上 下
99 / 318
一年生・秋の章 <エスペランス祭>

エスペランス祭 開会式②

しおりを挟む

 
 ミネルウァの生徒は、三年生を中央にして、両脇に大きくスペースをあけて左に一年生、右に三年生が順位順に整列する。
 上から飛んできたイデアルとスレクトゥの生徒は、同じように三年生が中央のミネルウァ三年生の横に並んでいき、最終的に学校ごとの列ではなく、学年ごとに並んでいった。

 一年生の列では、ミネルウァはイデアルとスレクトゥに挟まれる形で整列しており、フィンはチラッと左を向く。


「……」


 フィンの左横には、イデアル魔法学院の生徒が次々と並んでいき、フィンは興味本位で横にちらっと視線を向ける。
 そこには美しい金髪で長髪のハイエルフが凄まじいオーラを放ちながら立っており、まっすぐと前を見据えていた。


「(キラキラな金髪だ~!この前のパーティーにいた第一王子と同じ色!)」


 フィンの視線に気付いたハイエルフは、フィンを見下ろすようにして視線を向け、困惑した表情を浮かべる。


「……?(なんだこの女、堂々と私を見るなんて変わってる)」


 フィンは金髪のハイエルフと目が合うと、にぱーっと笑みを浮かべた。金髪のハイエルフは首を傾げる。


「フィン、前向け。王子をじろじろと見るな」


 後ろにいたルイは「いいか、第三王子だぞ」と小声でフィンに囁き、頭を前へ向かせる嗜めると、ハイエルフにお辞儀をする。
 ミネルウァは成績主義で貴族と庶民の階級の差は学園内では不問となるが、イデアルはその真逆で貴族至上主義のため無礼は許されない。
 ルイは王城に寄宿している身のため、ハイエルフと顔見知りなのか慣れた様子で口を開いた。


「申し訳ありません、ライトニング王子。この者は庶民の出。王子の稀有な髪色に興味を持った様子です。ご無礼をお許し下さい」


 フィンはルイの言葉に目を見開き冷や汗を垂らす。


「(お、王子様だったんだ……どうしよう……謝ったほうがいいかな)」


 フィンの焦っているオーラがライトニングに伝わったのか、ライトニングは鼻で笑い前を向く。


「ルイ、いたのか。まあ気にするな。淑女の視線など、昔から慣れている」


 自信満々に笑みを浮かべながら言うライトニングの言葉に、フィンはおずおずと口を開いた。


「あの……男です……」


 フィンの細やかで遠慮がちな訂正に、ライトニングは思わず顔を顰めフィンを見下ろす。


「男?」
 

 ライトニングはグイッとフィンの顔を掴んで顔をまじまじと見つめ、ルイは大きな溜息を吐いてその場を見守った。
 ふにふにとした柔らかい頬の感触、ぱっちりとした純粋な瞳、舐めると甘そうな淡いピンクの唇、雪のように白い肌。
 ライトニングはしばらくフィンを見つめると、パッと手を離し口角を上げる。


「ふん。この私の目を欺くとはやるな。性別など別にどうでもいいが、貴様ミネルウァの一年生の列先頭か。ということは第一位ということだろう?」


 ライトニングの問いかけに、フィンは小さく頷く。


「奇遇だな。私も一年の第一位だ。庶民の出であるお前に一位の看板は重かろう?今日、この私がその看板を壊してやるから覚悟しておけ」


 ライトニングはフィンに顔を近付けて美しい緑眼で睨み付けると、フィンは嫌味が通じていないのか、ニコッと満面の笑みを浮かべる。


「はい!よろしくお願いします!」

「…………(第一位とは思えない馬鹿面だな)」


 お花畑のようなほんわかとしたオーラを纏い、元気よく返事をするフィン。
 調子が狂ったライトニングは、咳払いをして再び前を向き鼻を鳴らした。


「(ライトニング王子を黙らせるなんて、すごいなコイツ)」


 ルイはライトニングが反応に困ったことが面白かったのか、フィンの後ろで必死に笑いを堪えていた。

 次にフィンは、右を向いてスレクトゥの生徒を確認した。自分と似たような背丈の紺色の髪の少年で、背中には大剣を背負っている。
 フィンの視線に気付いた少年は、ちらっとフィンの方を見た。フィンは目が合うと嬉しそうに笑みを浮かべたため、少年もつられてにぱっと笑みを浮かべた。


「同い年で俺と同じくらいの身長のエルフ、初めて見ました」


 少年は人懐っこい様子でフィンに話しかけると、フィンは嬉しそうに頷く。スレクトゥの制服は、胸当と腰当の鎧があるため、動くたびにカシャッと音がした。


「僕もです」

「お名前は?」


 少年はニッと歯を見せて笑うと、フィンは嬉しそうに口を開く。


「フィン・ステラって言います!」

「俺はライノア・ハスティングスだ。よろしくねフィン君。君、ミネルウァの第一位なんだ。賢いんだね」

「そんなことないです!あの、ライノア様も第一位なんですか?」

「まあね。でもミネルウァと違ってこっちの一位だけど……。今日は正々堂々、頑張ろうね」


 ライノアは肩に背負った剣を指さすと、歯を見せてニカッと笑みを浮かべる。


「はい……!(いい人だぁー!)」


 フィンはそう言って笑顔でライノアと話し終えると、振り返って嬉しそうにルイに笑みを浮かべる。


「……嬉しいのか、よかったな」


 ルイはやれやれと溜息を吐きながらポンポンとフィンの頭を撫でた。


「でもお前、あまり簡単に話しかけたりしちゃダメだからな?いい奴ばっかりじゃないぞ」

「?わかったー」


 フィンはしょぼんと眉を下げて頷くと、前に向き直り開会式に臨むのであった。

しおりを挟む
感想 153

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

処理中です...