フィンはしょぼんと眉を下げて頷くと、前に向き直り開会式に臨むのであった。
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