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一年生・冬の章
王族特務集結①
しおりを挟む秋に行う予定だった王族特務会議は、シルフィーの諜報調査の期間延長および第三王子・ライトニングの負傷により、冬に開催される運びとなった。
王都は最も四季がはっきりとしている地域としても有名で、冬になると北部ほどではないが雪もちらつく。
そんな中、王族特務のメンバーは“王族特務会議”に招集され、大聖堂のような広さの会議室に用意された椅子の後ろにバラバラに立っていた。
「いやあー久しぶりに全員揃ったなあ。なぁリヒト、しばらく見ない間に随分と髪が伸びたか?ワッハッハッ」
リヒトに肩を組んで馴れ馴れしく話しかけるのは、ジェラルド・ベイカー。リヒトと同じ王族特務に就いており、役職は“大魔槍士”となる。言わずもがな、ルーク・ベイカーの父親でベイカー公爵家の現当主だった。
「……別に、変わりませんよ。元々私の家系は長髪の方が魔力が安定するのでずっとこうしているだけです」
シュヴァリエ家は代々長髪の家系であることを伝えるリヒトに、ジェラルドは納得したように笑みを見せる。
「ああーそういえばそうだったか!忘れてたぜハハハッ!そんなことより、うちの息子を働かせてくれてサンキューサンキュー!どうだアイツはー?全然役に立ってないだろー!?」
ハイテンションでリヒトに話をし続けるジェラルドに対し、リヒトは真顔を崩すことなく少し面倒だと言いたげな声色で返答をする。
「分かっているなら、何故ミスティルティンに預けるんです」
リヒトは肩を組まれるも振り払うことはせず、眉を顰めながら横目でジェラルドのエメラルドの瞳を見て嫌味を言った。
「いやー、我ながら恥ずかしい話だが、槍の以外のことを教えるのは苦手でな。ああいう社会勉強も必要かなあと思って」
テヘッと照れた笑みを見せるジェラルド。
「……うちで何を学べているか、私には見当もつきませんが」
リヒトが軽く溜息を吐いてそう答えると、ジェラルドは優しくリヒトに笑いかけた。
「変わったよ、息子。楽しそうに笑うようになった」
「……?」
リヒトは何も言わず、チラッとジェラルドの方を見た。
「タバサさんだっけ?ルークが公爵家と知っても厳しく指導してくれている。ルークは元々特別扱いされるのは嫌でねー。それが嬉しかったみたいで、怒られても楽しく働いてるよ」
公爵家の跡取りという重い看板を生まれながらに背負うルークは、幼少期から貴族としての矜持や所作を叩き込まれ、さらには槍の修行に明け暮れていた。
ジェラルドはもっと広い視野を持たせようと、庶民も訪れるミスティルティン魔法図書館にルークを働かせる事を熱望したという経緯があった。
「我々王族特務は国を守るための機関で、即ちそれはこの国に住む民を守ることになる。そう言った意味では、貴方の行動は正しいかもしれません」
ミスティルティンを通して庶民と触れ合う機会を設けることは、これから背負う命を実感することに等しい。訪れる客の笑顔に触れれば、守護をするという責務の重さと命の尊さを感じることが出来る。
リヒトがジェラルドの行動を肯定すると、ジェラルドはにぱっと屈託のない笑みを浮かべたため、リヒトは咳払いをし眉を顰めた。
「三年間だけという約束だから受けたんですよ。ハッキリ言ってルークは重要図書の護衛業務しか役に立ってません」
真顔でズバッとそう言ったリヒトに、ジェラルドは目を丸くした後大きな声で笑った。
「まあ、腕っぷしはそんじょそこらの護衛より遥かに役に立つだろうさ!ああ、そういえば最近は、可愛い後輩が入ってきてもっと楽しいって言ってたな」
リヒトの右眉がピクリと動く。
「可愛い後輩……?」
そんなのはフィンしかいない、とリヒトはジェラルドを睨むも、ジェラルドは嬉しそうに笑みを浮かべたまま話を続ける。
「そうそう。その後輩の出来が良すぎて最初は落ち込んでいたが、随分と良い子みたいで、最近は弟のように可愛がってるらしい。会ってみたいな~」
「会わせません」
リヒトは即答する。
「え?なんでリヒト、お前が答えるんだ?」
ジェラルドは目を丸くする。
すると、その間に割って入る人物が笑みを浮かべてリヒトに肩を組んだ。
「そりゃあ、その後輩ってのはリヒトの大事な大事なコレですからね。」
その人物は小指を立てながら不敵な笑みを浮かべる。
「おぉっ!?こりゃ驚いた、第一王子」
この国の第一王子、アレクサンダー・ローザリオンは、全く気配を感じさせず2人に近づいていたため、リヒトもジェラルドも一瞬目を見開いた。
「久しいなジェラルド」
計り知れない王族の能力を垣間見た二人。リヒトは軽く溜息を吐く。
「無駄に気配を消すな。そして余計なことをペラペラ言うな」
リヒトは肩を組むアレクサンダーに対し眉を顰める。
「なんだ、別に隠してないんだろう?」
アレクサンダーはそう言って軽く笑いながら前へと歩みを進め振り返り、赤の王族マントを慣れた手つきで翻した。
王族特務の椅子七つは横一列に並べられ、それに向かい合うように王の椅子が一つ。
アレクサンダーは王の椅子の前に立つと、堂々とした表情で口を開いた。
「さて。王族特務、揃ったか?」
アレクサンダーの問いかけに、一同は静まり返り王族に対する礼儀として目を閉じ次々に一礼する。それはリヒトも例外ではなく、全員が一礼した後、リヒトも同じようにして一礼をした。
それを確認したアレクサンダーはニコッと笑い「直れ」と一言発すると全員が顔を上げる。
「悪いが我が父、ターミガン王は多忙だ。今日の招集に関しても私の独断だが、王が国を空けている間は私が王代理として動くことはもちろん許可を得ている。賛同願っても?」
アレクサンダーの問いかけに、王族特務達は拍手をすると、アレクサンダーはニコリと笑みを浮かべる。
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